【ss】高校部活合唱の話 01

佛兎ふつう高等学校/ラウンジ

三年生「こんにちわ〜」

根暗そうな生徒「……どうも…」

三年生「あ、いーよいーよ席立たないで 新入生だよね?」
根暗「あ…はい」
三年生「もう部活動ってきめました〜?」
根暗「…いえまだ」
三年生「ほんとぉ! へーそうなんだーじゃあね(去りかける)」スッ…
   「って帰るんかいっつって(振り返る)」ギュン
根暗「」
三年生「もしよかったらうち、見にこない? 今新入生歓迎ミニステージやってるんだけどお」
根暗「……はぁ…」
三年生「そっか来ないかーじゃあね」ス
   「って帰んのかいっつって」ギュンンンンンン
根暗(この人端的にヤバい)
三年生「とにかくー、来てみて来てみて! つまんなかったらすぐ帰っていいからさあ」
根暗「……あの……」
三年生「ん?」
根暗「…何部ですか?」


三年生「」ニコー






三年生「合唱部」







高校部活合唱の話






◯佛兎高等学校/音楽室入り口

三年生「やぁ諸君 部員「あーっいたぁ部長がすがたをくらますんじゃないよ」
根暗(部長だったのかよ)
部長「準備室で待機すんの飽きてさぁ…」
部員「飽きてさぁじゃない、あんたいないと入部届けも受理できないしねぇ――新入生?」(部長を押しのけて根暗を見る)
部長「ワギャ」
根暗「あ、はい」
部員「私ここの副部長やってます、よろしく! あ、どーぞ入って! 悪いねこんなんで」
部長「こんなん…」
副部長「そろそろ部の説明も一区切りついて、始まるかな? いいタイミングかも」

ガチャ



『見てごらんまわりを みんな集まった!』


フワッ

根暗(風……じゃない、音圧……?)
  (狭い……)
  (いや)
  (そう思うほど、音楽室が箱鳴りしてるんだ)

『素晴らしい! Under the sea』

音楽室内の部員は40名余り。彼女らの前にはヤマハのグランドピアノ、さらにその向こうに生徒が一人立ち、指揮を振っていた。いわゆる学指揮(学生指揮者)である。

根暗(少し特徴的な団体だな…女声合唱なのに、所々にミックスボイスより更に地声寄りの強い音が聞こえる)
  (でも、それがディズニーミュージカルの厚みと合ってる。新入生引っ張るには丁度いい選曲だし)
学指揮『海底でのんびりしていよう〜』
根暗(学指揮ガッツリ歌ってる、ほぼ振ってないな
   指揮で引っ張るんじゃなく、さながらミュージカルのようにそれぞれが歌う――)

『陸じゃたってるだけでくたびれるけれど』
『海じゃウキウキ自由なのさ! Under the sea』

根暗(――そういう演出?)

後奏に入り、学指揮が軽く右手をピアニストに向けた。その動きを根暗は思わず目で追う。

根暗(仮で部員が弾いてるってわけじゃない。
   ……これは、やってる人のピアノだ)

パチパチパチパチパチパチ!

根暗「…」おもわず拍手
学指揮「じゃあお次は〜、リクエストがある人言ってたもれ」

黒板【春よ来い 瑠璃色の地球 COSMOS Let it go ドレミの歌 天使にラブソングを アンダーザシー 聞こえる 虹 花は咲く いつも何度でも 露営】

新入生「COSMOS!」
学指揮「おっ、わっかりましたー さすがに知名度高いねえ。中学で歌った人も多いかな?」

『夏の草原に銀河は高くうたう』
『胸に手を当てて風を感じる』

根暗(ミュージカルライクなアンダーザシーとは違う発声)
  (やっぱり、さっきは大分フラットにしてたんだ)

『光の声が空高く聞こえる』

根暗(…COSMOSのサビ、i母音がキツくなるから苦手だったけど)
  (…柔らかいな…どこに入れれば出るんだろう…)



『朝日が水平線から光の矢を放ち…』

『真っ白な雪道に春風薫る…』



学指揮「じゃ〜そろそろ、こっちで選曲やってくね」
根暗「?」
新入生「?」
学指揮「課題曲! 各自でポジション整えるよ〜に」ザッ
根暗「!」
  (――空気が変わった?)
  (全員軽くストレッチのし直し…重心も再確認して…)
部員「肩ぐるぐる」
部員「rrrrrr」
学指揮「いいかな〜?」



――無音。



根暗(…ああ)
根暗(ステージだ)




◯回想
???『――音楽はたのしいと思うよ。きっと』
   『だから、』





◯再び、佛兎高等学校/音楽室
『――』

根暗(霧がかったような芯の少ないハミング、口ではなく確実に鼻腔に抜けてる)

『露営のともしびが
幻のすがたを照らし』

根暗(ハミングと対照的な音色の胸で鳴らすアルト。思い切って胸声を使うのか……)

『思い出と秘密と』

根暗(うねり……細かい声の粒が広がっては収縮する、過剰なまでのダイナミクス)
  (それはまるで、小さなともしびが、露営の陰影を尽く変えてしまうように)



◯佛兎高等学校/音楽室出口
副部長「ありがとうございましたーまた明日もやるから来てねぇ〜」
部員「入部届けはこっちで受け付けます! よろしくー!」
部長「やあ〜」ノソリ
根暗「あ」
部長「どうだった〜?」
根暗「よかったです」
部長「ホホホまあ訊かれたらそうゆうしかないよな〜ごめんて、ウヘヘ」
根暗(なんだキモ)

部長「気になった曲ある?」
根暗「………露営」
部長「ん」
根暗「課題の、露営、よかったです」
部長「! …………そーか」フム
根暗「?」
部長「ありがとうもろこし!」
根暗「はぁ」

部長「あ、そうそうこれ、よかったら持ってって」入部届け
根暗「あ……えーと」
部長「いやーべつに催促じゃないよ! 黙って捨てりゃ分からんしねえ」
根暗「…」
部長「まぁ暇だったら明日も来てよー、うち、新歓期間最後まで演奏会やってるからさ〜」ヒラヒラ
根暗「…はい」



◯佛兎高等学校/音楽準備室
部長「あ先生ぇ どもっス」ガチャ
先生?「お疲れ」
   「…で、今年度は城東中、三丘中、 銘葉めいよう中から経験者が見学に来てるんだな」
部員「はい、今確認できてるとこでは、一人ずつだったかな」
部長「あ、経験者といえば、もう一人いたよ」
部員「マ? ブチョウ聞いたん? どこ中?」
部長「いや聞いてないけどお」
部員「なんだそれ」コケ
部長「エヘヘ」
  「でも、彼女はやってた人だよ」


つづく

[その2はこちら]


▼登場作品元ネタなど


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