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「しゃべるピアノ」【ショートショートnote杯】

 ゴミ捨て場でしゃべっているアップライトピアノの正体は、野生化した稲垣足穂だ。

 ゴミ捨て場の前を通りかかる際に聞こえる断片的な言葉だけで、そう判断が出来るほどに、私は足穂の「一千一秒物語」の大ファンなのだ。足穂と話し込みたかったが、持ち主と勘違いされては敵わない。

 野生化した文豪が社会問題になって久しい。
 文豪は文章で何でも出来る。復活も変身も巨大化も。
「ピアノになった私は、ひどい音色しか出せなかったので、持ち主に捨てられた」
 と書けばその通りになるのだ。

「一千一秒物語」刊行は足穂二十三歳の頃。ピアノの話す内容は、晩年の面倒臭そうな足穂であった。

 数日して、黒鍵一つくらい持ち帰って家に置こう、と決心した。一つくらいならそれほどうるさくないだろう。むしろちょうどいい感じに新たな「一千一秒物語」を呟いてくれるかもしれない。

 翌朝、ゴミ捨て場で私が見たのは、巨大化した三島由紀夫の手で運ばれていくピアノの姿であった。

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泥辺五郎
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