みじかいお話 #3 ~雲時計~
「ほら、山に陰が落ちているよ。」
「あぁ、あの緑の濃いところだね。ゆっくり動いているね。」
「あの陰を作っているのは、どの雲だと思う?」
「真上にある、あの雲かな?それにしては、あの陰は大きいなぁ。」
「きっと、あっちの雲だよ。あの横に広がった形、陰と似ている気がしない?」
「たしかにそうだ。うん、きっとその雲だね。」
「今日みたいによく晴れた日は、歩きながら、陰と雲を探すんだ。慣れてくると、どのあたりに雲があるか分かるようになる。でも、ある時から当たらなくなるんだ、一日のうちにね。なんていうか、雲と陰の位置がひっくり返るんだ。だからって、雲が山にくっついて、陰が空に浮かぶわけじゃないのだけど。
そうなったらもう一度、空全体を探してみるんだ。見つけたら、大抵そこから引き返す。その頃には、お腹が空いているから。
「白雲の日は、雲の穴を探す。真っ白に見えても、よく見ると穴があって、穴の向こうで別の雲が流れていたりするんだ。向こうの流れの切れ目に、月が見えることもある。
雲が白い時、空全体が白く光っている。でも太陽は、薄く延びて広がっているわけじゃない。見えないだけで、晴れた日と変わらず、空のどこかにはあるんだ。そんな日は、山肌の明るいところと雲の穴を探すんだ。晴れた日に、雲と陰を探すようにね。
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