【下半期】2020年に観た映画・映像作品の感想 だいたい全部【7月~12月】
はいこんにちは。これの続きです。
「観た映像作品の感想だいたい全部貼るやつ」後半戦、はじまるよ!!
途中、創立21年の超老舗心霊ビデオに無茶苦茶ブチキレてる文章があるけど、読み流してね!!
……なお、今年の映画でベストを選ぶなら『パラサイト 半地下の家族』(来年1月に地上波放送!)か『アンカット・ダイヤモンド』(ヘッダーの笑顔の人がドクズな映画)の一騎討ちになるかと思います。
【7月】
6日『武闘拳 猛虎激殺!』 山口和彦 88分
1976年。このジャケットは誇張ではないッ! 本当に本物のトラが出る!! 復讐に燃える空手使いが悪の空手組織に挑む。香港帰りの大スター、倉田の凱旋初主演作。
子供の頃肉親を殺される。生き延びて格闘技を身につける。ついに宿敵を発見する。相手と睨み合う中で心通わせた人が敵の手によって殺される。失意の底で怒りを溜めて最後に爆発大暴れ。「いつものやつ」である。いつものやつである分、倉田のアクションが光るというもの。連撃のキレは千葉や志穂美を越える。
とは言え最大の目玉であろうトラくん(本物。昔人を殺したことがあるらしい)との戦いはさすがに無茶をしすぎというか、人権と動物愛護精神が若干蹂躙されつつも若干なのでバトルとしてはあまり迫力のあるものではない。むしろ映画とかじゃなしに普通にケガしてんじゃねぇかとヒヤヒヤしてしまう。やりすぎである。
基本乱暴なのにたまにハッとするようなショットを入れてくる山口和彦の仕事ぶりと、久しぶりに墨痕鮮やかな「カトマンズ拳法紅河流・張犬鬼」「背骨折りの怪腕力士・嫌竜」などのハッタリの効いたキャラ字幕が見れただけでも嬉しい。見世物上等な東映根性を見せつけられる一本。ご鑑賞の後はひどいとしか言いようがない本作のwikipediaも是非お読みください。
7日『呪いの黙示録』第一章 寺内康太郎 70分
2020年。素晴らしい。心霊DVDというジャンルを『監死カメラ』で胡乱にしてみせ、『境界カメラ』で拡張してから『心霊マスターテープ』でもってひとつの「区切り」を見せてくれた寺内監督が挑む原点回帰的シリーズその1巻。
短編3、長編1の質素な中身で、トラウマになるような強烈な映像はない。しかし3つの短編にはどれも見るべき部分が色濃くあり、色モノではない正攻法的なこわい現象が記録されている。特に3本目のビデオの堂々とした佇まいの迫力には恐怖と同時にワクワクしてしまった。こういう系統にはほん呪のぬ●りひょんという先例はあるものの、新鮮な怖さである。
そして長編「ヌルデ」。心霊DVDでは間延びしがちなこれが実によくできていて全体としての満足度がマジで高い。寺内監督、彼の元にアシスタントとして連れてこられた真田と島田、この3人を中心に「昔のいじめっ子に呪いをかけながらつきまとっている男」を追うお話なのだか。
主軸となる呪いのパートも不気味でスリリングでしっかりと面白く、そこに若くて青くて「呪いを止めないと!」といきり立つ島田と、「でも呪いって証明できないでしょう。取材する側が余計なことをしちゃダメだよ」と冷静に語る真田のゆるやかな対立が絡む。ここで重要なのは2人ともしごくマジメで、どっちにも肩入れしたくなっちゃうことだ。島田は青臭いのだか「いやまぁ気持ちはわかるけど……」と感じてしまう。沈着な真田も少しドライすぎる印象があり、過去や感情のどこかにフタをしている様子が見受けられる。その2人の間で緩衝材をやりつつ落としどころを探る寺内監督は、我々視聴者の心境の代弁者だ。
「ヌルデ」は二転三転する流れに驚きつつも、ある種必然とも思える流れで終幕する。その後味は苦い。取材班も被取材者側も誰も悪くはないが故に辿り着いてしまう結末。「あぁ……」と嘆息する他ない。この気持ち、この長編の完成度の高さゆえである。
古典派からエログロにギャグ、メタやフェイクまで多様な心霊DVDがあり続ける2020年に、「恐怖」と「取材パートのドラマ」がガッチリ噛み合って稼働する正統派、あまりに正統派の作品が誕生したことを言祝ぎたい。未熟な島田と心に何か抱えていそうな真田の成長物語としても存分に楽しめそうだ。全方位に堅牢なシリーズの発進である。……あえて欲を出すなら、短編がもう1本欲しい……(よくばり)
12日『ほんとにあった! 呪いのビデオ』[88] KANEDA 65分
2020年。無。ほぼ、無。前回礼儀知らずのとんだクソ野郎であった新人AD上田がどう出ることかと思って観はじめた88巻。結果は無。ほぼ無。そこには乾いた風が吹いているだけである。以下1080文字くらい文句を書く。
いきなり「風呂に入っている友達をイタズラ目的で撮影したら不気味なものが映った。なのでその友達とは疎遠になった。これがその映像です」=背中の裸を撮影されてる友達に許可とってない とかいう倫理にもとる投稿映像で治安が悪い。まぁそこそこ怖いのでいいけど。
続いての動画では「なんかチョーシこいてた投稿者も映ってたやつに祟られたっぽくて連絡つかないンすけど、まぁビデオはこっちの手元にあるんで収録・公開しときますね!」という流れになっており、スタッフすらも人倫にもとることをしでかしている。それはともかくこのビデオに映る胎児のような顔のオバケはそこそこによろしかった(褒)
でもって長編である。以前のスタッフ川居さんが帰還し、今送られてきた奇妙な動画と類似した、昔取材がストップした事案を掘り起こして再調査することに。倫理がない、倫理に欠ける、と重ねてきてさぁAD上田はどうする、またいやらしい、ヘイトをためやすい、露悪的な行動に出るのか、そういう志のひくーいキャラ付けをするのか、と場合によってはテレビを破壊せんと拳を握っていた。ところがギッチョンこれが特に何もしない。裏でこそこそやらかしている様子ではあるのだが無礼な発言はさほどなく、取材先で態度が悪い程度のもので表立って悪行を重ねない。
悪を溜めている段階とするのであればそれはそれで認めよう。裏で爆弾を仕込んでいるのだろう。だからこそ表側の地道な取材パートは停滞しひどくつまらないのであろう。89巻に爆発させるために。それにしても本当につまらない取材パートにしてしまって一体どうするつもりなのか。88巻は川居さんが帰ってきた以外は「捨て巻」ということなのであろうか。
いつも美味しい「シリーズ監視カメラ」も説明過多でパッとせずなんというかまぁもうこれ以上はなんも書くことがない(散々書いたけど……)。89巻に衝撃の展開が待ち受けているらしいが、それへの踏み台、捨て石としての一枚である。倫理がなく、内容もほぼ無なので、前回みたいに怒る気にもならない。心が死んでいくような巻であった。ほん呪(スタッフ)の悪口を呟き続ける正体不明の謎のTwitterアカウントがスタッフへの悪口を頭悪い感じで書き連ねているのを演出補くんが眺めるシーンがあったがスタッフの、特に一番偉い方には是非とも私のこの愚痴をお読みいただきたいと思っております。89も、勿論観ますよ。
9日『戦国野郎』 岡本喜八 98分
1963年。もうハチャメチャに面白い。武田軍の忍を抜けて逃げる男・吉丹がへんな猿顔の男に出会って荷運びの集団に紛れ込み、秘密裏に運ぶは戦国の世を左右する織田軍行きの鉄砲300挺!な痛快時代劇。
岡本印のパッシパシにキレる西部劇風なOPから最高、台詞回しもことごとくクール、テンポもよい意味でマンガ・アニメ的で出てくるキャラ(だいたいいつもの岡本組)も立ちまくっている。当時も面白かったろうが現代の人たちが観てもこのグルーヴ感は全然面白いだろうと想像できる。
テーマ性はあるもののほんのりと薫る程度、まずは映像と台詞と音楽と編集、ドラマにアクションにキャラクターをミチミチに詰め込んでとにかくThis is 娯楽、エンタメが疾走するこの心地よさったらない。タイトルとジャケの野暮ったさで損をしている(私もスルーしていた)。岡本喜八はすごいなぁ、とつくづく感じ入るばかりである。
15日『呪怨 呪いの家』 三宅唱 30分×6話
2020年。なーるほどね~。呪われた家に住み着く母子の怨霊を描く『呪怨』には……元になった忌まわしい事件があった!(ドォン!)とぶちかます、ホラーというよりはイヤ怪奇物語。
当の「呪いの家」を軸に、80年代後半から90年代半ばに起きる様々に悲惨で不気味で凄惨な事件を虚実取り混ぜて時間軸と時空も行ったり来たり越境したりとなかなかに野心的な試みをやっている、とは思うものの気になる点が多い。
まずこの「虚実取り混ぜ」た部分が果たしてうまいこと恐怖や「面白さ」に作用していたかと考えると首を傾げざるをえない。「実」の部分を扱ってるパートは残酷事件を噛ませてみて奥行きを出してみました、といった「わるいインターネット」みたいなノリが先に立っていて今一つリアリティや驚きがない。本当の世界に嘘が、ないしは嘘の世界に本当がヌッと顔を出してくるような怖さがない。
なんというか虚と実を接続するにもやり方というのがあると思うのだ。戦慄の事件を持ってきたらポコンと何かが生まれるわけではないのだ。俺は悪趣味なので、いっそのこと「平成の明るいニュースの陰に隠れてこんなこと(架空の事件)が起きてましたよ! みんなが笑顔な背後で!!」みたいな作りの方が厭さが増したのでは、と思ったりしちゃう。
一方で本作、三宅唱の演出や撮影は大変にカッチリしていて見応えがある。ただおっかないのかと言われると全然そんなことはない。変な言い方なのだけどホラーにしてはカッチリしすぎ、様になりすぎているのだ。「あぁいいショットを撮るなぁ」とは思うけど、怖くはないのである。「ホラー」という俗な味わいに、この盛り付け方が最後までどうもしっくり来なかった。このアンバランスさは近年の洋邦画問わずたまに感じる。街や家の切り取り方や荒川良々周りの描き方がナイスである分、違和感がいや増す。和食の料理人が洋食を任されたような。どうも困っちゃうのである。
とどのつまり「野心的な試み」も「新解釈」も「新進気鋭の監督の起用」もどれも疑問が残ったり噛み合ってなかったりで、面白いようなさほどでもないような、でもつまんなくはないような、割り切れなさの残るドラマとなっていた。というか一番の問題は「厭な話だけど怖くはない」ことなのではないか、という気がしてならない。
16日『エクストリーム・ジョブ』 イ・ビョンホン 111分
2019年。最高であった。犯罪組織を追ううだつの上がらない捜査チームが組織のアジトを見張るため居座ったフライドチキン屋が近日閉店……困った……「仕方ない! ウチらで店をやろう!」 これが旨くて大繁盛! 本末転倒! 仕事しろ!! アッハイ、チキン二人前ですね!!
