イベント参加レポート:地方アトツギジャーニー
DXの最前線
長年IT企業に勤め、私生活もITどっぷり。よく騒がれるハンコはもうずっと使ってないし、会社で紙を使うこともほぼない。そんな自分にとって、DXのムーブメントは身近なものでありながらどこか遠くの国の出来事に感じられるというのが本音だ。
そんな自分にとって、切実にDXを必要とし、またそうであるがゆえに決して小さくはない壁にぶつかっている現場の話は非常に興味深いものだ。何が、本質的な課題なのか。どう突破していくのか。そういった現場のリアルを感じたくて参加した。
自社開発とアジャイルで挑む昭和企業のDX道
小川電機
1963年設立
大阪に本社、営業所は関西を中心に36地点
社員数365人
売り上げ: 250億円規模
人間であればもうすぐ還暦を迎える、まさに昭和を生き抜いた企業。個人的には、それだけ長い間存続しているというだけですごいことだと思っている。そして、そういう企業が危機感をもってトランスフォーメーションできたら、本当に強い企業になりそうだ。
登壇者の大橋さん
マーケティング本部情報戦略課 課長
37歳(おない年!)
ホンネに触れる機会
2017年に、8名の中堅社員と経営層を交えた討論会に参加。様々な課題感に触れる
ホンネを掘り起こしたら、かなりドロドロしたものが出てきた
さきにやる事、あるんじゃない?
現場を知る
世の中を知る
見積り管理システムを使っているのになぜか電卓を叩いている
現場に特化し、すべてが口伝の秘伝の味噌状態
なぜか専務の机に置いてあった「カイゼン・ジャーニー」
スクラムチームが営業所の構成に似ていると感じた
タスクタワー構想を立ち上げる
市谷さんに直接構想を見てもらう機会が発生
こういったチャンスをものにする大橋さんもすごいが、あらためて市谷さんのアンテナとフットワークすごいな、と思わされる。
小川ジャーニーのはじまり
まずは見える化から始める。
前例もなにも無い、無いもの尽くし
システムは外注するものという先入観
わからないを前提としてすすむ
探検により少しずつわからないことがわかってくる
とにかく言語化する
とにかくコミュニケーションする
最初からフルリモート、コロナショックもなんのその
話を聞きながら、昭和企業でリープフロッグ現象が起きているのでは?と感じた。ITがまっさらだったからこそ、令和時代の最新のITプラットフォームをするっと導入することができる。もちろん変革する意思あってのことだが、もしかすると数年後には非IT企業のほうがITで進んでる…そんなことさえありえるように感じる。
プロダクトオーナーをまなぶ
「イイ感じ」への尽力
ウチとソト
ビジョンや戦略に寄り添い、組織のたえになるのか考え続ける
自分の一言がプロダクトの行く末を決める、という自覚
組織DXの意義を考える
なんのためのDXなのか
効率化?効率化できたあとは?
あとに残るのは企業の本質
経営層はビジョンを描きながらDX一体感を演出できるか
スーパーヒーローがやってきてお金払って解決だ!とはならない。覚悟が必要
RPAなど局所的な解決策ではVBA問題の再来が訪れるだけで、どんどんぶつかりながら鷹の目を獲得していこう…というのは説得力がある力強いメッセージだ。
変革ではなく変態を
自然と武器を身に着けられるように。「変革」という格式ばったものではなく、もともと持っていた強みを武器として磨いていくというのは、あるべき姿なのかもしれない。企業のアイデンティティも保てるしね。
ゼロから始めたアジャイルxフルリモートでのチーム開発
さきほどの大橋さんの話にあったフルリモート開発チームの西川さんの話。
西川さん
情報戦略課
入社二年目
プラス思考
小川電機での開発経験
VBAとPython
基幹システム入力サポートRPAツール
会社情報スクレイピングツール
申請書類管理ツール
小川電機イベント専用ECサイト
VBA,ExcelとPython,Go,Djangoが共存している、なかなか興味深い環境。技術選定どうやってるんだろう。
ここで阿部さん、岡田さん(じゃけぇと呼ばれている、とのこと)が登場。チームでイベントに参加して話すって、もうそれだけで素敵。
Sprint0 営業担当が使えるデータが見える化MVP構築
React
typescript
Semantic UI
Go
Graphql
どうやって技術選定してるんだろう、なんて考えてたらまさにそういう話があった。
チーム開発経験ゼロの私が置いていかれないようにやったこと
自己学習
・Progate
・PythonツールをGoで作り直す
・ググる
モブプロ、ペアプロ
Slackで質問
コミュニケーションに使ったツール
Slack
Basecamp
ClickUp
Google Drive
zoom
開発言語もツールもバラエティに富んでいる。これらの学習コストは課題にはならなかったんだろうか?という点が気になった。
