【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 69&70
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実入りがよくないのと捜査網が広がったことで、俺たちはちょいとジリ貧になりつつあった。
そんな中でダラスが、これはとっておきの話なんですが、とひそひそ声でみんなに話しはじめた。
──どうもこのダラスって奴は、とっておきの話をまだたくさん握っているらしい。俺たちを信用しきってないのか、単にもったいぶっているのかわからないが、たぶん後者だろう。そう思いたい。
「この時期になりますとね、アイオワの銀行で、大きなカネが動くんです……」
ダラスはどこからどこへとか何故かなんてのも説明しようとしたが、俺たちならず者の耳は難しい言葉を右から左とへとそのまま流してしまうクセがある。
とにかくそれは、銀行から運び出すのこそ真っ昼間だが、暗がりから暗がりへと移動する「おおっぴらにはできないカネ」だということだけはわかった。
「それにそのぅ」ダラスは気まずそうに手を揉みながら付け加えた。「そこの頭取がね、私とアイツを見合わせて、結婚させた野郎でして……」
その口から「野郎」なんて単語がごく自然に出てきたのははじめてだったので、俺たちはいささか驚いた。
「へぇ! そいじゃあダラスよう! そいつにウラミがあるんだな!」ウエストがなんだか嬉しそうに言った。
「ダラスも人の子だぜ」トゥコも続く。「そこを俺らに襲わせて、頭取殿を殺させようってんだ? そうだろ?」
「いえいえ、私はそんな……」
「いいってぇ、正直になれよぅ」
「いや本当に。殺すなんていけませんよ。逆に、その野郎は生かしておいてほしいんです」
うん? 妙なことを言ったな? と全員がダラスの顔を見た。
「あの野郎はね、殺しちゃいけないんです。金だけ奪わなくちゃあいけません。傷ひとつ負わせないようにしなきゃなりません。名誉の負傷なんてことになりますから。危ないカネだけ奪われて、自分は無傷──そうすれば、地位も名誉も権力も、何もかもすべて失うことになります」
ダラスはいつもの真面目な顔で言った。
「死ぬよりつらい目に遭わせなきゃいけません。なので皆さん、頭取の野郎には、お手柔らかに……」
俺たちはダラスのウラミの深さを感じて、顔を見合わせた。
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「……そんな馬鹿な!」
アイオワの銀行から巨額が動いたその日の夜。完全な手ぶらで帰ってきた俺たちは、留守番をしていたダラスの怒号を聞いた。
「ジョーに先を越されたって言うんですか!?」
「……あぁ、そうだ」
「どうして……? どうやってあのカネが動くことを……?」
ダラスは一言怒鳴っただけでくたびれたようで、さっき立ち上がったばかりの椅子にまた腰かけた。
「そりゃあわからないが……カネは俺たちの目の前でかっさらわれたんだ……」俺は呟いた。
俺たちの計画は「金庫から出されて馬車に積まれる直前のカネを奪う」だった。
だから銀行を中心にして、3人と2人に分かれて、その時間が来るまではさも誰かを待っているようなふりをしていた。
俺はモーティマーとトゥコの3人で待っていた。向こうの街角にはブロンドとウエスト。
馬車が来たら顔の下半分を布で覆って準備して──黒いカネなので、顔は隠した方がいいです、とダラスが忠告していた──奥から箱が登場して、あらかた積み込まれたら音もなく駆けていき銃をつきつける。10人だかいるらしい護衛に抵抗されたら、まぁその時はそれだ。だが頭取殿には傷ひとつ追わせてはならないよう気を払わねばならない。
それから重装備の馬車ごといただいて逃走する。追っ手が発砲してもこちらは馬車で立派な金属製。追いかけてきてもこちらには凄腕の狙撃手がいる。
10人をどう始末するかと、頭取に怪我をさせないことが問題ではあったが、ダラスいわく「極秘の輸送」であるため護衛もさほど気を張っていないらしい。そうなると頭取殿の問題が一番難しいな、さてどうするか──
トゥコがベラベラと喋り、モーティマーがそれにウンウン頷くだけの様子を眺めながら、俺は成功の絵図を頭の中に描いていた。
と、突然。
ドッとばかりにすごい爆音が地を震わせた。
砲撃か? どこにも着弾してない。いや戦争はとっくに終わってる。なんだ? なにが起きた?
モーティマーとトゥコが顔を見合わせてそれから俺の顔を見た。
俺は震源地の方に目をやった。桃色の壁をした銀行の後ろだ。あそこから煙が細く上がっている。
──金庫だ! 金庫が壁ごとふっ飛ばされた!