韓国で異常大ヒットを記録したアクションコメディ。韓国映画的暴力や暗黒、重みを取り除いて笑いと娯楽性に全特化した結果メッチャおもしれぇことになった作品であり、半ば偶然かもしれないが近年の韓国映画パワーの結晶といった趣がある。顔芸や「間」の編集が完璧で、新しいことは何もしていないのに笑ってしまう。ギャグとは究極、間であることを教えてくれる。
社会性をごくわずかににじませつつも愉快痛快なノリは失わせず、二転三転するお話も楽しく、血は出ないけどアクションもグルーヴィー、主人公チームのバカっぽい仲のよさとキャスティングも美味しくて、エンタメとしてまったく隙がない。ヒットも納得の楽しさだけど尋常でない大ヒットなので、たぶんキャストスタッフみんなビックリしてると思う。
21日『ランボー ラスト・ブラッド』 エイドリアン・グランバー 100分★
2019年。なんだかすげーしんみりというか、ションボリしてしまった。メキシコ人のお手伝いさんとその姪と共にゆったりとアリゾナの牧場を営んでいたジョン・ランボー。しかしその最愛の姪が、家を出た父親をメキシコで見つけたと言い出し…………
第1作で故国に帰国し邪険に扱われた男が2~4で戦場へと飛び込み、第5作でようやく故郷で「家族」と仲良く暮らし、過去ともようやく折り合いがつけられるかと思いきや、といったお話であまりにつらい。
ランボーをさいなみ付きまとうのは実は戦争の亡霊ではない。「暴力」あるいは「殺し合う」ことである。5の暴力を振るわれたら5を返さざるをえない、返さねば生きていけないという強い思いなのである。「前に進むべきよ」「どうしても前に進めなかったら?」というやり取りがまさにそれだ。
そのようなつらさの宿る暴力であるから、終盤の殺人ホームアローンは人体破壊祭りではあれど冠婚葬祭の「葬」にあたるような重苦しさがかすかに漂う。過去や暴力に身を浸している時のランボーが幽霊か怪物のように見えるのもとてもおそろしい。これは彼の、マイナスをゼロに戻す戦いである。ほぼ無へとたどり着いたランボーはこれから何処へ行くのか。それは誰にもわからない。
22日『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』 ファティ・アキン 115分
2019年。つらい。沁みる。70年代ドイツに実在した連続殺人犯フリッツ・ホンカの酒、仕事、酒、女、殺し、酒、酒、女、酒、殺し、酒、な日々を描く実話映画。
とにかくホンカの生活、部屋、出てくる人々、場末バー「ゴールデン・グローブ」、出てくるほぼ全てが雑でダーティーで、その乱暴な佇まいに目を見張る。ただし露悪的ではない(ここ重要)し、同時に同情的でもなく、「ただ単にそういう奴ら」として判断保留されて語られているのが素晴らしい。世界とキャラクターたちが実話映画という現実の軛から飛び立って生き生きと存在している。
ゆるめの長回しや固定撮影、時に柔軟に動くカメラがホンカの日常や心理を余すところなく切り取っている。「あなたお酒は?」と聞かれた時のあの静止する時間と顔! 撮るものと演出が解離していなくて、題材のセンセーショナルぶりと乱雑さ、それに残忍さに比して浮わついた部分のない大変にしっかりした映画だと思った。現実の事件よりもリアルに立ち上がってくる。自分も一人で酒を飲んで鑑賞したせいか、なんだか他人事とは思えない気持ちになってしまった。やめよう! 酒!
29日『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』 オリヴィエ・メガトン 148分
2020年。米国民の脳を操作して犯罪行為を起こせなくするシステムが起動する当夜。弟を死なされ政府・官憲へと一矢報いんとする男、大物になりたいチャラ男、その2人を天秤にかけるハッカーの女が仕組んだ「アメリカ最後にして最大の強盗計画」の物語、と書くと面白そうでしょう。ねぇ。これが面白くねぇんだな!!