横文字飛び交う開発
スクラムやってると横文字は多くなるよねー。「スプリントレトロスペクティブ」は、いまだに噛みそうになる笑
仮説検証
「ユーザーは目の前の人に気を使ってよい評価をしてしまうことが多い」これはなるほど、と思った。なので行動履歴を見れる状態にして、本当に使っているか客観的指標から確認することもあわせて行っている、とのこと。
謎だらけの基幹システム探検
知ってる人が1~2人という状態
モブワークで調査を行った
SQLを実行しオブジェクトブラウザで確認
急にリバースエンジニアリング感あふれる生々しい話になった。(個人的にはこういう考古学的作業は好きだったりする)
チーム開発を経験して
目線が変わった
プログラム→プロダクト
ユーザー目線で問題を考えられるように
常に聞ける環境だと覚えるスピードが速い
話はここで終わり。小川電機の底力すごいな、ということが伝わってくる力のこもった話だった。やったことないから今できるエンジニアにおまかせではなくProgateで自己学習したりしながら自分もできるようになっていく、というのは素晴らしいし、見習わなきゃならない姿勢だなと感じた。これぞトランスフォーメーションであり、越境だ。
創業74年企業のカイゼン・ジャーニー~石井食品が取り組む両利きの経営~
みんな大好きイシイのミートボール。そんな石井食品の石井さんのお話。
石井さん
大規模期間システム開発
アジャイル開発
などを経て、現在アトツギ中
石井食品の事業と取り組み紹介
1946年創業、佃煮製造から始まった
1958年 業界初の真空包装を活用した煮豆を製造
1970~ 第2創業期 ハンバーグ&ミートボール
1990~ 第3創業期 安さの過当競争、食のグローバル化
まったく添加物を使わない方針へ転換
「おいしさは引き算」
企業の歴史がめちゃめちゃ面白い。ミートボール以前の歴史は全然知らなかった。ミートボールが売れるようになるまで5年かかったというのも興味深い。
石井さんが入社後やってきたこと・やってること
事業変革する際に「やらないこと」は、新しい手法/事業の良さを説く
押し付けられるものには抵抗感がある
これは本当そのとおり。そしてそのとおりと分かりながら、ついつい壺を売りつけるようなやり方をしてしまうことがあるな…と話を聞きながら猛省。
全ての手法は信頼関係があることがベース
同じ課題を協力して倒す
「あなたの悩みを教えてください」
やらないこと
・アジャイルという言葉
・カタカナ
・Agendaという言葉を使ったら固まった
これは、まさに信頼関係を築くための重要ポイントだったのだろう。カタカナに抵抗がない自分にはピンとこないが、カタカナを忌避する人は少なくない。昭和から連綿と息づく企業であればなおさらそうだろう。
そして、こういった積み重ねの結果、いまではパートさんがSlackに参加して盛り上がるといったことが起こっているとのこと。めちゃくちゃトランスフォームしてますな。
親族承継のメリット・デメリット
まずはメリット。
年齢39歳、社歴39歳
取引先・従業員との関係性
・おじいさんにすごくお世話になった!という人々
既存事業をベースに新しい事業に取り組める
なるほど~、長年勤めている従業員からすると石井さんは孫みたいなものなのか。いい話だ。
そしてデメリット。
自分のプライドが邪魔をする
下駄を履きすぎて勘違いする
周りの社員と壁ができる
既存事業が足かせになる
両利きの経営
既存事業で営業キャッシュフローを最大化
新規事業では事業可能性を常に監視し、撤退と深化を行う
石井食品さんのような、誰もが知っているプロダクト(ミートボール)をもっているところが新規事業へ真剣に取り組んでいる。未知の探索と挑戦は、いかなるステージにおいても必要なものなのだ。
アトツギジャーニーの本気度を見習う
小川電機さんも石井食品さんも、とにかく変革(変態)に対して「本気」だと感じた。ITの文脈で出遅れているという心持ちがあるからなのか、目の前にリアルなプロダクトと課題があるからなのかはわからないがとにかく本気だ。
一方で、2000年代のうちにそれなりのIT投資を行っていた企業はどうだろう。うちはもうDXしてるから大丈夫、そう思ってしまっていないか。もっと周囲が前進していることに気づかず相対的に沈んでいく、なんてことは全然ありえる。
だからこそ、私自身は今日「アトツギジャーニー」に参加してよかったと心から思う。本気で変革する人たちの熱量を浴び、あらためて自分の周りにも変革が必要なのではないか、まだまだできることはあるのではないかと気持ちをあらたにした。
(・・・などとしたためていたら市谷さんから名指しでコメントを求められた笑
もしかして講演の内容をまとめているタイミングだ、ということが見透かされていたのかもしれない、という余談。)
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