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フィヨルドの夜明けは人力飛行機がよく似合う【2022年ふつうの旅 #11ノルウェー】

仕事も遊びも生活も楽しむ  #2022年ふつうの旅

アイスランドからノルウェースタヴァンゲルへ飛んだ。

空港はそのまま空軍基地になっていて、北欧の合理性を感じる。機能的で閑散とした建物だが、カフェやレストランは充実していた。くもり空のバス停では、到着時間の案内が一切なく、これまでの国とはちょっと違った突き放す感じの印象を受ける。

もちろん音声案内はない

数十分後に表れたバスに乗って市内へ。さらにバスを乗り継いで、今日中に山の麓の宿に辿り着いておきたい。しかし、案内板やWEB検索ではなかなか目的地までのバスが見つからない。もはや観光地のやさしさはそこにはなく、旅人に戻らされたような、懐かしい感触だ。

滞在中ずっとくもり空だった

駅の職員や、道ゆく人に尋ねて、なんとか長距離バスのオンライン予約を完了させ、バスを待つ。白鳥が泳ぐ湖のそばのベンチでぼーっとしていると、汚い格好の人たちが集まってきて昼から宴会が始まる。「時計じかけのオレンジ」の序盤に出てきた敵役のような。特に危険は感じなかったが、北欧に来て初めて、社会のシステムからはみ出したシーンを見た。そういえば、公共物への落書きも多い気がする。

落書きもおしゃれに見える不思議

ヘルシンキやアイスランドでは見られなかった、システムの綻び。よくいうと「こなれた」印象を、ここノルウェーでは感じた。

そうこうしているうちに目的のバスが華麗に素通りして、そのまま行こうとするので、ダッシュで追いかけて、運転席のドアを叩いて飛び乗る。こんなところでバイキングみを感じたくはない。

危機一髪でバスに乗れた

北欧ハードロック(メタルではなかった)がガンガン鳴り響くバスに揺られながら、山道を走っていく。荒めの運転に荷物がころげ落ちそうになるので、自分よりもむしろザックにシートベルトをつける。やはり、なんていうか、ぶっきらぼうなタッチの国なのだ。

早朝4時の宿

わざわざ宿を取った目的は、プレーケストーレンという有名な断崖絶壁の岩に行くため。そこからはリーセフィヨルドが一望できる、が、とても混む。片道2時間程度で到着できるため、老若男女、いろんな人々が日帰りで来るからだ。

(O氏に前泊の技を教わった。ありがとうOさん!おみやげのTシャツ間違えてレディース買っちゃったの残念でしたね!)

ヘッドライトの電池が切れないか、ふと不安になる

日が昇る前に宿を出て、ヘッドライトで道を照らしながら目的地を目指す。途中少し迷いかけたが、基本的には案内表示が50m間隔でたっているため、すぐに軌道修正できる。暗闇の中、spotify奇奇怪怪明解事典」「POP LIFE : The Podcast」「Image Castなどを聴きながら歩みを進めていく。無音だとなんか怖いので。

距離はそんなにない

海外での登山ということもあり、水、食料、バッテリー、雨具、防寒具などなど、国内登山と同じように準備をして臨んだ。たかだか片道2時間なのだが、何が起こるかわからない。病み上がり(ネパールで1週間コロナ療養)なので、体力が落ちているかも、と思ったのだ。天候は雨マークがついていないことを確認して登っている。(天候予備日も設けていた)

朝焼けが見えてきた

結果的には、とってもスムーズに1時間40分ほどでプレーケストーレンに到着する。自分以外にはオランダ人夫婦や数人のハイカーがちらほらと岩場の影で寒さに耐えていた。日が昇るまであと30分はあるのだ。用意してきたダウンを着込み、オランダ人夫妻と写真を撮りあったりして時間を潰す。

いい夫婦の見本みたいな仲良し夫婦だった

昔、富士山頂にAM2:00頃に到着し、日の出まで寒さにさらされた結果、低体温症になり、非常用の銀色シートでホットドッグのようにぐるぐる巻きにしてもらって九死に一生を得た「富士ホットドッグ事件」というのがあるのだが、その教訓を活かしてダウンをザックに突っ込んできていたのだ。人生なにごとも勉強である。生きててよかった。

遠近感が狂うくらいデカいすごい

そして日が昇り、リーセフィヨルドの全容が見えてくる。高い。デカい。こんなところまで来ていたのか。標高は600m程度だがこの迫力。切り立った入江の形状こそがまさにフィヨルドなのだ。

強風すぎて(あと高さに)震えている

説教台という意味をもつプレーケストーレン。その四角い形を眺めていると、学生時代取り組んでいた鳥人間コンテストのプラットフォームを思い出した。琵琶湖から10mの高さは、下を覗いた時にクラクラするくらい高かったが、ここは何メートルなのだろうか。考えたくもない。