不用意なほどにピシパシ切り替わり集中力を削ぐカメラと編集、かっこよさげに見せといて弛緩しきった演出・照明、何やらめんどくさく冗長なる脚本が合体してなんともまぁ148分もある。これこそアメリカン・クライムではなかろうか。「なんだよこれ~!」なヘボ映画や、頑張って撮ったけどダメでしたな愛嬌のある映画ならまだよい。まるでセンスのない人がセンスある風に撮っているので一段と罪が重い。
隙だらけな上にダラついた筋運びの脚本にも問題は多いと思うので全部を監督にしょいこませるつもりはないが、それにしたってこのフックもなく目を引くものもなくスーッ…………と過ぎ去っていく無っぷりには怒りも呆れも通り越し何も残らない。監督は「続編をダメにする男」ことオリヴィエ・メガトン、続編でなくてもこういうモンしか撮れないということがよーくわかった。
撮るべき人が110分で撮ればタイトにまとまったであろうことが30秒おきに実感できる。これほど火薬とカーチェイスがもったいないと思わされる作品はなかなかない。音楽も軒並みカッコ悪い。足好きなので終盤のヒロインがずっと裸足なのがほぼ唯一の救いであった。どうしてこうなった……って、メガトンのせいだな。
【8月】
5日『心霊 2』三宅雅之、稲川淳二 82分
1997年。三宅監督の「踏切に立つ少女」、稲川監督の「まちぼうけ」の2本で構成されたオムニバス・ホラー。各40分を存分に使ってちゃんとこわいのでよかった。
悪いことをしたので祟られるにしても、母弟犬までやられてしまいオーバーキルにも程があるが祟りとか呪いというのはこういうもんだよな、と思わせる迫力に満ちた「踏切に立つ少女」。グロにも根性入ってるし主人公がゴリゴリ孤立していく流れも大変よろしゅうございます。ただグロに根性入りすぎててそっちに目が行ってしまうのが玉に傷なのであった。
稲川淳二監督の「まちぼうけ」は『トゥルー・ストーリー』「むかえがこない」でも撮られた実体験話で、旅芸人の家族が無理心中した旅館の一室をめぐる怪異。「真っ暗な廊下を子供が這ってくるけどギリギリ見えるか見えないかで見えてて超怖い」な前作から、現象そのものはほぼ同じなのに恐怖演出が倍くらいグレードアップしていて素晴らしかった。
旅館の部屋にいる時「何か」を感じる、けれどそれが何であるのかよくわからない、その何もいない気配の描き方が絶妙ですごい。「お前らとんでもなくおそろしい目に遭ったんちゃうんけ!」と叫びたくなる翌朝の元気いっぱいなシーンと、ラストの妙に切ない終わらせ方もいい。こまめにギャグを入れちゃう悪癖はあれど、稲川淳二が映像をやっていなかったことが悔やまれる。
7日『仁義なき戦い 代理戦争』 深作欣二 102分
1973年。再見。記録。敵対勢力と跡目争いのパワー/バランスゲームの描き方と、ダイジェスト的省略のダイナミズムが絶品。ラストも第1作の対になっとるんですよね。猛(渡瀬恒彦)のカーチャン役の女優さんは96歳でまだご存命らしいです。
11日『ほんとにあった! 呪いのビデオ』[89] 65分 KANEDA
2020年。最低です。本当に。カタカナの「サイテー」ではなく、「最低」。ほん呪の歴史を何だと思っているのか、と言いたいのはこっちです。以下1500字を使って非難していきます。
まず短編は全面的に小粒であります。比較的長く前フリをもってきた「棲みつくもの」はそのフリにしてはさほどの怖さではないものの、雰囲気はあってよかった。天井裏というのはいいですね。ビックリものの「繰り返される死」は、段取りの丁寧さと不条理感も好ましかったです。
(…………ここから非難…………)
さて、新人AD上田がやらかして、さぞかし胸糞悪い代物をお出しされるのであろうなぁ、上田はバチが当たって腕がもげたりする流れやろなぁ、と危惧していた長編ですが、危惧以上に胸糞悪く、大変に不快な思いにさせられました。
特に「多くの人が関わって頑張って長年作ってきたものなのに、そういう倫理にもとるようなことをして。面白ければそれでいいのか」などと川居が上田に説教をするシーン、端的にここは、安易で卑怯で卑劣だと思います。
「最近のほん呪、つまんないじゃないッスか」「面白くなればいいでしょ」と言い、ネットで悪口を書き、無断で取材をし動画を撮影し、それを軽薄な独白動画と共にウェブに上げる。怒られても悪びれないで半笑い。
こういう実にわかりやすい、ムカつく奴をそのように叱る。ご丁寧にもずらりと並ぶDVDの背の映像をインサートしながら。そこに20年の重みはありません。2巻前にポッと出てきた嫌なキャラを叱るために、歴史を人質にとっているようなものです。
しかも上田の関わるパートは長編の本筋とはほぼ関わりのない部分であり、本筋がそれなりに興味深く、練り上げれば結構なものになりそうであったのに、上田の悪行にあらかたインパクトをもっていかれる。本末転倒とはこのことです。
いったい監督は何がしたいのでしょう。
「とにかく面白ければいい」と思っているのは上田ではなく制作陣の方ではないですか。怖いもの不気味なものをやり続けて20年の歴史を足蹴にしているのは上田ではなく制作陣の方ではありませんか。「多くの人が関わって頑張って作ってきたもの」を「今」、面白くできていないのは制作陣の方ではないでしょうか。
ビデオや投稿者周辺の人間関係が生み出す怖さなどは二の次、嫌な悪い奴を出して、そいつにかき回させる。それがほん呪の「面白さ」だと言うなら「そうですか、私の知っている20年の歴史のあるほん呪はそういうんじゃなかったですけどね」と答えるだけです。過去変な人も頼りない人も出て来、正直ウ~ンとなる時期もありましたが、こういう「悪役」でどうにかしようという不誠実な作品はなかったと断言できます。
この路線変更?が監督が代わってすぐだったのなら「なるほどね、そういう感じなのね」とある程度納得もできましょうが、上田は2巻前から急に登場したのです。ストレートも変化球も投げれず、競技自体をなしにしようとするような愚挙です。しかも過去のスタッフ川居さんまで引っ張り出して。一体これはなんなんでしょう。本当に。
監督交代からの批判の多さへの仕返し、あてつけとして、文句を言う視聴者の分身のようにAD上田のような奴を登場させたという考えも浮かびましたが、これは私の過度な被害妄想として退けておきます。でもこれだけ怒っても「その反応も全部自分の手の平の上、想定内、怒りもまた来てエンタメ」とはおっしゃるかもしれませんね。そうですか。よかったですね。
90巻以降もこの監督が続投するかどうか、どうなっちまうのかは知りませんが、代わろうと代わるまいと私はきちんと、真っ向から、しつこく「面白いか」否かを観ていきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。観てやるぞ。観て書いてやるからな。
11日『処刑山 デッド・スノウ』 トミー・ウィルコラ 91分
2007年。イェイッ、とガッツポーズが出た。ノルウェーの雪深い山の小屋に泊まりにきた医学生たち、しかし夜中にやってきた謎のジジイが、「ここは昔、ナチスが支配していた地域なのだ…… 気をつけろよ……!」と告げて去った、と思ったらやっぱり出たぞナチス共! 何故かゾンビになっているのは気にするな! 雪山を血と臓物で汚す大バトルがはじまる!
序盤35分くらいはだいぶマッタリとしすぎていてウウーンこれはいかんかったかなと腕を組まされるが、40分過ぎから加速度的によくなってきてグロ、モツ、暴力、サバイバルに最期の一撃、もちろん無双モードまでテンション爆上げシチュがこれでもかと連なっていく。グルーヴ出まくりである。
さらにここに「このテンションの中で……それを……?」と思わせる真面目ギャグが絶妙のタイミングで挟み込まれて楽しいったらありゃしない。真っ白な雪山/真っ黒いナチスの皆さん/真っ赤に飛び散らかる血肉の映像的ハーモニーも素晴らしく美味、甘露。不真面目と真面目がバランスよく配置されている。映画はクライマックスが盛り上がればそれで優勝なのだと確信させるナイスゾンビ映画。僕はこういうのを2週に1本くらい観ていきたいッス!
12日『アンカット・ダイヤモンド』 ベニー・サフディ/ジョシュア・サフディ 135分
2019年。ヌワーッ大優勝。すごいすごいぞ素晴らしい。久しぶりにグリングリンにブン回された2時間だった。バスケへの賭けにハマり方々に借金をしまくっている崖っぷち宝石/貴金属商のハワード(妻子持ち)。長年求めていたオパールの原石を手に入れた途端に転がりだす彼の運命を描く行きあたりばったり綱渡りムービー。
キャラ紹介もナシに乱暴とも思える切り出し方で鼻先をひっつかみ引き回すような序盤からして力強く、後出しのように人物紹介をしていく強引さも心地よい。この語り口も編集も撮影も、一歩間違えればグチャグチャに悲惨な映画となりそうなのに、カオスでやかましくありながら統率は取れているという矛盾が成立していて、全く惚れ惚れしてしまう。
うさんくささ100点、日々ギャンブルな感じ150点のハワード(アダム・サンドラー)はハイパーギガントクズ野郎で同情するスキマはないのに、いやだからこそ、こいつが借金取りに睨まれ奥さんに怒鳴られ金を搾り出すため右往左往七転八倒する様に喜劇とも悲劇ともつかぬ独特の疾走感が生まれる。もう本当に最高としか言いようがない。
やたらかまびすしい物語のあとで綺麗さっぱり掃除が終わったような後味も本当にステキ。これ1本でネトフリひとつき分の料金の元はとれちゃうぜ、とハワードの如く銭勘定をしてしまう。いやぁいい映画を観たですよ! あとみんな、借りた金はちゃんと返そうな!!
