【ゲーム開発】ヒットに必要な、たった三つの要素①(全3回)
社外取締役 兼 「ブラックスター -Theater Starless-」プロデューサーの安藤です。
この度、社内向けに「ヒットに必要な、たった三つの要素」と題して行なったプレゼンを書き起こしたものをnoteにて投稿させていただきます。
安藤武博(社外取締役 / ブラックスター-Theater Starless-プロデューサー)
株式会社シシララ代表取締役/ゲームDJ、元スクウェア・エニックス プロデューサー。代表作は「CHAOS RINGS」「鈴木爆発」「疾走、ヤンキー魂。」「ヘビーメタルサンダー」「ソングサマナー」「拡散性ミリオンアーサー」「実在性ミリオンアーサー」「クロス×ロゴス」等
■はじめに
今日はタイトルを「ヒットに必要なたった三つの要素」っていう風にしています。もともとオファーを受けた時には、「これから売れるゲームとは何なのか?」っていうお話をしてくださいということでした。
あわせて「なぜ今の時代にブラックスターを立ち上げたんですか?」という話もしてくださいとも依頼がありました。
改めて考えたんですけど、今までも今もこれからも「どういったものを作ると売れるか?」というのはこれから話すテーマに集約されるんですね。僕はそう思ってます。
今だからこういうことをしていかないといけないとか、今まではこうだったみたいなこと、もちろん細かくはあると思うんですが、ざっくりいうと3つしかないんですよ。
自分がこれから作りたいもの、今自分が作っているものは、この3つのうちどれが入ってるかなっていうことをチェックすることによってヒットの確率が上がるってことです。
僕はプロデューサーなので売上の責任者なんですけど、面白さの責任者であるディレクターも、それにまつわるプログラマーもエンジニアもグラフィッカーもサウンドも全パートそうなんですが、これが入ってるとより売れるってポイントが3つある。そして、それが3つ全部揃うことってあんまりないんですよ。
でも売れてるゲームには一つは必ず入ってるんですね。
FAST:誰よりも速く
■新しいハードが発表された時
簡単に言うと一番わかりやすいのが、新しいハードが発表された時のローンチタイトルですね。
皆さんSwitchとかプレステとか、なんでもいいです、ゲームボーイアドバンスでもDSでもいいですけど、ハード発売された時の発売日に買いに行きましたよね。
その時に同時発売されたゲームついでに買うでしょ。そういうゲームは売れてるんですよ。
当たり前ですよね。新しい機械買ったら、出ているタイトルすぐ遊びたい。これが典型的なFASTだったりします。
誰よりも速く。たとえば、スマホ黎明期に「CHAOS RINGS(ケイオスリングス)」というロールプレイングが売れました。なんで売れたかって言ったら誰よりも速くスマホで本格的なオリジナルのRPGを作ったからなんですよね。
あれは今作ったところで売れないです。2010年の4月に出したので今からほぼ10年前。10年前にFFⅧくらいのものがスマホで動いた。iPhone3Gで。なんで売れたのかっていうと誰よりも速く動いた。それを出せた。理由はただそれだけです。タイミングがあるんです。
■そのコンセプトで一番最初
ハードが出たローンチ以外でも、そのプラットフォームの中で、「そのコンセプトが一番最初である」というものもここに該当します。だから、スマホが出たり新しいハードが出たりした時にしかこのチャンスがやってこないかというとそうではなくて、そういうコンセプト、テーマのものって今までなかったよね。というものを誰よりも速く出せば、それはヒット確度が高くなる。ヒットしてるものは大体そういうものです。
どのゲームでもその要素がFASTだった。というものが存在します。
スマホが出て10年経ってレッドオーシャンどころかブラックオーシャンと言われている。それでも、まだ誰もやってないものってありますよね。まだ。意外と。それを一番速くやる。これって年々無くなっていくんですよ。まだもしかしたらあるかもしれないです。
もっと話を柔軟に考えてみましょう。
次に来そうなプラットフォームのローンチに駆けつける、もしくは早い段階で誰も出していないものを出すこと。みんなで考えた方がいいです。
