【怖い話】 うしろをよぎる 【「禍話」リライト掌編⑪】
投稿者が信用を失くす可能性があるため、詳細は伏せる。
ユニットバスのある部屋に住んでいる。
そこにある鏡を見るのがイヤなのだそうだ。
「誰かがね、よぎるんですよ。後ろを」
住みはじめた頃、閉めたままだとちょっと怖いので、ドアを開けたままにして用を足していた。
手を洗う時に鏡が目に入る。
鏡の中には自分がいて、開いたドアがあり、その向こうに台所が広がっている。
そこを、人がよぎる。
「男か女かわからないんですが──」
すぅ、と通っていなくなる。
部屋は事故物件でもなんでもない。
おいおい冗談じゃないよ、と思って、ドアをぴったり閉めたままトイレを使うようになった。
ところが。
まだ人がよぎる。
「鏡の中では、ドアが開いてるんです」
驚いて振り向くが、実際のドアは閉じたまま。
しかし鏡を見直すと、台所が丸見えになっている。
そこを、すぅ、と通っていなくなる。
えっ、と振り返る。
やはりドアは閉じたままである。
幻覚なのではないかと思った。
「まぁそんなわけで、友達を泊めてみることにしたんですよね」
もちろん、鏡の件は伝えずに。
夜中の2時頃に、寝ていた友達が
「あ~ゴメンゴメン。トイレ行くから」
と言いながら起き上がった。
ウンわかった、と答えて、トイレに入る友達の横顔を眺めていた。
しばらくしてから、
「え──ええっ? はぁ?」
戸惑うような小さな声が聞こえてきた。
真っ青になって戻ってきた友達に素知らぬ顔で、「あれっ? どうしたの?」と訊ねると、
「いや、別に。なんでもないよ」
チラチラとこちらを気遣う目つきで答えた。
「なぁんだ、やっぱりいるんじゃん」
と謎の感慨深さを覚えたそうである。
翌日の夜からは、トイレの鏡を見ないようにして暮らしはじめた。
一切の支障なく生活できているそうだ。
友達には「実験台にした」と伝えていないので、どうか名前や地名は伏せてほしい、と言われた。
そういうのを隠しておくのは、人としてよくないと思う。
【完】
☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」、
禍話フロムビヨンド 第18夜(※おととい放送分)より、編集・再構成してお送りしました。
★禍話についての情報は、リスナーのあるまさんに作っていただき、現在は聞き手の加藤よしきさんに引き継がれた「禍話wiki」をご覧ください。
累計放送回数400超え、3500話以上ある全放送アーカイブ収録。タイトル検索可。「B級グルメを食べるジェット・リー」などのモノマネもあります。
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