14日『東海道お化け道中』 安田公義 78分
1969年。わるいヤクザが塚の前でいいヤクザと墓守の爺さんを殺し、告発状を拾って逃げた娘といいヤクザの子分・百太郎を東海道を辿るように追っていく。しかし塚を汚されたものどもが、悪い奴らの影に忍び寄る……
大映が送るオバケ映画三作目ながら人情時代劇・股旅物としても仕上がっている好作。バチアタリな輩を脅しまくって最後は罰を下す存在としての妖怪や怪異はいわばトリの演歌歌手みたいなもの。旅人と七歳の娘の短いながらも細やかな交流、旅の途中で出会う変な奴ら、父子の人情物語など旅ものの王道を行きつつ、要所要所にオバケが出てきて子供を助け悪人をシメる。因果応報の枠を出ないので安心して観れる。
妖怪そのものはあんま怖くないんだけど、派手ではないがちょっとしたトリック撮影や特撮が効いていて大変にいい感じ。野ッ原にいきなりどでかい石燈籠が現れたり、その石燈籠がオバケに変わったりするシーン、クライマックスの仕置で今さっきまで動いていたヤクザの一人が苦しんだかと思ったらスルスルッと上に引き上げらられて落ちてきて死ぬシーンなどはオオオッ!! とすげー盛り上がった。こういうパッと観れて腹八分みたいな映画はいいですね。
18日『世界残酷物語』 グァルティエロ・ヤコペッティ 91分
1962年。ものすごかった。ネットはもちろんテレビもまだ普及しきっていない時代、地球各地のナウい文化から原始的生活までをどっさり詰め込んで「文明国」に衝撃を与えた、ヤコペッティによる豪腕ドキュメンタリー(仮)。
とんでもねぇ代物はたくさん映る。が。どう見ても段取りやらせ上等だったり、効果音をつけ足したり、「ホンマかいな」と感じさせるものも多々ある。しかもこの2020年、衝撃映像なんかネットでなんぼでも観れるようになっている。にも関わらず、本作は懐古的な感覚を抜きにしてもズバ抜けて優れていると思う。
まず世界各地の映像を矢継ぎ早に垂れ流すのみではない。キーワードや動きやイメージの連想で繋いでおり、「文化的生活(文明)」と「原始的生活(自然)」とを交互に配置してある。しかも前者が穏当・美麗で後者が野蛮・醜悪とは限らない。どれもこれも美しくグロテスクである。ひとつの地球にまるで違うものがまぜこぜに存在しているのを見せつけられて、心が揺らいでくる。
見事・美事な構成と編集と撮影であるのに、見世物小屋の如き悪趣味さも忘れない。アメリカのいささか上等にすぎる「ペットのお墓」を映した直後に\デデーンッ/とばかりに台北の「犬肉店」の看板が出てきた時は爆笑してしまった。本当にタチが悪い。ゲテモノでありつつ同時に、全く立派に「映画」をやっている。ヤコペッティはすごい奴である。犬、豚、牛、鳥、ヒヨコ、亀、サメ、人などがかなりひどい目に遭うので、ご注意ください。
18日『堕靡泥の星 美少女狩り』 鈴木則文 90分
1979年。佐藤まさあきの劇画を原作とした日活ロマンポルノ。屋敷に侵入した暴行殺人犯が大学教授の妻を襲い、その結果生まれた子供。当の大学教授に疎まれ蔑まれて育った彼は長じて暴力と加虐に目覚め、少女たちを狩っていくのだったが……
原作既読。権力も大衆も嫌い、綺麗事の一切を嫌悪する主人公がさらった女の子たちをいじめ抜く筋書きは原作通りであるものの、「幼馴染みの少女」に関わる部分(=原作では前半のクライマックス、映画では終盤)は大胆に、宗教的に改変されている。
それゆえか凌辱ピンク映画であり、性的なだけでなくエグみ、下絡み、手酷い場面もあるにはあるが、どこかしら一線を踏み越えないようなトーンがある。一方でこれだけ背徳的・反倫理的内容でありながらその踏み越えないトーンにモヤモヤも残る。階上で誕生日パーティーをしている合間を縫って、地下に監禁している女を全裸で刺し殺して血まみれになるのと、謎の“カウントダウン”が「やりたい放題」のピークであろうか。
改変自体は面白く、本作単体でも説得力のあるものではあるにしろ、ここまでやったからにはもっとガーンとしたものが欲しかった。なにせ「君はアウシュビッツを被害者の立場で見たのかい。僕は逆だったな……」と言ってそれらの写真集で興奮しちゃう主人公なのである。しかも監督は鈴木則文なのであるからして。期待しすぎたかもしれない。刑事の役割もようわからん。なお友情出演としてあの名優が顔を出す。監督と仲良しとは言え、あんた友情に厚すぎやで。
20日『新聞記者』 藤井道人 113分
2019年。匿名の「政府の肝いりで作られる新大学」の情報が送られてきた新聞記者・吉岡と、内閣調査室で世論操作(仮)を続けることに疑問を感じる外務省出向組の杉原。2人が交差することで明らかになる国家の闇……というお話。
現役記者の活動を下敷きにしたフィクションであるから無論、社会派であるし、当の記者やその仲間たちも顔を覗かせて主人公らの観ているテレビ越しに日本の病理を語ったりする。現政権が関わったとおぼしき事件が形を変えていくつも現れる。そして新大学の謎。それはもうゴリゴリにポリティカルである。それ自体は別によい。私も相当にコッチ寄りの者である。
しかしこれなんというか、わかりやすすぎるというか、噛み砕きすぎというか、おかゆみたいになってやしないだろうか。なんつうかその、「ものすごく真面目な顔をしたスットコドッコイ映画」または「抑制され殴り込みもないインテリジェンス任侠映画」、とにかくそういう代物になっている。
吉岡の動き回る新聞会社は暖色、世論誘導(主な仕事はTwitterへの書き込み)にいそしむ内調は寒色という色調からしてなんかすごく、わかりやすい。高倉健がいる昔堅気のヤクザと、小池朝雄が率いてて政治家の佐藤慶がバックにいる悪いヤクザみたいな構図である。でも内閣調査室はもっとちゃんと働いてほしいし悪いことをしてほしい。
かと言って不真面目なのではない。作り手は真面目なのだ。謎の新大学の「いやいやそれはちょっと」な情報に飛びついちゃう流れにはホエ~?となっちゃったけど、作り手は大真面目なのだ。登場人物が叫んだりわめいたりしないし、映像や演出もえらくリッチな静かな映画なので硬度が生じているように見える。しかし本作はまったくお堅いものではない。流動食なのである。
今書いたように映像や演出、カメラワークはえらくリッチなのであるが、内容が社会派流動食でかつ現実を一部トレースしているがゆえに一種の解離が生じていて、ものごっつい変な気持ちになってくる。ヒューマンとして揺れ動く松坂桃李の熱演が間に入って繋ぎ止めてくれなかったらもっと珍妙な味になったであろう。最後は「負ける」ことになるのも合わせてやはりこれは任侠映画なのだ。たぶん。いやはや、おかしなものを観たね。
20日『呪われた心霊動画XXX NEO』[6] 58分
一定の面白さはキープしつつも無印一桁の凄味にはかなわなかったNEOだったものの、ここにきてようやくグッとくる巻が出た……が、しかし……!
いやな空間を最大限に活用した不穏と衝撃が際立った「床下」/ちと長いしプレデターみたいなオバケ?はいただけないが、中年哀歌と不気味さが光る「壁の向こう」/シンプル・イズ・ベスト、わけがわからないがこういうのが1本あるとグッと幅が出る気がする「ジャンパー」/締めにふさわしい、久しぶりにものすごく厭な手触りで救いのない、最後の動画もステキな「夢を継ぐ」……瑕瑾はあれども多彩な恐さが充満している良品がずらりと並ぶ……が、しかし……!!
「夢を継ぐ」の前の4本目「●●山」の“面白さ”、インパクトが 強すぎる! 投稿者や動画そのもののヘンテコリンさも異質だけど、このくらいの変な人や投稿動画はまぁ、今までもいた。問題は、動画の現場近くでインタビューをしたヤンキー君である。彼が滅法面白く、他の動画どころか当の動画の印象すら霞んでしまうのだ。
山の仮称だけでなく、彼の言葉選びと言い回しがもう何と言うか神がかって面白く、「俺らァ、あそこ、●●山って呼んでてェ……」「あの山行ったらァ、おめぇも●●状になって、消されンぞ!」などのコメントが作品の印象を根こそぎ持っていってしまう。この面白さは文章化不可能である。いやまぁ面白いことはよいことなのだが……他の作品が霞むほどの強烈さはちょっと……。
そんなわけで復活の狼煙と戸惑いがいっぺんに来た6巻なのであった。7巻から●●山的な胡乱方面に走るのは勘弁してねッ!!
20日『東海道四谷怪談』 中川信夫 76分
1959年。おもしろかった。婚約を無しにされたことから婚約者の父親を斬殺する伊右衛門。その罪を他人に着せて己はその婚約者・お岩と結ばれるが、禄にも苦しむ生活に嫌気がさしていた所、良家の娘と出会ったことでお岩が邪魔になり…………
題名とお岩さんの名前くらいは皆さんご存じ「四谷怪談」の映画化第2弾で、 80分に満たない長さながらピッシリまとまって悪くて怖くて大変によくできた古典的怪談映画となっている。
面白いのは伊右衛門がメッチャ悪い奴なのに悪の魅力が一切なく、ウジウジして躊躇してたまにキレるみたいなどうしようもねぇちっこい悪党である点だろう。変な言い方だが悪役として全然格好よくない。だが明らかにその設定は狙って作られている。
本来あるべき良家の娘との出会いの場面で殺陣がバッサリ落とされていること、死ぬ前にお岩さんに謝っちゃうあたりからもわかる。人間(特に男)の心の中にあるみみっちい悪の寄せ集めとして、本作の伊右衛門は存在している。
照明もカメラワークも演出も作品のこぢんまりした怨念感に奉仕している一方、原作通りのお岩さんの髪の毛ズルズルや戸板返しに加えて「戸板祭り」「赤い蚊帳」「仏様遠ざかり」などダイナミックな表現が終盤の伊右衛門の狂乱を盛り上げる。素ン晴らしい。祟られて! 死ぬ! な爽快感には乏しいが、いいものを観た。悪いことはできねぇな!!
