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【恐怖短編】暗い夜道は ピカピカの お前の鼻が役に立つのさ…… #パルプアドベントカレンダー2021
しかし、と、真っ赤なお鼻のトナカイさんは思いました。
自分の鼻が役に立つのは、クリスマスの日だけではないだろうか、と。
この赤く光る鼻を誇れるのは、クリスマスの前後だけではないだろうか。
それ以外の時期はやはり、自分は笑い者にされて、泣く毎日を送るのではないのか。
「アイツの鼻ってそりゃあ、クリスマスには役に立つけど……」
「でも他の364日は何の役にも立たねぇんだよな」
「そりゃそうだ。他の日に夜っぴで走るなんてことはねぇからな」
「それをあの野郎、サンタのおじさんに言われたからって、きっと鼻にかけてやがるぜ」
「あの真っ赤なお鼻にな……へへへへへ」
「年に一度きりの、一日天下ってわけさ……」
「へへへへへ…………」
「あははははは…………」
他のトナカイたちの、そんなささやき声が聞こえてくるような気がしました。
さんざん笑い者にされて、泣いてきた日々があったので、その想像は間違いのないように思えました。
ひとつの救いがあったがために、絶望の底が割れてしまうことは、よくあることです。
真っ赤なお鼻のトナカイさんはずっと、ずうっと、このことについて考えていました。
煮詰まった思いが頭の中からあふれ出すのには、きっかけがもうひとつかふたつあれば、十分でした。
その年の、26日の朝のことです。
真っ赤なお鼻のトナカイさんは、小屋の中で目覚めました。他のトナカイさんはまだ眠っている時間でした。
彼はゆっくりと起き上がり、小屋を出て、サンタさんの住む家へと雪道を歩いていきました。理由は、ありませんでした。まったくの、きまぐれでした。
窓の外から家の中を覗くと、サンタさんはもう起きていました。お年寄りなので、朝が早いのです。
サンタさんは、絵を描いていました。
先日自分の仕事を助けてくれた、トナカイたちの絵です。
サンタさんには何の悪気もなく、感謝の気持ちで、みんなの絵を描いていたのでした。できるだけそっくりに、できるだけみんなの特徴をつかんで。
だから、真っ赤なお鼻のトナカイさんの鼻が、真っ赤に塗られていたのには、本当に他意はありませんでした。
赤いので、赤く塗っただけに過ぎませんでした。
真っ赤なお鼻のトナカイさんは、絵にいる自分の鼻が、異常に、真っ赤に塗られているように思いました。
サンタさんまで、自分を馬鹿にしているのだ、と思いました。
彼の理性の綱が、ぷち、と音を立てました。
赤い絵の具をキャンバスに撫でつけているサンタさんは、何かを歌っていました。
トナカイさんは顔をこわばらせ、据わった目で耳をそばだて、窓ガラスごしに、その鼻唄を聞きました。
真っ赤なお鼻の トナカイさんは
いつもみんなの わらいもの…………
トナカイさんの理性の綱は、一気に引きちぎれました。
窓を突き破り、ツノを先にして、サンタさんめがけて突進しました。
どたん! ばたん! という音と、すさまじい悲鳴に、小屋で眠っていたトナカイたちも目を覚まします。
どうしたんだ、とみんなで、騒ぎになっているサンタさんの家のそばへと走りました。
窓が割れていました。
その奥で、人の体が上、下に、天井と床に、叩きつけられているのが見えました。
しばらくして、音と悲鳴はぱったりと止みました。
雪の朝の、サンタさんの家のまわりは、おそろしいほど静かになりました。
サンタさんの家の玄関が、ゆっくりと開きました。
真っ赤なお鼻のトナカイさんが、中から出てきました。
大きなツノには、サンタさんだったものが突き刺さっていました。
トナカイさんの全身は、真っ赤に染まっていました。
「きみたち、これでもう、ぼくの鼻のことを、笑ったりはしないだろうね」
トナカイさんは言いました。
「ほら、鼻だけじゃなく、からだじゅうが、真っ赤になったもの」
トナカイさんがぶん、と首を振ると、ツノに刺さっていたものが、他のトナカイさんたちの前に落ちました。
飛び散った血と肉が、他のトナカイさんたちの体を汚しました。
震えるトナカイさんたちを前にして、そのトナカイさんは、言いました。
「でもなあ。これじゃあ今度は、真っ赤なトナカイさんって、笑い者にされちゃうかもなあ。いや、きっとそうだろう。そうに決まってる。絶対に笑われる。笑われる。笑われる」
黒目ばかりの瞳には、理性は残っていませんでした。
「そうだ。みんな一緒に、僕やサンタさんみたいに、からだじゅうが、真っ赤になればいいんだ!」
真っ赤なトナカイさんは、真っ赤なツノを突き出して、他のトナカイたちのおなかを目がけて、一直線に走りだしました。
人の見た目を笑い者にすると、こういうことになるかもしれないよ、という、おはなしです。
🎄おしまい🎄
🎅本作は、note創作集団による年に一度の大イベント、「 #パルプアドベントカレンダー
」参加作品です。
こちらはメインの作品の気晴らしに書いたらなんかできたやつで、いわば露払いといったところでしょうか。
メインとなる短編はこちらから↓
内容は、タイトルでお分かりかと思います。
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