【やくだつ原子】Vol.6 「窒素(N)」(後編)
本日の原子「窒素」
キーンコーンカーンコーン♪
ひこまる先生
「さて、今回も、次回に続き【窒素】を取り上げていきます。
まずは前回の授業を簡単に振り返りましょう。
それでは、喜多くんとカミィくん、お願いします」
喜多
「窒素の語源は、『窒息』からきている。そして、たんぱく質にも含まれているので、命の源にもなっている。ということは、生殺与奪の権を握った原子!」
カミィ
「オーロラは、原子が発光して起こり、窒素の場合はピンクや紫になる。ちなみに緑色に発光するのは酸素!」
ひこまる先生
「はい、ありがとうございます。
【窒素】は我々にとって、とても身近であり、重要な原子です。多量に吸い込むと窒息の危険がありますが、タンパク質の元になるなど、生きていく為には欠かせない原子です。そして、オーロラとなって、心の栄養にもなっています」
MAX
「うまい!!」
窒素による悪影響
ひこまる先生
「ありがとうございます(笑)
(前編)では主に、【窒素】の必要性について学んできましたが、(後編)では、【窒素】が関わる問題にも触れていきます。
最近ではあまり聞かれなくなりましたが、酸性雨や光化学スモッグなどの原因になっていたのが、【窒素】なんです。厳密にいうと、一酸化窒素などの窒素酸化物です。車の排気ガスに含まれており、環境に悪影響を及ぼしていました」
喜多
「光化学スモッグ!結局一度も学校が休みなったことがないアレですね!」
MAX
「前回の授業でも言っていた、便利と引き換えに犠牲にしたもの、ということですね」
ひこまる先生
「そうですね。そういったことから、環境問題として取り組むようになり、近年はなるべく窒素化合物の出ない車が開発されているので、以前よりは酸性雨などの被害は減ったり、光化学スモッグも減ってきました」
カミィ
「『せいをおかげに』していかないといけないですね」
ひこまる先生
「素晴らしい言葉ですね。せいをおかげにしていきましょう!
科学の進歩には、このような環境問題や、公害といった問題が付き物です。そういったことを忘れてしまっては、気が付けば窒息してしまうかもしれませんね」
喜多
「本当に問題なのは、人の心なのかもしれないですね」
多いのに足りない窒素
ひこまる先生
「本当にその通りです。人の心は、科学のようにわかりやすくないですよね。結局は、科学を扱う人次第で、善にも悪にもなるのかもしれませんね。
最後に、ちょっと変わったお話をしますが、【窒素】は必要不可欠な原子であることがわかりましたね。しかし、大気中の約8割が窒素であるにも関わらず、実は窒素は足りないのです」
喜多
「ちんぷん」
MAX
「かんぷん」
ひこまる先生
「不思議ですよね。窒素はとても安定している原子で、状態を変えるのが難しいんです。そのため、大気中の窒素の工業的利用は無理と考えられていました。
しかし、20世紀に入り、画期的な方法によって、窒素を直接利用することが可能になりました。
『空気からパンを作る話』という有名なエピソードがあります。ちょっと専門的なので、詳しくはこちらのテキスト(リンク)を、時間がある時に読んでもらえればと思います」
喜多
「パンがないなら、空気を食べればいいじゃない」
MAX
「マリー・アントワネット的な?」
カミィ
「『空気からパンを作る』って、それだけ聞いたらキリストっぽくて、どんなものか気になりますね」
空気からパンを作る
ひこまる先生
「気になりますか?それでは、簡単に説明したいと思います。
時は19世紀。ヨーロッパでは人口が急増し、食料生産に必要な肥料がとても不足していました。そこで、ドイツのハーバーさんが、肥料の原料となるアンモニア(NH3)を合成することを実験を行いました。アンモニアは、窒素(N)と水素(H)によって構成されています」
喜多
「アンモニアって、おしっこですよね?」
ひこまる先生
「そうです。尿に含まれる成分ですね。『Dr.STONE』でも、尿からアンモニアを抽出する所が描かれていましたね。
出典:『Dr.STONE』/集英社
ハーバーさんは、高圧、高温の環境を作り出し、大気中にある窒素を利用してアンモニアを作ることを可能にしました。そして、同じくドイツのボッシュさんが、アンモニアの大量製造に成功し、工業化させたことで、二人の名をとって『ハーバー・ボッシュ法』と呼ばれ、二人はその功績によって、ノーベル化学賞を受賞しているんですよ」
喜多
「それは凄いですね!」
カミィ
「厳密には、空気からパンを作るというより、肥料を作るということだったんですね」
ひこまる先生
「そうですね。空気からパンを、ポンッと作り出せたらすごいことです。パンの材料となる小麦を育てるための肥料を作り、食料や肥料不足を解消することが目的だったんですね。
ちなみに、アンモニアは人類にとって、とても重要な資源であり、年間で1.6億tも生産されています。科学の進歩により、ハーバー・ボッシュ法は今や過去の技術となっていますが、その一歩が無ければ今はない。とても大きな一歩だったと言えますね」
MAX
「そういうの積み重ねが、まさに科学なんですね」
ひこまる先生
「その通りです。科学者の一人として、科学の歩みを一歩でも進めたい。【やくだつ原子】も、その歩みの一歩になれたら、先生は嬉しく思います。
さて、【窒素】について学んできましたが、どのような印象が残りましたか?では、YMTさんからお願いします」
YMT
「やっぱりオーロラですね。美しさの裏にも科学があるんだなって思いました」
喜多
「窒素が、人間の生殺与奪の権を握っているということ」
MAX
「コーヒーを飲むときは、窒素に感謝します」
カミィ
「空気からパンを作る話って、錬金術みたいですね」
ひこまる先生
「皆さん、【窒素】について、とても詳しくなりましたね!名前は有名ですが、意外と知られていない原子だったのではないかと思います。科学の歩みには、便利と犠牲がつきものかもしれませんが、『せいをおかげに』ということを忘れずに、向き合っていきたいものですね。
それでは、授業を終わります」
【窒素】のまとめ
・大気の約78%を占めていて、窒息が語源になっている。
・人体を形成するタンパク質(アミノ酸)に、窒素が含まれている
・酸化を防ぐため、コーヒーやスナック菓子などの包装に窒素を封入する
・-196℃で液体窒素になり、超低温で冷やすことができる。
・オーロラの色は、原子で変わる。窒素はピンク色
・酸性雨や光化学スモッグの原因の一つだったが、「せいをおかげに」して改善している
・空気から肥料となるアンモニアを生成することで、パンを作ることができる
道楽舎では、「なりたつ原子」アニメ化プロジェクトを実行中!!物語にして小説化、漫画化、そしてアニメ化を目指しています!
「やくだつ原子」シリーズもプロジェクトの一環として、書籍化を予定していています。過去コラムも今のうちに要チェックです!