22日『虹男』 牛原虚彦 81分
1949年。「口から七色の虹を吐く者」=虹男に呪われているという摩耶家で起こる奇怪な連続殺人事件を、ライバル同士の新聞社の男性記者/女性記者が追うミステリないしスリラー映画。ただし最終的に解決するのは本職の刑事。あしからず。
広い洋館に住む謎の研究をする科学者の父、その後妻、エキセントリックな画家の長男、家出して戻ってきたばかりの髭面の次男、薄幸の長女、老女中とイカニモでございな道具立てでしかも虹男に呪われているってんだから古典的が過ぎてワクワクもんである。謎解きとしても古典的で、しかも隙が多いのが難点。ただ本作の魅力は別のところにある。
本作はモノクロでありながら、虹の幻覚を見ている人物の視点になると七色がグルグルと回転する様が映し出される。パートカラーというやつである。この映像自体は今から観ると稚拙で、狂気や恐怖は感じられない。
ただしこの「虹」を見ている人物の演技、中空や壁を見ながら「ああッ! 虹が! 虹が!!」と叫ぶ迫真の演技の数々がどれも素晴らしく、これらが見れただけでも元が取れる、と思う。最初に「虹」を見て狂死するのが、どしゃ降りの中の電話ボックスにいる老女中(浦辺粂子)というのがよろしい。
しとどに雨に濡れる(無論虹など出るわけがない)ボックス、受話器を投げ出し窓に張りつきながら「ああッ! 虹が!」と汗まみれの戦慄の形相で絶叫し、その声が電話の向こうに聞こえるシーンの迫力に心を掴まれまくった。こういう場面がひとつでもあったら映画というのは大勝利である。よしっ。
26日『続・世界残酷物語』 グァルティエロ・ヤコペッティ 93分
1963年。世界各地の奇習や変なものを集めた、ヤコペッティ印の世界巡り再び。英国にケンカの売り逃げをする冒頭から、トイレットペーパーストリップ、虫のトルティーヤ、資金集めのためキスを売る娘たちなどなどをギュッと詰めこんでいる。
前作を越えてヤラセ上等、段取りありまっせな映像の数々の中にクールな演出が散見されるが、正直無印のような悪意と技巧に裏付けされた編集と数珠繋ぎのキレはほぼなく、散漫に映像が並べられていて凡庸な見世物映画の枠を出ていない。枠を出てどうするのかという疑問はあるけど。ちょいと調べると本作、ヤコペッティは映画作りそのものにはほぼ関わっておらず、助監督の手による作品ということである。なるほどねー。
「面白さ」のピークは前述の冒頭部分のナレーションであろうか。残酷さがかなりナリをひそめている一方でお色気映像が多く、「グロの次は……エロだな!!」という製作陣の潔さが気持ちいい。
【9月】
4日『大怪獣ガメラ』(再見)
博士の高圧電線大作戦が簡単に失敗して「う~ん、どうやら失敗だったようですね!」って言うシーンのあっさりさが異常に面白い。責任をとりなさい。
4日『ある殺し屋』(再々々見)
野川由美子がかわいい。やはりメチャクチャに面白い。プロ、女、半端者、悪い奴、のシンプルさと、ロケーションの大勝利。
4日『呪われの橋』
2020年。台湾から泥を垂らしつつやって来たオカルトホラー。女のオバケが出るという橋に肝だめしに来て、やってはいけないという儀式をやった大学生たちが案の定、すごく祟られる。
ビックリさせシーンは多いが、暗さや気配や「登場人物が気づかない人影」、それに音響への気配りも効いているのでビックリシーンにも「品のよさ」のようなものを感じる。ビックリがあくまで料理のいち材料にとどまらせる姿勢が「品のよさ」に繋がっているのだろう。
そんな演出と正統派な内容に落ち着くことなく、劇映画映像/劇中ビデオ撮影/劇中スマホ撮影などの映像素材が自由闊達に行き来して、さらにヒネりも加わって、まぁこのヒネりはちょいとアンフェアではないかと不満も覚えつつ(うるさがた)、なかなかによろしゅうございました。台詞のある登場人物が10人に満たないミニマムさも◎ 新古典派みたいなホラー。
4日『サバハ』
2019年。相当に面白かった。あやしい新興宗教をつつくのを生業とする神父(韓国はキリスト教徒が多い)が調査する仏教ベースの教団、謎の符丁で呼び合い凶行を繰り返しているらしき青年たち、そして田舎の家の納屋に閉じ込められた「怪物」の三軸が次第に絡んでいくカルト/オカルトミステリー。
おどろおどろしい雰囲気と予告編であるがバイオレンスやグロは控えめで、かつ神父周りのドラマや調査パートは比較的明るく、終盤に至るまでは軽快と言ってよいくらい。新興宗教の理屈づけと説明がちょびっと重りになっているきらいはあれど、謎・推理・謎解き、3つの物語が次第に重なっていく心地よさは相当に秀でていてミステリー映画としてかなりのものになっている。『妖怪ハンター』とかそっち系の美味しさが十全に作品内に満ちていてオイシーオイシー。
イ・ジョンジェの演じる酸いも甘いも噛み分けた上で信仰と不信の狭間で揺れる神父の佇まいが素晴らしく、彼を支えるチームメンバーのよい意味でのライト感も素敵。「ビンゴ(正解です)」って言っちゃうお坊さん(しかも2人)とか相当に面白い。重く暗くつらい物語を彼ら「世間ずれ」した側の人間たちが救ってくれている。2話完結のドラマとかで続編が観てみたい作品である。チベットの高僧役で田中泯が降臨していてビックリした。イ・ジョンジェが別シーンで「アリガトウー!」と言うのはこの出演への軽い返礼であろうか。
11日『しとやかな獣』(再々々々見)
ネトフリにて、念願のフル字幕つきで鑑賞。「マルティチュード・ブロック」って言ってたのね。メチャクチャに面白い。みんなもみるとよい。
23日『# 生きている』
2020年。(簡素感想)引きこもりな主人公のいるマンション、向かいのマンション、その間の駐車場のみを舞台にしたゾンビ映画で、冒頭に示されるこのシチュだけで「アーッ! アイデア賞ーッ!」と悶絶し序盤も上々だったのであるが、ちぃと色々欲張りすぎたせいで散漫な印象で終わってしまった。
ゾンビがストーリーを動かすのではなく、ストーリーの流れをゾンビが助けてあげてるみたいな感触でどうもつっかかってしまったな。流血は少ないけどゾンビはゾンビ然としててよろしゅうございました。
このままTwitterなどに投稿するとハッシュタグになって拡散するのがやらしいと思う。
26日『隣霊映像 封印された投稿動画集』
予想していたよりダイナミックにオバケが出てくる1本目と、「うらめしや~」の手つきの幽霊が現れる防空壕のビデオが印象に残った。
住倉カオスと小池壮彦が並ぶと『実話ドキュメント』感があって絵面が強くなる。どの心霊映像よりも怖い。
30日『ヤコペッティのさらばアフリカ』
1966年。いやもう、これはものすごい。疲れた。世界の変な習俗文化をやらせ&演出上等で捉えてきたヤコペッティが舞台をアフリカに絞って撮りきった大作ドキュメンタリー。
植民地支配から解放される地域や動乱・革命・虐殺、雄大な自然と野性動物や人間に殺されていくその動物たちを旧作の如く対称的に配置していく。もちろんやらせ&演出上等な姿勢は変わらないのだが、以前のような「こういう文化がありまんねん」な一種牧歌的なトーンは“マジ”の虐殺・戦争その他と野性動物の乱獲シーンによってみるみる塗り潰されていく。
