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【ネタバレなし】映画「メッセージ」は、SFの殻を被った"必観映画"だ

「メッセージ(Arrival)」は、日本で2017年5月19日に公開された映画。

監督が「"ばかうけ"に影響を受けた」と公言して話題となったアレ。

この映画を観ると、自分の価値観が変わるかもしれない。それは、キャリアとか生き方とかではない。「自分にとって未知の文脈(異文化)への立ち振る舞い方」や「"価値観そのもの"への向き合い方」だ。

監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。2021年10月15日公開の映画「DUNE/デューン 砂の惑星」でも監督を務める。

映画「メッセージ」は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」に基づいて、脚本が書き下ろしされている。

ジャンルは、SF/スリラー。



SF映画と聞いて、何をイメージする?エイリアン?UFO?宇宙戦争?ロボット?

この映画はSF映画だが、僕は「SFというジャンルの殻を被った人間ドラマ」だと思った。


(1)常識を超えた思考実験ドラマ

僕は化学・物理学を学んでこなかった人間だ。だから、化学・物理学を学んだ人からすると、この映画の設定は"当たり前"かもしれない。

その前提で、以下を書いてみる。

化学・物理学の目的は、「事象の再現性」だと考えている。未知なる事象が起こった時は「それが何故起こったのか?」を追求し、事象が現実に起こっていない時は「もしこんなことが起こったらどうなるか?」を追求する。

つまり、「因果の追求」か「IFの追求」。

そして、研究の目的に需要・商業性(金儲け)が求められるほど、「因果の追求」が優先され、「IFの追求」は後回しどころか蔑ろにされる(某日本のように)。

とはいえ、「因果の追求」という欲望が強いからこそ、人間は文明開化してきた

…じゃあ、この「因果の追求」という人間の原理原則が崩れるとどうなるか?なんだか小難しい表現になってしまったが、この映画は僕たちの常識を超えてくる。そしてかつ、感情に訴えかけてくる。

SFと人間ドラマの融合に、関心するし感動させられる。


(2)物質的ではないSF

SFと聞くと、下記のようなイメージを持つ人が多いかも。

・もしも重力が反転したらどうなるか?
・もしも酸素が無くなったらどうなるか?
・もしも宇宙で生活できるとどうなるか?
・もしもタイムスリップしたらどうなるか?

その事象が目に見えやすい程、人間は関心をもちやすい。だからこそ、物語のテーマとして扱いやすい。

逆に、目に見えにく事象ほど、人間は無意識に関心を持たなかったり、意識的に無視したりする。だからこそ、物語のテーマとして扱いにくい。

だって、「テーマとして扱いにくい」=「観客に伝わりにくい」=「儲からないリスクが高い」となるから。

そう考えると、この映画は「よく映画化できたな…よくアカデミー賞を受賞したな…すごい」って思う。

並大抵のディレクションじゃ仕上がらない、作り手として絶賛されるべき作品だ


(3)日本のことを言われている気がしてならない

日本はいかなる場面でも、やれ文系だとか理系だとか、グルーピングしたがる。それだけでなく、文系・理系それぞれのジャンルごとに知識や発言は細分化され、偏り、ジャンルごとの「横のつながり」が脆い。
僕は研究者ではない、ただの部外者だ。でも、外から見るとそんなイメージ。

そしてこの状況は、研究分野に留まらず、ビジネスやコミュニティ、人間関係にも同じことが言えそうだ。

・"先生"という肩書への固定的な尊敬心
・利己主義
・ヘイトスピーチ
・誹謗中傷

=「分断」

もちろん日本以外でも、いわゆる「右翼化・保守化」が進みつつあると思う。

極端に考えれば「20世紀以前の時代観なら、いつ世界戦争が起こってもおかしくない状況だ」と思う。極端かもしれんが、僕はほんとにそう思う。

最近の日本では、「上級国民」「親ガチャ」といった言葉が流行っている。これって否定できないと思う。今の日本は、「"平等社会"の仮面を被った"階級社会"」かもしれない

例えば、直近の経済学者作の有名書籍には、「21世紀の資本」「貧乏人の経済学」「絶望死のアメリカ」というように、格差をテーマとした本が書かれ続けている

これらの本を一文で総括するなら、僕は下記のように言う。

金持ちは指数関数的に金を増やし続け、貧乏人は"限られたチャンス"を作り続けるしかない

小難しく、歴史の浅いジャンルと言われる経済学のこのような書籍が、わざわざ日本語訳されて出版されている。これがどういう意味を指すか、考えてみて。

この映画の監督が「"ばかうけ"に影響を受けた」と発言した。ネタ発言として日本中のSNSで話題となった。

…ここからは完全に僕個人の考えで、間違っているかもしれない。
原作者は知らないけれど、映画監督は、「最初から日本の社会状況に目を付けていた」のかもしれない。日本社会の「分断」に関心を持ち、その取材の過程で"ばかうけ"を知った。
もしそうだとすると、本当に笑えない。


(4)さいごに(未知なるものが未知で無くなる時)

僕らは推測したがる生き物だ。ビジネスしかり人生設計しかり、未知なるものを解明しようとする。解明することで、いや、自分を納得されることで、安心感を得る。

未知なるものが未知で無くなる時、ホッとする。何かで成功することや、事業を成長されること、誰かを助けること…。全ての行いの根源は、「自分の安心感」という快楽を得られるから、なのかもしれない

それは決して悪いことじゃないし、他の地球上生命体には難しい行いだ(自然災害の前兆は、人間以外の生き物のほうが感知しやすいが)。

僕がこの映画を通じて気付いたことは、「常に"エゴ"を忘れるな」ということ。
良いエゴも悪いエゴも、抗えるエゴも抗えないエゴも、僕らはいかなる局面においても、"エゴ"を理解しようとする意思が必要だと思う

"エゴ"を理解しようとすることで、満足いく生き方・他者との調和・非ゼロサムゲーム社会、を実現できるんだ。

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