みじかいお話 #1
ある冬のはじまりのこと。
窓から光が射す束の間を
部屋の中で過ごしていた。
すると、ドアを叩く音がして
ふたりが立っていた。
どこから来たのかも
名前も知らないけれど
初めてではないような気がした。
ふだん、何をしているの?
と尋ねると、ひとりは
森で暮らしているよ
と言い、もうひとりは
穴を掘っているよ
と言った。
そのあとは
みな、黙って
ストーブの前で
ただ、ぼんやりとして
外が暗くなると
ふたりは帰っていった。
夏のはじまりに
今度は三人でやって来た。
友達を連れて来たよ
と言うので
君は何を?
と尋ねると
木を植えているよ
と言った。
そのあとは
みな、黙って
開けた窓から
外を眺めていた。
田んぼを波立てる風の匂いは
潮風に似ているような気がした。
陽がのびて
外はいつまでも明るかった。
森の、どんな家?
と尋ねると、
今度、おいでよ
と言った。
穴に、何が?
と尋ねると、
いつか、見せるよ
と言った。
植える、他には?
と尋ねると、
木に、のぼるよ
と言った。
そのあとは
みな、黙って
赤く染まってゆく空を眺めて
陽が山の陰に隠れると
帰っていった。