一方で「ダメな人類の皆さんと地球の自然」な思想性、人も結局地球に生きるいち動物なんスよねな体温の低さはそのまま。厭世も諦念も飛び越えたこういうモノとしての人類の歴史の一ページがただ画面に広がり、憤りも哀しみもなくなって「嗚呼……」と呟くしかなくなる。
見世物的なスタイルからはじまったヤコペッティがここまで行ってしまったというのには凄味しか感じない。140分の長さが濃縮された140分としてのしかかってくる。いやぁ、疲労した。
【10月】
2日『TENET テネット』 クリストファー・ノーラン 150分
2020年。作戦中に捕らわれ「選ばれた」男が、世界を破滅させるすごくヤバい計画を阻止するため、時がガーッってなったりワーッってなる装置を使ってがんばってやっていくSF(すごい・フィルム)。
自分は「エントロピー」という単語を聞いても「あぁエントロピーね知ってる知ってる、あの~、増大するやつでしょ?」くらいの感じで生きているため、本作もそういう感じで観た。序盤に出てくるそもそもの理屈からしてそういう感じであったため、中盤以降の「時間軸の推移」はわかっても「なるほどな~」「やっぱりね~」と思うだけでいわゆる腹落ちというのがなく作品をちゃんとわかったかと言われれば胸を張って「いいえ!」と答えられる。
ところがどっこい腹落ちなんてせずとも時がガーッってなったりワーッってなったりする様がただただ圧倒的で面白いのであった。いつも素材に対して勿体ないノーランの演出はかなり進歩しているように感じたけれど、もしかしたらもっとえらい監督が撮ったら数段わかりやすくなったかもしれない。しかし今回はそのザックリした感じが時間がガーッワーッの凄みと異様にシンクロして脳がかき乱される感覚に陥る。結果唯一無二な映像体験となった。ここまでやっといてそれでえぇんかい! とたまに思わせる乱暴さもいっそ心地よい。けっこうな怪作だと思うのだ。
6日『人工の夜景』 ブラザーズ・クエイ 20分
1979年。記録のみ
6日『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』 ブラザーズ・クエイ 14分
1984年。記録のみ
6日『ギルガメシュ/小さなほうき』 ブラザーズ・クエイ 11分
1985年。記録のみ
6日『呪いの黙示録 第2章』 寺内康太郎 65分
女子高生のリアリティとじんわり重苦しい感触が秀逸な「笑い声の女」、おるやん……長く出てくるやん……あぁっ怖ぇ……とジリジリ攻めてくる「アダルトビデオの撮影」、くもりガラスや塞がれるレンズでソワソワ度を高めておいて思わぬところに現れる「カップル」の3本と、「謎のラジオ放送」~「奇祭」の長編で構成。
スタッフ真田が夏休みのため、ニューカマー江益が加入。引き締め役だった真田の代わりとしてどうかなと心配だった彼女だったが、「言われた通り律儀にカメラを回す」「部外者的な冷静な指摘」「怖がり役」「人好き、親切、ちょっとおせっかい」をこなしている。若く軽い雰囲気が生きた、十全な仕事ぶり。「人が死んでるかもしれない心霊現象に派手とか地味とか言って差をつけて、いいんですかね……?」というまっとうな発言も後で効いてくる。
第一章と比較すると長編のインパクト・カオス度はちょいと弱まっているものの、写真に写る影やヤバげな村、村とオッサン・おかしいのはどっちだ?で動揺を誘う構成、そして開けちゃいけない箱を開けた苦い結末と主軸として充分に面白い。
本作のもうひとつの軸、「島田の悩み」パートも心が動かされた。島田は実は別の製作チームに行きたがっているという内向きなネタに最初は若干鼻白んだが、「心霊ビデオにおける取材パートって、要るの?」というメタな指摘と共に、若さゆえのあきらめきれぬ熱意と誠実さが語られてそれがドラマとして上滑りしていない。人間を描いている。
何から何まで真っ向から「ちゃんと」やっている・やろうとしている心霊ビデオで、「取材パート」も惹き付けるし、しかもしっかりとおっかない。ほぼ言うことなしに面白い。素晴らしいシリーズです。ただ唯一、確認しているVHSの映像の中に全日時代の三沢vs川田(モザイク有)があって「三沢と川田じゃねーか!」と本編とは外れた部分で笑ってしまったのが不幸な事故だった。
9日『侠女』 キン・フー 180分
1971年。筆で生活を立てる学のある青年。ある日、村のはずれの廃墟に美しい女性が越してくるが、彼女は悪の宦官に追われる卓越した剣技を持つ娘だった。復讐と戦い、追跡と迎撃の血の果てに、壮大なるブッダ・パワーが顕現する……!!
雄大な自然風景とセットを背にゆったりとした語り口で描かれる3分の1、徐々に背景が明らかとなり復讐劇がはじまる3分の1、そして最後の3分の1、恩讐の彼方に見えるのは……。序盤こそ怪奇風味を出しつつマッタリとしているけれど、コトが見えてくる中盤からのアクション、殊に竹林の戦いや闇夜の奇策(ここは暗すぎて減点)あたりの北京ダックが3回出てくるような迫力がすごい。
中ボスを見事倒して、切ない別れと未来を感じさせて、ここで終わってもよいの、だが……! これはキン・フーの映画である……! そんなものでは終わらないのだ……! ここまで来てまだ30分を残している……!!
ギリギリで理解のおよんでいたアクションが最終盤でついに人類の常識を越える。人は尋常じゃなく跳ねるし瞬間移動するし途中から出てきたあるキャラの異常な強さを目撃する。そして、嗚呼! 我々の額に仏の光が照射される! 仏の力がすごい……すごい仏の力……! 観ているものは登場人物の如く、ある者は死に、ある者は膝をつくしかなくなるのだ……! なんだこれは! 『山中傳記』に並ぶキン・フーの凄味が脳に焼き付く超作。180分、休憩を挟んでもいいので、必見である。
12日『とむらい師たち』 三隅研次 89分
1968年。オモシロカッタ。大阪でデスマスク作りをやっている男が、葬式利権を争う死者への敬意のない葬儀社に憤激、仏さんを綺麗に送り出す立派な葬儀屋もとい葬儀演出社を立ち上げるが……
野坂昭如の黒いユーモア小説を監督に三隅、撮影に宮川、出演に勝新×伊藤雄之助ほかヤッタメタラにすごい面子を集めて撮ったグフフと笑えるわるい映画である。ただ、三隅×宮川の立派にすぎる演出がこのマジメにフマジメな内容をいささか重くしているような気もする。もし古澤憲吾監督で植木等主演だったら脳が裏返るくらいの代物ができたかも、とちょっと思う。
とは言え勝新のわんこそばデスマスク屋に伊藤のローテンションの怪演、脇役だが財津一郎とエンタツのゲス葬儀屋、葬儀テレビ中継にCM(電話番号は3074942でミンナヨク死ニ)などなどステキな代物がたくさん観れるし、冒頭5分の不謹慎ドラマとラスト5分の素晴らしき展開でもって全て許してしまえるのであった。日曜9時に放送しようぜ!!
