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全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第三檄「世界を変える『学派』をつくれ」
では、ここにいるみなさんが猿から人間になって、一人ひとりが個人として正しく物事を決められるようになったり、言葉を磨いていければ、それだけで世界が良くなって「はい、メデタシメデタシ」となるかといえば、残念ながら現実は、そうはうまくいかないんですね。
なぜなら、就職とか結婚とか、人生に関する問題のほとんどは個人や個人間だけで決められるんですけど、社会に関する問題は、集合的な意思決定というのが避けられなくてですね、民主主義ではそれを多数決で決めていくしかないからです。
たとえば、今まさに大きな社会問題となっている原子力発電の再稼働や、社会保障をどうするかなんて問題は、絶対にひとりの意思では決定できませんよね。
「僕は原子力が大っ嫌いなので、僕だけ原子力発電所を使いません」とか、どう考えても不可能じゃないですか。
社会保障に関しても、少子高齢化がどんどん進んで将来の医療費の負担をどうするか、年金の支給時期やその額をどうするかでずっと騒いでますが、いま60代、70代の人々と、みなさんのような10代、20代の方々では、問題の前提も捉え方も大きく違っているので、価値観や利害が対立して決断困難な状況になるのは、どうしても避けられないわけです。
「霞が関の競合」をつくろう
そうそう、僕と同じ東大出身の若手論客でいちばん有名な方、いるじゃないですか。あの、喋り方がちょっと独特な人(会場笑)。
あの方は超割り切った考え方をされていて、「はい、若者には残念なお知らせがあります。高齢者のほうが圧倒的に多いです。したがって老人がぜんぶ持っていき、みなさんの権利は自動的に剝奪されます。だからもう若者は諦めましょう!」みたいに言っていますが、僕はそういった考えは敗北主義的だと思っていて、ぜんぜん良いと思わないんですね。
数字を見てみると、旧世代の方と、みなさんのような新世代の方の人口比って、だいたい「2対1」です。
なので、じつは、旧世代の人をひとり説得すれば勝ちなんですよ。
わかります?
みなさんが、自分のまわりでこいつは話ができそうだなという人を見つけて、「ちょっと日本の未来のことを考えてみてもいいんじゃないですか?」みたいに説得して、ひとりこっち側に「引き入れる」だけで、情勢は変更されるわけですよ。「1対2」になるんです。
つまり、若者はただ立ち上がっても勝てないので、いま団結している中高年の方々に対する「分断工作」が必要なわけです(笑)。
中高年のなかでもわりと考え方が新しそうな人たちをこちら側に引き入れて、仲間にしていくというのが、僕はけっこう良いやり方なんじゃないかと思っています。
たいていの人にとっては、自分の年収を100万円アップさせるよりも、社会保障で数千万円もの「納め得」になっている人をなくすほうが、簡単だしインパクトもあるじゃないですか。
なのでみなさんは、どうやって自分や家族の収入を上げて将来に備えようかと考えるよりも、じつは、今の非常に不公平な社会保障制度を変えていくほうが、労力的にもコスト的にも、はるかに現実的なんですよ。けっして、理想論ではないわけですね。
じゃあ、具体的には、どうやって変えていくのか?
僕は「政策」がキーになると思っています。
昨今の日本の政治を見ていると、自民党も民主党もダメダメですし、他の野党にもぜんぜん期待できない状況が続いています。
政治家がダメになったことで、政界においていちばん力を握るようになったのが、じつは霞が関の官僚なんです。霞が関には政権交代なんてないですからね。政府や閣僚はクルクル変わっても霞が関の人員は固定化されているので、相対的に彼らの発言力が強くなっているんです。
だから僕は、これから若いみなさんが「霞が関の競合」にあたるチームをつくっていけばいいんじゃないか、と考えているんですよ。
日本とアメリカでは、そのへんの事情がぜんぜん違います。
アメリカでは、政治家のもとで政策をつくる人、つまり日本における官僚にあたる人は、選挙のたびに入れ替わる存在なんですね。
日本における霞が関の代わりに、さまざまな分野の「シンクタンク」が存在していて、ブレーンとして政策づくりに有力なアドバイスを行っています。
僕は、そういうアメリカのシンクタンクみたいな民間組織を、日本でもたくさんつくったほうがいいと考えていてですね、そうやって政治に対する参入ルートを増やすことで、政治家や官僚になる以外のやり方でも政策立案に影響力を与えられるようになるんです。
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● 第一檄「人のふりした猿にはなるな」 (常時全文公開中)
● 第二檄「最重要の学問は『言葉』である」(常時全文公開中)
● 第三檄「世界を変える『学派』をつくれ」(全文公開終了)← イマココ
● 第四檄「交渉は『情報戦』」(全文公開終了)
● 第五檄「人生は『3勝97敗』のゲームだ」(全文公開終了)
● 第六檄「よき航海をゆけ」(全文公開終了)
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