ジンズー
初恋はレモンの味。でもその先は・・・? 苦くて甘酸っぱさが残るレモンのような初恋。 すれ違いが生じたことに気づいていないだけで本当はその先があるのかもしれない。
小学5年生の6月、我が家は隣2駅先の街に引っ越すことが決定した。 「あんた、まだ小さかった頃、家に階段がほしいって言ってたの覚えてる?」 「全然覚えてない、そんなこと言ってたんだ。」 「ま、あんた、まだ小さいから覚えてないのも無理はないか。ママね、それを聞いて、マイホームを持つのが夢になってたのよ。」 それから数日後。新居を見に行くことになった。3階建ての戸建て。近所には神社があり、緑にも囲まれた閑静な住宅地だった。 「ママ、家に階段があるね!」 私は
僕の初恋は小学1年生。 入学式当日、母さんが僕に蝶ネクタイを付けてくれた。いつもテンションが高い母さん。今日は更に高い気がする。小学校ってそんなに楽しいところなのかな…… そうこうしているうちに、学校に行く時間になった。 「小学校って庭が広いんだな……」 校庭を眺めていたら、カールした髪の毛の背の低い女の子が僕の前を横切った。その子は、お父さんと手を繋いでいたが、女の子のほうが先を歩いていて、お父さんが引っ張られている感じだったのが印象的だった。 体
私の初恋は小学1年生。 「この足し算がわかった人から先生の机にノート持ってきて下さい」 私は鉛筆が進まぬノートをひたすら眉を狭めながらにらめっこしていた。 クラスの大半が回答がわかり次の問題を問いていた。見かねた先生が言った。 「イトウくん、杉山さんにさっきの問題の解き方を教えてくれるかな」 イトウくんは、頷き私の机に自分のノートを持って教えてくれた。 「足し算がわからないときは手を使って数えるんだよ」 嫌いな算数が少しだけ好きになったように、イトウ
第11話 ーペチュニアの花ー(完) 習字教室から帰ってきた咲良は、リビングで花を生けている杏子に会った。 「お帰り〜」 そう言って花に集中している杏子。 咲良は生けている花の素朴な佇まいが気になった。 「そのお花なんていう名前なの?」 「これはね、ペチュニアという名前なのよ」 「へぇ!シンプルだけど一輪あるのと無いのとで印象が変わるね」 「そうかもね」 杏子は優しく微笑んだ。 「この花は面白くてね、咲いている
すっかりとしたイチョウの葉が黄色く色づく休日、咲良は洗濯物を干していた。 平日は1時間程度乾燥機にかけるが、休みの日は太陽の下で干したくなる。 外は少し寒くなり手が悴む。 ふとハンガーにかけたカーディガンが風に煽られするりと隣のアパートの駐輪場に落ちた。 「あ…」 思わず声が出る咲良と、丁度出掛けようと自転車の鍵を解除してた、細めのフレーム眼鏡が良く似合う青年と目があった。 「すいません。その洗濯物、私のです。すぐそちらに取りに行
この日、咲良は一果と近所の沖縄料理屋で飲んでいた。 ゆったりとした沖縄リズムが流れる店内。心も落ち着く空間。 何よりここのもずく天ぷらが実に美味しい。 一果はクールでめんどくさいことを嫌う性格。に見えるが、実は心の奥に暖かいものを持っているそんな性格。 この日は珍しく一果から咲良に飲みに行こうと声をかけた。 最近の咲良の様子が気になっていたのだ。 そんな一果との会話はアイドルの話。 一果は清楚で控えめなアイドルが好きで咲良と意見が合う。
咲良は真司と別れてから1ヶ月。 未だに悶々と謎の感情が頭の中に居座っていた。 真司のことがまだ完全に嫌いにはなれない。 しかし、なぜそんな男に惚れてしまったのだろう。 自分の嫌だと思う感情になぜ蓋をしていたのか。 もっと自分の感情をさらけ出し、相手に伝えていれば二人の距離は縮まったのだろうか。 段々と好きだっという感情から、後悔と反省が入り混じる感情が込み上げてきていた。 咲良は一人リビングで会社に行く身支度をしていた。 そこに桃子が朝食の