20日『虚空門 GATE』 小路谷秀樹 123分
2019年。すごい。これはすごい。超すごい。月面宇宙人の解剖動画なるものを観たドキュメンタリー監督・小路谷がUFO・宇宙人識者に真偽を訊ねて回るうちに出会った庄司という男。コンタクティ(宇宙人と繋がれる人/UFOを呼べる人)である彼が、ある日突如としていなくなり……
6年の歳月をかけて撮られたUFO・コンタクティ・ヒューマンドキュメンタリー……と書くと「ははーん、“そういうの”ね?」とわかった気になる人がいそうなのだが否、断じて否。これは変な人たちを生あたたかく眺める映画でもなければ、何もかもを信じている映画でもない。しかし部分的には、その両方でもありつつ、だが最後まで真面目である、そういう映画である。
まず第一に「“そういう”映画ね?」と舐めてかかっている人の想像はものすごい勢いで裏切られる。異次元の方向から。2回くらい。顔の上に「!?」が出現する。ドキュメンタリーなのに、こんな展開誰が予想できるものかよ。
しかしながら本作は生き生きと、UFOと地球外生命体の存在を信じる様々な人々を撮し出す。虚実や真偽を越えた部分にある人間のたくましさ、チョボさ、喜怒哀楽、苦しみと希望がある。夜空を見上げて「あっ、ほら……」と呟く彼らと、人生に小さな希望を見出だしつつ生きている自分にいかなる違いがあろうか。たとえそれがまやかしの希望であっても……
冒頭に掲げたあらすじ以外はほぼネタバレになってしまうので、できるだけ情報は仕入れずに観ていただきたい。『FAKE』を撮った森達也が絶賛するのもわかるし、ある点では『FAKE』と似ているし、越えているかもしれぬ。いやはや、凄みのあるドキュメンタリーであった……
22日◆『獄門島』(TVドラマ)
1977年。全4話、約3時間。戦地から帰る船の中で死にゆく戦友に「俺が帰らねば三人の妹が殺される」と告げられた金田一が向かった孤島で起きる陰惨な見立て殺人。
分家の悪女と嫌っている三姉妹になぶられながら事切れる島の「太閤」嘉右衛門のシーンからして、陰惨さや湿り気よりも躁的な熱っぽさが宿っている。そこにひやりと現れる死体、死体、死体のお人形さんのような体温の低さがまた異様。古谷金田一もなんだか気持ち悪い感じでテンションが高く熱湯と水を交互に浴びせられているような感覚に陥る。
一部のトリックが省略されていたり、金子信雄が出ているのに金子信雄度が低めだったりと多少不満はあるが、他の「獄門島」とはまるで趣の違う空気に呑まれた。不気味というより気持ちが悪い。夏風邪の見せる悪い夢のようなドラマである。
22日『心霊パンデミック フェーズ2』
2015年。簡易感想。夜の山奥で霊の波状攻撃を受ける投稿者が可哀想すぎる「つる」とインパクト一撃勝負の「もぐる」が白眉。長編はこの長さにしてはちょいと地味だけど、深夜の東京のど真ん中で響くアイドル娘の絶叫、という一点のみで許せる。最初はあまりの音痴ぶりに手刀で気絶させに来た他メンバーのファンかと思った。
24日『天狗飛脚』 丸根賛太郎 78分
1949年。ウオーッ!!!!! ぶっ倒れるほど面白かった!! 俊足の盗賊が現れ、熱病が忍び寄る江戸の町、あこぎな引き抜きで苦しんでいた飛脚稼業の「天狗屋」にふとした契機で雇われた韋駄天野郎がすごい勢いで走る音速時代劇。
とにかく編集と演出が大変フレッシュで今観ても古くない。天狗屋の三馬鹿の動きがいちいち揃うところなんざ良い意味でアニメ的で楽しいし編集もピッシピシ。少ない描写で過不足なく心理心境を語る手管、かと思いきやあえて間延びさせるギャグ(のれんの天丼! 志村喬の鈍さ!)などあらゆるモノが切れまくっている。すごい。
物語にポツポツ配置しておいた布石を怒濤の如く回収して主人公に抱えさせラストの超絶おいかけっこの興奮に収束させる脚本もあまりに見事。よく考えたら大阪に着いたからと言って即勝負ありなわけではないので「大阪まであとn里!」の字幕は不要なのだが観ている間はこれがもう七転八倒、手に汗握るばかりの演出と化しており、これこそが映画というものの力であると心が震える。
この密度でなんと80分未満である。まさに喜怒哀楽を神速で駆け抜ける痛快無比の娯楽映画と言ってよいだろう。いやぁいいものを観た。映画の歴史にはまだまだこういうすごいものが存在している…………
31日『心霊パンデミック フェーズ3』 60分
2015年。簡易感想。全裸中年男性が駆けてくる「みはる」のダイナミズム。淡々と霊能者の“ありがたみ”を語る女の子の脇で号泣する母親のシーンが禍々しくていちばん怖い「さらう」
31日『ほんとにあった! 呪いのビデオ』④ 65分 中村義洋
2003年。再見。はじめて「病院」というワン・テーマを導入した巻だが、テーマを設けるのはこれと次巻(学校)だけだった、ということで企画としてはお察し。
でも4巻から「よしっ、新しいことやるか!」と意欲的なのはいいことであるよな。ビデオだけじゃなく体験者の語り+プチ再現映像があったりする。場所が場所だけに静かなビデオが多いのは好ましい。
【11月】
6日『スカイ・オン・ファイア』 リンゴ・ラム 99分
2016年。難病に効く新薬を巡ってカネにしか目のない製薬会社の社長、新薬の完成者であるその妻、ビルの警備隊長や新薬の元開発者の息子、あとトラックの運ちゃんなどを巻き込んでなんかいろいろあるけど最終的には完全にやりすぎな所に着地する香港アクション。
「新薬を巡る争い」がどうしてこうもイヤホンのコードがからまったみたいにグチャグチャ入り組むのかさっぱりわからねぇ脚本に、導線はイカしているのに撮影がピリッとこない格闘、車体破壊だけはガンガンやっていくカーアクションが絡み、なんと言うか何をどうしたいのかわからぬ流れが続く。
登場人物がやたらと出てくるのにこれ! という奴がおらず、悪役実働部隊なのにスキとヘマだらけのウルフさんをちょっと応援したくなってしまう。
こりゃあ困ったねぇ、スーッ……と終わる「無映画」というやつかねぇ、と思っていると最後の最後、どう考えてもこの規模のお話としては枠をはみ出すような弩展開とふにゃん、と力が抜けるラストカットが待ち構えており俺は唖然とした。
久しぶりに気持ちよく「いやいや……いやいやいや!」と思いながら映画が観れた。こんなんかまされたら「よし、許す」となってしまうに決まっている。が一方で『ファイヤー・ストーム 暴風』(2013)という「いやいやいや!」の先達があるため、衝撃はさほど強くなかった。どうせならもっとひどいことになってほしかったね!!
14日『悪人伝』 イ・ウォンテ 110分
2018年。殺す相手を問わない連続殺人犯はある夜、いつもの手口で車に追突。降りてきたのはマ・ドンソク。しかもヤクザ。帰るべきであった。完全に無理ゲーだ。だがこの犯人、根性がありすぎた。ドンソクを刺した結果、この太腕ヤクザと血気盛んなロクデナシ警官のタッグに追われることに……
と犯人寄りのあらすじにしたくなる内容のクライム映画。殺人犯を逮捕したい刑事と殺したいヤクザの秘密のコラボというどう考えても面白いあらすじで確かにちゃんと面白いのだけど、作品のトーンがどうも一貫しておらず「この品揃えならもうちょっと面白くなったはず」との思いが拭えず。ちともったいないか。
とは言えやはりヤクザと警官の呉越同舟一蓮托生ぶりは楽しかったし、ヤクザのヤクザぶりと警官のヤクザぶり、それに適宜さしはさまれる暴力アクションの味わいを堪能。そしてやはりマ・ドンソクのゾンソク力(りょく)は絶品である。最後の100万ドルの笑顔であらかた許せてしまう。
負け戦にもほどがある犯人側がとんだクソ野郎で同情の余地ナシな上、ステルス機能持ちで包丁を持つと攻撃力が5倍になるので極道コンビといい勝負になっておりそこもよかった。英題は『ヤクザ、警官、悪魔』である。
16日『心霊パンデミック フェイズ4』
2016年。簡易感想。喋りがカタい人が多くぎこちない巻だった。フェリーのビデオは他の方も書いているように乗船後すぐに映る黒い横向きの影の方が不気味だったし、なんだったら画質の悪さもありフェリー全体が異形に見えてこわかった。ラブボ幽霊は二段階(三段階?)構成で、悲鳴も現れるオバケも大変禍々しくてよかった。布を剥がされる二人目のオバケに説明がついてないのがまたよい。ところで絡む予定だったあの女性とやけにイケメンな男優さんは無事だったのだろうか?
17日『呪われた心霊動画XXX NEO』[7] 69分
2020年。腹7分目くらいだけど、よかった。なんとも言えぬ割り切れなさと後味の悪さを残す「3:33:33」、異様な状況で魅せる「人形の家」&「奇形人形」は山の中の穴にあんなもんがあるってだけで100点だし謎の声もいい感じだった。そしてこれらとゆるやかに接続する「子供部屋」。これって33333のビデオの赤子が「子供部屋」の幼女で、彼女があの山で呪いを振り撒きながら遊んでいる、みたいなことなのであろうか。
一方で「赤い服のおじさん」は期待させておいてちょいと地味だし、「口裂け女の時代」はリモートインタビューとマスク時代のダブルアイデアは光るもののもうちょっと怖いことなんなかったのかなと残念な気持ちに。「子供部屋」でフィラデルフィア計画が引用されるのもどうも作品のトーンにそぐわない。全体に字幕説明が過多で恐怖が削がれる部分も散見される。もっと観てる人に「えっ、ということは……?」と想像させた方がいいと思う。
決して悪くはない。でもオカズがもう1品あって、味付けが濃かったらもっとよかったネ! と不満を書きたくなるそんな7巻であった。「人形の家」のアレみたいな、あっあきませんやん、と肌身にクるような禍々しさがほしい。迷走とまではいかないが、「怖いって……なんだっけ……?」的な迷いが最近つとに感じられるので、千葉の八幡の藪知らずに入ってみるとかしたらいいと思う(うそです)
24日『暗数殺人』 キム・テギュン 110分
2018年。大変に地味ながら、グッとよかった。暗数とは公的機関が把握している事件の件数と、実際に起きている事件の差数のこと。女を殺して有罪となった男から電話を受けた刑事。「7人だよ。俺は本当は、7人殺してるんだ」……
派手な場面はなく、韓国映画的な「よし、ここらでアクション入れとくか!」な手癖もない。実話ベースとは言え、大変地道に淡々と進んでいく作品である。ちょっと画面まで淡々としすぎている気もするものの(何よりぺったりと明るすぎる)、ノワールでもキラキラでもない「普通な韓国」として撮っているとするならこれが正解なのかもしれない。
その「普通な韓国」を撹拌していくのがチュ・ジフン演じる犯人、このクソ野郎っぷりが本当に素晴らしい。供述通り死体が出てきても「えぇ~? そんなこと言いました~??? 僕、頼まれて運んだだけでェ~、死体遺棄は……もう時効ッスよねww」とか言う。一刻も早くステイサムかドンソクか、あるいは目の前のキム・ユンソクに牛骨でボッコボコにしてもらいたくなること請け合いな野郎である。
一方のユンソクはグッとおさえてジリジリと這って進むように捜査する。遺族?の悲しみを静かに受け止め激昂することなくじっくりと事を進めるのだ。韓国映画だけど昭和の刑事の系譜。無論「このクソ野郎は本当に7人殺しているのか? 誰を?」という本筋もいいのだがしかし、刑事が掘り起こそうとしているのがもっと深いものであることが知れる終盤で、タイトルの意味がより一層胸に迫ってくる。最後の台詞とラストショットが見事でうむ、と頷いた。骨の太い映画だ。
27日『呪いの館 血を吸う眼』 山本迪夫 82分
1971年。おもしろかった。洋館、女の死体、口元が血まみれの男……幼年期に見た光景の断片が脳裏にこびりつく女性。その元にある日、巨大な木箱が……中にはなんと! (やっぱり)棺が!
