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カタユデタマゴ

一杯の苦い自我が注がれる午後三時
生まれたばかりの地球を銀のスプーンで溶かしながら
即自の海をやけどしないように飲み干す

神は言った、
われらの像(かたち)に、われらの姿に似せて、人を造ろう。
(創世記1:26)

ニュートンのリンゴの木の末裔をどこかで見たことがある(それは外国だったかもしれない)。今ぼくの眼の前には不思議なリンゴの木がある。てっきり枯れたものと思っていたのだ。それは冬の間にすべて葉も落として見上げるような長い一本の棒と化していた。原初の闇のなかで神々に気づかれないように巨人が「地」に突き刺したまま残していった魔法の杖。それが春になって天辺に新緑の葉を広げ始めた。それら無数の緑色の掌のうえには「空」が鎮座している。「空」がたばこの煙みたいにぷかりぷかり吐き出すのはアロマ=卵である。吉岡実の「卵」を抱卵しているのははたしてだれ? 殻のない卵、宇宙の脳、春の帽子から地球が出てくる。エロヒムの手品を忘れることなかれ!

天の水と地の水を分ける蒼穹が現れる
不可視の元型が起き上がる
一本の長い棒のような闇を懐に隠し持つ
去っていった巨人がふたたび姿をあらわす

        *

表象の雨に打たれる
カント=ぼくの肌身に”時間”が点描する
仮象の輝き
巨象の踏み痕
寒気団暖気団寒冷前世

経験の有限性と真理の絶対性
経験の側にある有限と真理の側にある無限
その間にあるおそろしい断絶が君には見えるか?
その底が見えない断絶の仲介者を「人間」と名づけよう!

”原初の闇”における一階級として物質は”幽靈”である
すなわち人間は”幽靈”ではないかぎり物質ではない!
(そうでなければ)
われわれは”初めから”幽霊なのである・・・

        *

眼の前に「唯物論反駁」の法廷に置かれた卵がある
このカタユデタマゴを割る
午後三時の孤独

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