蝉の大合唱が始める真夏の朝7時過ぎ、咲良は出かける準備をしていた。 今日は真司のワンマンライブの日なのだ。この日の為に真司は新曲アルバムも作り、お客さんを楽しませる施策を考え込んでいた。 そんな姿を身近でみていた咲良は楽しみにしていた日であった。 ステージが始まる前の真司は真剣な眼差しが印象的で、咲良は話しかけるのを躊躇していた。 しかし、真司は咲良に気がつき、笑顔で声をかけた。 「おお〜咲良!来てくれてありがとう。」 咲良は笑顔を返した。
真司の歌を聴きながら仕事の準備をする咲良。上機嫌だ。 付き合いたてと言うのはどうして胸の奥底が落ち着かないのだろうか。 何を着て行こう。昨夜から用意していた洋服もいざ当日になると気分的に違うような気がして、また一からコーデを考え直す。 女という生き物は好きな人の前ではいくつになっても可愛くありたいものだ。 付き合って2ヶ月。咲良と真司は近すぎず遠すぎずな距離感をほどよく保っていた。 今日は3回目のデート。と言ってもお金のない真司とのデートはもっぱら、浅草か
咲良は真司との落語デートまで、真司の歌や動画をたくさん聴いた。 物がありふれている今の時代には珍しい貪欲で素直な歌詞、お世辞にも売れてるとは言えないが、それでも前を見て歌い続ける姿勢…… 咲良はいつのまにか真司に惹かれていった。 落語デート当日、待ち合わせ場所に真司は下駄を履いてきた。 この人変わってる……と、思うのが普通なのだろう。 しかし、咲良は人と違う所に魅力を感じた。 下駄が鳴らす甲高い音色が商いを終え閑散とした浅草の夜を色付けた。
桃子には6年付き合っている彼氏がいる。 桃子は会社の辞令で名古屋からこのシェアハウスに引っ越してきた。 転勤辞令が出たタイミングで彼氏からプロポーズを受け婚約をしてから東京に来た。 桃子の彼氏は若くして家業の貿易会社の役員を務めている。 桃子が今の彼氏、涼と付き合い始めたのは丁度、桃子が、26歳の時。 当時務めていた会社の取引先の営業マンだった。 この頃の桃子は職場の人間関係に悩んでいた時期だった。 苦手なお局とウマが合わず、嫌がらせを受けていた
咲良はこの日、友人が務めるジャスバーに足を運んでいた。 何人かの歌い手を集めた小規模なライブだった。 そこで、トップバッターで弾き語りをしていたのが、「真司」との出会いだった。 彼の歌詞は粗いのだけれども、人間の奥底に秘めた感情を恥ずることなく素直な歌詞にしていた。 そして、ジャズバーの店内に溶け込むアコースティックギターの奥深いメロディ。 真司の歌を聴いて、咲良は目の奥がじんわりとした。 真司が歌い終わると咲良は彼のことを無意識に目で追ってい
このシェアハウスはオープンしたばかりの女性専用の二階建ての一軒家。 咲良は今日からこの家に住む。 小鳥のさえずりが聞こえる早朝から荷物をせっせと運ぶ咲良。 シェアハウスには、棚や机、ベッドは備え付けがある為、引越し業者を頼むほどではなかった。 しかし、乱雑に運び終えた段ボールから、衣類、日用品、化粧品を並べていく作業は結構大変だ。 夕方になり荷物整理も一段落した頃、咲良のドアをノックする音がした。 「こんばんは〜。私E号室の桃子です
自分の部屋に戻った咲良は頭に血が上り、沸々とした感情をエネルギーにして、部屋探しを始めた。 といっても、人と話すのが好きで、営業職に就いた咲良が、一人暮らしを始めたら、寂しくなりホームシックになるのは目に見えている。 一度出ると決めたらそう簡単にぬくぬくと実家には帰りたくない。 とすると、昔から憧れていた、心許せる友人とルームシェアするというのはどうだろうか… いや、正直そんな都合よく一緒に住んでくれるなんて難しい。 そうだ、シェアハウス。
誰かが悪いとかではなくて、純粋な心は時として、人の欲望につけ込ませる魔の力を秘めている。 梅の花が咲き始める頃、咲良はこの家に越してきた。 東京生まれで同じ都内に引っ越した。引っ越す必然性はあまりないが、なんとなく自分の人生を環境からガラリと変えたかったのだ。 お正月に親戚が集まり、挨拶もつかぬ間に、叔母は私の年齢を聞いてきた。 26歳……… 余計なお世話だ、全く。咲良の家系は結婚が遅く、自分の子にはもっと早く家庭を持って欲しいとの気持ち