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イム・ジヨン、チュ・ヨンウ出演【オク氏夫人伝】感想。2025年のおすすめ時代劇の一本に。


はじめに

 まだ始まったばかりの2025年、早くも忘れられない時代劇と出会ってしまった。その名も【オク氏夫人伝】。劇中の言葉をかりて本作を紹介するとすれば、"奴婢として生まれながら、逆境の中で人々を助けた蘆会(ろかいという植物)のように強い外知部(弁護士)の物語"だ。完走後の余韻が続く一作でもあり、本記事では見どころを書き残しておきたい。

あらすじ

 奴婢として生まれたクドク(イム・ジヨン)は、ひどい扱いを受けながらも、両班のキム家の使用人として働いていた。そんな彼女の密かな願いは、この家から父と共に逃げて海辺の家でゆっくりと生きること。その夢を叶えるために密かに資金を貯め、準備を重ねていたある日、ソン・ソンイ(チュ・ヨンウ)と運命の出会いを果たす。実は彼は、クドクの主人であるキム・ナクスの娘ソヘ(ハ・ユルリ)のお見合い相手だったのが、ボタンの掛け違いからクドクとソンイが心を通わせていると誤解されてしまい……。

一貫した脚本

 「身分を偽るしかなかったクドクが、外知部として人々を弁護しながら生き続けたとして、その結果は果たして悪なのだろうか。」この問いを、様々な角度から視聴者に投げかけていく本作。メッセージは最初から最後までブレることなく一貫しているのが、とにかく心地よい。そして、階級や噂で人柄を判断せず、今この瞬間を自分の目で見ながら生きてみないかと思わせてくれる作品だと思う。

お仕事ドラマであり、壮大な純愛物語

 クドクが夢を叶えようとした波瀾万丈な物語であり、ソンイの一途な愛の物語であるいう点が、本作の特に面白いポイントではないだろうか。まるでチームを作っていくように周囲の人たちと心を通わせ、生きるために選択を積み重ねていくクドクの姿は、どこかお仕事ドラマを観ている気分になる。並行して、彼女を一途に愛し続けたソンイの心情がしっかりと描かれているので、毎週感情ジェットコースターで先が気になり続けたのだと思う。

ロマンスとヒューマン、サスペンスなど、二つ以上のジャンルを混ぜて展開していくことは、混沌としてしまう難しさがあるが、本作は本当に丁度良い塩梅でまとめ上げられているので、一視聴者として没入感を一層感じたのかなと思う。

そして、結末から書き始めたのだろうか、と思うほど無理なく違和感なく展開していく脚本の面白さが最後まで心を離さない魅力がある。少し脱線するが、脚本家は【アンクル】の方。よくよく見ると、二つの作品でキャストが被っているのも納得だ。

唯一無二なイム・ジヨンの演技

 幼き頃に母を亡くし、かすかな希望が絶望に変わるたび、何度も心を無にしながら生きてきたクドク。心の底にある凄まじい復讐心を背負う彼女が、様々な喜怒哀楽の感情に出会っていくのだが、イム・ジヨンのこの感情の切り替えと表情の引き出しの多さが本当に凄まじい。劇中では、人の目から全ての光が消える瞬間を見た気がする…と実感せずにはいられないと思う。一瞬にして場を凍りつかせることも、温かい風を吹かせてみんなを抱きしめてしまうこともできる彼女の痺れる演技をぜひ本編で堪能いただきたい。

今大注目の俳優チュ・ヨンウの一人二役

 そっくりな顔をした県監の息子ソン・ユンギョムと、芸人のソン・ソンイ(後にソン・スンフィ)。運動神経抜群で感情をあまり表に出さず、強い信念を持つユンギョムが"静"だとすると、ソンイは"動"で、性格は真逆に近い。ソンイは、明るく常にポジティブで、目の前のことを笑いに変えようとするユーモアの持ち主だ。

そんな2人は顔が瓜二つという設定なのだが、出てきた瞬間に今どっちなのかがすぐ分かる演じわけが凄いポイント。眼差しに込めた強弱や、振る舞いなど、2人の違いがひしひしと伝わってくる。そして共通して宿るクドクへの尊敬を、違った形で表現しているのもまた見どころだと思う。

そして劇中では、チュ・ヨンウ演じるソンイの舞踊が見れるのだが、上手い…上手すぎて見惚れてしまう。

また、ダンスだけでも十分凄いのに、劇中の挿入歌(OST)も歌っているのだ。『WOODAHE』という曲なのだが、こちらもまためちゃくちゃ上手い。最近では、【トラウマコード】がNetflixで配信開始になり、今年の活躍ぷりに今からもう目が離せない!

主人公のような魅力溢れるサブキャラクター

 サブキャラクターが丁寧に描かれる作品ほど名作が多い気がするのだが、本作もその一つ。各キャラクターの始まりと終わりを描き切っている点と、親近感が湧くくらいに一人一人の個性が表現されている点が特に秀逸だ。全16話の中で物語を広げながらも、細部まで魂が宿っている感じが、この作品への愛を一層深く感じるポイントではないかと思う。

こんなに覚えられないよ…というくらい登場人物が居るのだが、きっと完走した時には「マンソクー!!!」など誰かの名前を呼びたくなるほど感情移入してしまっているはず笑。そしてクドクという共通点で繋がっていくことで、考え方や心情変化が訪れるのも見どころの一つ。バラバラだった彼らが一つのチームになっていく過程も観ていて夢中になる。

一貫したメッセージと、骨太な脚本。
そしてキャスト陣の熱演に、今年忘れられない時代劇の一本になった。普段時代劇を見ない方にもおすすめしたくなる。