第3話 転校
小学5年生の6月、我が家は隣2駅先の街に引っ越すことが決定した。
「あんた、まだ小さかった頃、家に階段がほしいって言ってたの覚えてる?」
「全然覚えてない、そんなこと言ってたんだ。」
「ま、あんた、まだ小さいから覚えてないのも無理はないか。ママね、それを聞いて、マイホームを持つのが夢になってたのよ。」
それから数日後。新居を見に行くことになった。3階建ての戸建て。近所には神社があり、緑にも囲まれた閑静な住宅地だった。
「ママ、家に階段があるね!」
私は新しい家に大はしゃぎだった。しかし、帰りの車の中でふと我に帰った。
「ねえ、新しい家に引っ越すってことは、学校転校するの?」
車を運転していた、お父さんが静かに頷いた。
仲のいい友達とお別れしないといけない現実が急に私の奥底を突いてきた。
それと同時に、伊藤くんとも会えなくなってしまうことが頭をよぎった。
「転校して、お友達と別れ離れになるのは辛いと思うけど、流石に毎日今の学校には通えないわ。」
そう言った、お母さんの顔が寂しそうだった。私は現実をすぐに飲み込むことにした。
「そうだね、わかったよ!」
こうして、新しい家の引っ越しと共に学校を転校することになった。
「そうそう、転校の時期は新学期の9月からで手続きしてるわ。夏休みの林間学校は行けるから安心してね。」
7月の上旬、林間学校に向けたオリエンテーションがあった。
持ち物の確認、グループ分け、キャンプファイヤーの時に歌う歌の練習……色々と楽しいイベントがたくさんあって、今にも待ち遠しい気持ちと、この林間学校が友達との最後の思い出になること、2つの気持ちが入り交じり、言葉に出来ない感情でいた。
オリエンテーションが終わり、家に向かう帰り道。
「おーい、杉山。お前林間学校が終わったら転校しちゃうんだろ?」
話しかけてきたのは、隣のクラスの安田くん。時々ちょっかい出してくる、絡むと若干めんどくさい男の子だ。
「うん、そうだよ。」
「まじだったんだ。お前がいなくなると、ちょっかい出せる奴がいなくなるなあ」
「こっちだって、ちょっかいがもうなくなって平和になれると思ったら清々するわ」
「お前さ、好きな人とかいんの?」
「え、いきなり、なんなの。」
「いいから、誰にも言わないし、教えてよ」
転校してしまうことだし、今まで誰にも言っていなかったけど、何かが吹っ切れたように告げた。
「……伊藤くん」
「まじで? あのガリ勉がタイプなのかよ。転校する前に告白とかしないの?」
「するわけ無いでしょ。1,2年の頃はクラス一緒だったけど、それ以外はクラス別々だし。」
「じゃ、手紙書けよ。俺、あいつとはサッカーしたりするから、様子見て渡してやるよ。」
「安田くん、ただのうるさい人じゃなかったんだね、見直したよ」
「う、うるせーな、じゃ、俺この角曲がるから。手紙書けたら、俺に渡せよな!」