3・2・1・GO!で飛び立てるだろうか

この崖からテイクオフしたら風が強すぎて一瞬で減速、機首が上がってしまい、翼が破損、北海の藻屑と消えるであろう(そもそも出発OKの旗が上がらず、ゲートオープンしないであろう)。今年の大会では、母校のチームWindnauts(ウインドノーツ)が過去最高記録で優勝したらしい。おめでとう。俺はトルコVPNをうまくつなげず、TVerで見ることができなかったよ。OB会費を払ってないバチがあたったのかもしれない。

これをやる勇気はなかった
山に鍵かけがち

絶景も見たので、サッと下山する。途中、行きの暗さの中では気づかなかった景色が見えてきて楽しい。南京錠がかかった箇所に差し掛かる。こういう「願掛け」の要素は、なんらかの「神頼み」をしているわけだから、世界共通の山岳信仰のようなものがあるのだろう。いくら整備されていても、時代にかかわらず山は自然そのものだから。

ロッジはやたらおしゃれでご飯もおいしかった

オスロへ移動し、人の多さに驚く。バス、地下鉄、トラム、自転車、キックボード、クルマが走る。公共交通に改札は存在しない。アプリでチケットを買ったら、たまに現れる検札に見せるだけだ。フィンランドも同じシステムだった。

トラムかわいい

電車やバスだけじゃなく、宿の朝食や、ホステルのコーヒーなど、すべてにおいて、誰でも自由にアクセスできるようになっていることが多い。性善説というより、取り締まりにコストをかけすぎない、という合理性なんだろう。

街に完全になじんでいるキックボード

この大人なシステムは、高い間接税によって支えられている。高齢者やマイノリティの権利の保障は、より成熟した社会を表していると感じた。街中で車椅子を何度も目にした時「多いな〜」くらいの感想だったが、そうじゃない。「障害があることを気にせず出かける人が多い」のだ。気づいて少しゾッとした。日本では、外出をあきらめてしまう瞬間が多いのだとしたら。

めずらしいベビーカーチャリ

身体的な障害だけではなくて、女性の社会進出も同じことなのかもしれない。隣国フィンランドの若き女性首相サンナ・マリンはダンス動画が流出して大変そうだが、その存在そのものが、日本社会の何歩も先を行っているように感じる。

にぎわうカール・ヨハン通り

折しも、市内ではたまたまレインボープライドのパレード中で、オスロ大聖堂からカール・ヨハン通りにかけて、多くの見物客が溢れていた。沿道で見守る姿は、箱根駅伝の応援のようであった。当たり前の楽しい催しとして定着しているようだ。

警備の馬のフンはみんな避けて歩いていた
大盛り上がりのパレード
見物客も大勢

特別な場合を除いて、ここオスロで見るべきものは2つである。ムンク美術館ヴィーゲラン彫刻公園だ。

想像通りの大きさ(70cmくらい?)
いろんなパターンがあるらしい

ムンクの「叫び」は3つある。いや4つである。いやいや5つである。などさまざまな説があるが、自分が見たものはテンペラという劣化しにくい技法で描かれた最新のもの。まるで色鉛筆でぐりぐりと描いたような荒々しい筆致が印象的だった。青から赤までの色の振り幅を見て、フィヨルドでの太陽を思い出した。傾斜角の浅い太陽が生み出す色合いなのかもな〜と理科的なことを考えた。

あそこもゴールデンになってた

ヴィーゲラン彫刻公園でいちばん有名なのは「怒りん坊の像」だ。人々がみな触るので、左のこぶしがゴールデンになっていた。必殺技でも発しそうな迫力である。通天閣のビリケンみたいでもある。

それは ただ一言こう呼ばれるものだった
絶望と……

それよりも度肝を抜かれたのが人肉の柱である。あれ?ベルセルクの「蝕」かな?と思った。クセが強すぎる。そういえばベルセルクという名称は北欧神話に登場する戦士の名でもある。ネオエクスデスみたいでもある。

このあと背骨やるやつ
バターになるのかな?

ムンクにしても、ヴィーゲランにしても、作風がダークなのだ。もちろんそういう作家がいて、評価されていることは素晴らしいんだけど、国を代表しているのがすごい。暗い。ピンクフロイドがチャート1位をとり続けるようなオルタナティブさ。

オペラハウス おしゃれ

北欧の特産品たるハードロック/ヘヴィメタルもまた、王道には決してなりえないはしっこの音楽(そんなこというと熱烈なファンに殺されそうだけど)であるが、スカンジナビア半島の地理的特性が、そのストレンジャーな存在感を自己認識として持たせるに至ったのかな〜なんて考えた。

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そして、結論としては、北欧がたまらなく好きになった。フィンランド、アイスランド、ノルウェーの3カ国でしか判断していないが、デザインがよくて、涼しくて、人が静かで、合理的。春〜夏にかけて住むなら北欧がいい。そういえば京都に生まれたんだけど、選んだ大学は東北地方でした。どうもNORTHに惹かれる傾向があるようだ。暑いよりはいいよね。

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明日はフィヨルドをフェリーで渡り、コペンハーゲンへ。最後の北欧、楽しみます。

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人は迷い悩みながらも前にすすんでいく

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