『帰れない山』
パオロ・コニェッティ 著 関口英子 訳
ピエトロとブルーノという2人の少年の物語。少年といってもそれは出会った頃の話で、物語が進むにつれて20代、30代へと成長していく。
ミラノ育ちのピエトロは、ある年から夏をグラーナ村で過ごすようになる。グラーナ村はイタリアとスイスにまたがるモンテ・ローザの山麓にある村で、ブルーノはそこで生まれ育ち、伯父の牧場を手伝っている。ブルーノと出会ったピエトロは、ブルーノに連れられて森や沢に親しむようになる。一方のブルーノは、ピエトロの父と母が注いでくれる気持ちを受け止め、自身の両親に対する満たされない思い癒していく。
2人は兄弟のように親しいとも思えるけれど、常に距離感がある。その距離感が程良いということなのか、成長するにつれて2人の関係性は変化していくが、始めから終わりまで安心感をもって読めた。ピエトロとブルーノが親しいことは間違いないけれど、2人の世界は交わりつつも完全に重なることはない。しかも変化していくので、重なったかと思えば、遠く離れたように思えることもある。人にはそれぞれの世界があって、心地よい居場所が違うのも自然なことなのだと思う。それが生まれ育った場所なのか、それとも居場所を探してまわるのか。
「8つの山をめぐるものと、スメールの頂点を極めるもの、どちらがより多くを学ぶのか」。ネパールの老人が、地面に図を描きながらピエトロに伝えた言葉だ。読みながら自分の中でもこの車輪のような図を描いたので、すっかり刻みつけられてしまったようで頭から離れない。