それでいうと、スマホは成熟しすぎてもう死んでいるんですよね。
じゃあネクストプラットフォームって何かって言うと、明解なものが無い。今って本当に難しい。
昔はプレステ初代作ってたら途中でプレステ2が出た。
じゃあそれのローンチに間に合わせるとかあったんですけど、今回は難しいです。
でも、ローンチに間に合ったらヒットする確率が高いということは、
柔軟に考えると、「ローンチするものには必ず出す」という考え方があるんです。
うまいこといかないこともあります。
■拡散性ミリオンアーサーを出すまでにやったこと
Apple WatchでRPG出した事があるんです。結果は思ったよりも売れなかったです。なぜ出したかというと、Apple WatchでRPGがまだ出てなかったから。ただその一点です。そっちの方が、ブラックオーシャンのスマホでモノを出すよりも売れる可能性があります。
スマホではこれが出来た。クリックホイールがついたiPodの時代。iPodでRPG出した事があるんですよ。「ソングサマナー」っていうゲーム。自分の音楽のプレイリストからキャラクターを召喚すると、自分の曲がレアリティとジョブに分かれてそれをFFタクティクスみたいにコマに配置して遊んでいくRPG。
当時は「iPodでゲームなんか誰がやるねん?」とどこかでは思ったんですけど。結果、全世界で30万DLくらいいった。それで確信を深めて、iPodがiPhoneに正常進化したので、一番早い3Gのタイミング。なんなら2Gのタイミングで情報があったので、ケイオスリングスを作る事が出来た。
ケイオスリングスは売り切りだったんですよ。その後は絶対基本無料になるなと思ってたので、GREEやmobageでシンプルなソーシャルゲームを作りながらノウハウを溜めた。その後、演出をリッチにする形で「拡散性ミリオンアーサー」というものを作って、それが売れた。
ミリオンアーサーは、中国韓国台湾で売上ランキング1~2位までいったんですけど、これも何でいったかといったら、「誰よりも速く」日本から持っていったからなんです。
今中国に持っていったらNetEaseなどの巨大企業には勝てない。2012年に持っていったので、まだ中国の人達は「スマホの商売を教えてくれ」というタイミングだったんです。
このタイミングであればワンチャンあるかな?と思って持っていったのでミリオンアーサーはそのスピード感で売れたんですよ。
僕が辞めたあといろんなミリオンアーサーが出たけど当時ほどは売れなくなった。なぜかっていうと、もうFASTではなくなったから。
今からやろうとしたら、最近出た「七つの大罪」みたいなクオリティで勝負しないといけないですよね。
速いと、安くてスケールする可能性があるというのも大きい。なので、逆に言うと**FASTのときはあまり費用をかけずにスピードに徹した方がいい。
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お金をかけずに、誰よりも速く、誰もやっていないことをやるのが、本当のハードやマーケットの黎明期にだけ起こるんですよ。たった何年間かだけ起こるんです。なのでそれをやった方がいいです。
■これから何が来るのか考える
これからの話をしましょうか。これからのやるべきことって何があるでしょうね。
まだApple Watch、時計じゃなかったですね。どうやらVRでもなかったかもしれない。でもVRだって言ってる人もいる。
ずっとやり続けて張ってる人もいる。gumiの國光さんとかそうですよね。VRはメガネとかコンタクトレンズ、より非装着の時代になる。現在のゴーグルはつけるのがウザいだけだから、ウザくなくなったら絶対スケールするはずだって、やり続けるのは、誰よりも速くってのを狙ってると思います。
他には何がありますかね。ブロックチェーンゲームなんて面白いかもしれないですね。Donutsはなんでやらないんでしょうね。ここ狙えますよ。もうすでにgumiやアクセルマークはやってますよね。
仮想通貨の取引額が始まってすぐに数億レベルでは流通してるという話も聞きます。でも、それらのゲームがものすごいリッチかというと、リッチじゃないですよね。ありものの流用やドットのキャラクターがカスタマイズできるってレベルでやってるところがある。そこに隙間やチャンスはないのか。
あとは何でしょうね。そういうのをみんなに考えてほしい。クラウドゲームとかどうでしょうね。何でこういった企画がDonutsから出てこないんですかね。
■大手プラットフォーマーの戦略は間違っている
今の僕の個人的な考えを言いますね。僕の主観なんでみんなが自分なりに捉えてくれればいいと思うんですが、今から大事なこと言いますね。
各社クラウドゲーミングのプラットフォーム発表してるでしょ。Stadiaとか。いろいろありますよね、Netflixが始めたり。
大手プラットフォーマーがやってるクラウドゲームの戦略って間違ってると思ってるんですよ。発表されてるのって、AAAタイトルがハードなしでダウンロードなしで動きますっていう戦略が中心ですよね。絶対に間違っている。
皆さん、Netflixで全裸監督見た人いますか?それがきっかけで僕はNetflixに入ったんで。みんなにとってはそれが違うタイトルかもしれないですね。
何で入ったかというと、Netflixでしか見れないからです。
テレビではありえないようなバイオレンスと性表現。劇場版の映画でも無理かもしれない。それを超一流の俳優と脚本家たちが1話1億円の予算をかけて作っている。それを全世界で配信してる。そういったものがNetflixに入らないと見れないんですよ。だから入ったんです。
何が言いたいかというと、3つのうちの次のテーマにもなるんですけど、「そのプラットフォームでしか体験できない」ようなものを、「誰よりも速く」思いつく必要があるんですよ。そうしないとお客さんは飛びついてくれないんですよね。全裸監督。地上波で見れないですもんね。
■体験の新しさ
ハードが変わる時って、UI/UXなどの体験も含めて今まで全然ウケてなかったものがウケ始めるってことが起こったりするんです。
例えば、スマホゲームで一番の勝者って、諸説あるとは思うんですけど、日本においてはパズル&ドラゴンズとモンスターストライクですよね。
パズドラの遊びって、厳密にはファミコンの時からありますよね。3マッチとか4マッチとかのパズルゲームって。
でもあれ、何であんな受けたかっていったら、スマホのUIで遊ぶ体験が新しかったからですよね。試しにパズドラをペンとかスワイプじゃなくて、十字キーとかに置き換えてみたらそんなに斬新ではないはずです。
ドロップを自在に動かせるUI/UXと、ガチャでその都度課金ができるっていう課金の仕組み、そして常時接続できるハードであるスマホがあった。なので「パズル」という、コンシューマではメインビジネスのジャンルとして死んだと言われていたものが蘇るということがあったりする。プラットフォームが変わるからと言って、すげー新しい事を思いつく必要はないですよってことです。切り口を変える。
この技術とプラットフォームを使ったら、今までに出来なかった遊びができるのを提案した方が新しいプラットフォームでは受けます。クラウドゲーミングって一体何ができるのかな、AAAゲームがストリーミング出来ること以外にいっぱい出来ることあるでしょ。
遊んでる時と遊んでない時で大きな変化が与えられるようなゲームとか作れますよね。1億人で鬼ごっことか綱引きとか出来るかもしれないじゃない。まずは、それでいいんですよ。グラフィックとかリソースをかけずに。
で、それを見る人がいたり、見ながら好きなプレイヤーが勝つように応援して、ファンブーストするような人がいたりとか。なんならそれにオッズつけて賭け事にしてしまってもいいかもしれない。
そういうことってのをまだ誰もやってないでしょ。まだ見本は無いんですよ。
でもどっかのパーツが落ちていて、それを新しいプラットフォームに乗せたら跳ねるかもしれないから、何かと何かの組み合わせを誰よりも一番速くやるっていうのがヒットの秘訣です。
誰よりも速いかどうか? FASTが自分のプロジェクトになかったら、そのゲームはなかなか売れないかもしれないですね。
次回は
「【ゲーム開発】ヒットに必要な、たった三つの要素②(全3回)」
を更新します。お楽しみに。