こわくはないし登場人物も少なくスケールもちいちゃいのだけど、冒頭の出来事を断片的に記憶している女が、それを掘り起こしていくと共に真相に迫っていく精神分析的なストーリーがなかなかに面白い。驚かしも上品な範囲で、和製ドラキュラの岸田森が要所をギュッと締める。
「不気味な運送屋が運んでくる棺」とか「吸血鬼をさほど疑わない医者」など無理もあるのにそれが通っている。終盤「はい、説明!」パートに突入するのが玉に傷か。岸田の佇まいやファーストカットの禍々しい夕陽、森を歩く女など、こけおどしに逃げない全体から説得力が出ていて惹き付けられる。座っている人体が腐っていて、机に癒着した手がズルッと剥がれるショックシーンはかなり鮮烈でよかった。
27日『修羅の血』 望月六郎 105分
2004年。な、なんだこれは。とある町に骨休めに来た極道ふたり。大親分がまとめて平和なはずのこの町だったがはしかし、代替わりしてやたらとファンキーな奴が長になった組がのさばりはじめていた、と書くとまぁ普通のVシネだがこれがまた、なんつーか。
松方(重厚だがまれにおかしくなる)、竹内力(終始マジメ)、寺島進(真面目にやれ!)、小沢和義(真面目にやれ!!)などかなりのカードを揃えた上で、悪ふざけしてる時の三池崇史みたいなグルーヴを出してくる謎のアウトロー映画。滑ってるとこもチョイあるけどハマっている部分は滅法面白く、おふざけが過ぎて具合が悪くて寝てる時の夢のような場面もあり「変なヤクザVシネ」以外に形容しがたい気迫がある。
寺島進の初登場シーンは若干「おっ、これは厳しいな!?」と感じたけどもっと変なのが現れたりするため、慣らされてしまえばこっちのもの(?)。「オッかっこいいやん」と「いやおかしいやろ」が高速で手変わりしてくるので麻痺してくる。最後はきちんとバトルして、力ずくの大団円で締めやがるので後味はよい。
寺島進がしゃがんで、そこに舎弟が上着を着せるのはジェームス・ブラウンのパロディだろうか。あと兄弟共演をこんな場面に仕立てるな。なお人は死にますが、犬は無事です。
27日『心霊パンデミック フェイズ5』 70分
2016年。簡易感想。相変わらず出てくる人々のコチコチな喋りが気になるものの、なんというか「邪悪」なビデオが多く、心が黒い水で洗われるような気持ちになる。こういうわるいものを摂取するのは体によい。
深夜の無人駅に黒い女が座っているだけで十分なのに、酔った撮影者が外に置いてあったお人形に八つ当たりをするとかいうフラグ2本立て「あたりちらす」がよかった。「ふみあう」も現象はこわいのだが前段のラップバトルがきびしい(「ふみあう」つうからお札などをか!?と期待したら韻だった)。
長編も救いがなくしかもなんも解決しておらず、その上本編がこのシーンで暗転し終了するのは相当にわるい。亡くなった人への追悼メッセージとかもなく「はい、終わり」で終わる。強さを感じた。
30日『犬鳴村』 清水崇 108分
2020年。これは説教部屋行き……を、ギリギリ首の皮一枚まぬがれたくらいのかんじ。犬鳴トンネル(※実在)の先にあるという都市伝説スポット「犬鳴村」に行ったカップルがこわい目に遭ったことからはじまる因業と歴史のきょうふを描く。
そりゃまぁホラーを見慣れていない層にも「観やすい」作りなのはわかるし俺のワガママだとは思うんだけど、それにしたってこの怖さのなさは流動食にすぎやしないか。オバケがヌーッと立ってるショットは悪くないけど他の部位が怖くなさすぎではないか。あとオシッコが黄色すぎやしないか。
むしろ主人公のご家庭のギスギスの方が怖いよ。思わせぶりな台詞だらけでどうせ真実は大したことないんやろ、と考えていたら……ハハァなるほど「犬鳴村」をコレに接続するのね、とここは感心。日本の暗部に迫るのだ! 社会派ホラーやで!!
と期待していたものの後半、恐怖ではない不可思議現象が多発。さらに明らかに「接続した」ことだけで満足しちゃった筋運びと演出がカラカラカラ……と空回りしなんかいい話っぽい地点に不時着して日本史の闇、犬鳴村怨念パワーは発動せずに終わってしまうのであった。
いや怨念が発動しないのならしないで、ドンヨリじっとりドロドロ煮込んだ救いゼロの暗黒怪談にすればよかったのだ。とっちらかったお話と恐怖感なき撮影が、チラ見せした意欲を帳消しにしている。この設定をお出ししたなら日和らず本気を出していただきたかったものよ。
これだけ文句をつけてはいるが、前述のヌーッ立ち幽霊やブレて輪郭が曖昧なオバケ、バイク故障後の電話ボックスの下り(繰り返しは怪奇の王道だ)と、あと石橋蓮司が出ていたので、退学はまぬがれた。でも追試は受けてもらう。そういうやつであった。おわり。
30日『心霊パンデミック フェイズ6』 71分
2017年。うむっ。これはよろしゅうございました。全体にレベルが高い一本。
ワンツーパンチにアッパーが決まる痛快な「おぶさる」でスタートは上々。二段構えで魅せつつグラビアアイドルの撮影の大変さもほの見える「ひかる」もいい感じだ。ちなみにシャオメイさんは「小眉」と書くぞ(調べた)。
完全なる飛び道具な内容ながらこの流れで出てくると妙な説得力がある「むさぼる」に、カップルのパニクり方が絶品なのにいい具合にわけがわからず終わる「ヤバイヤツ」もgood。
長編「きえていく」では(いつもの)生硬な喋りが戻ってウウーンと困るも、かそけき姿で現れている写真のリアルさとなんだかよくわかんねぇが思春期の前のめりさが悲劇へとなだれ込み不思議な美しさに結実する様がうまいこといっていて見応えがあった。
失踪した娘さんが『宇宙戦隊キュウレンジャー』に出た大久保桜子さんによく似ているが無論、別人である。だってこの娘さん失踪したわけだしね。このくらいの美味しさが続けば固定ファンになりそうだが果たして7はどうかな、と期待を記しておきたくなる。
【12月】
2日『心霊パンデミック フェイズ7』
6と比べると満腹感に欠けるもののよかった。長編はついに制作オフィスにオバケが現れスタッフが悶絶したりとダイナミックながら、やはりコチコチの演技が気になって仕方ない。ヤバい男の類型的な「狂人」演技も興を削ぐ。動画女のブスッとした存在感と、徳丸の四白眼ぶりを生かした危うい場面はよかったのだが……
しかし短編はかなり多様で充実している。緊急地震速報のアラームが鳴ってキャッと怖い一方その後のオバケ2組も不条理かつ怖かったのでよしとなる「ひっぱる」、以前の“姿が消える”動画から格段の進歩を見せた上にReplay解説てもあえて触れない怪現象(カメラが倒れた瞬間をスロー再生しよう)をこっそり挟む意欲作「みまもるよ」。
心霊スポットに突撃したバカにバチがあたる「あかねえ」は顔面パワー勝負だがその顔面が強いので勝ち。「どろ、どろる」は色味と絶妙な寸尺のおかしさに怖気が走る。本作のMVPであろう。腕組みしたくなる部分はあるけど悪くはなかった。オオッと一度でも思わせたら勝ちである。
3日『テリファー』 ダミアン・レオーネ 84分
2016年。これは潔い。これはたいそう潔い。ハロウィンの夜、不気味な白黒ピエロさんが人を痛めつけて悪趣味にゴリゴリのグリッグリに殺しまくるだけ、ただそれだけの映画です。
冒頭こそ「ハロウィンで、女友達二人が酔って、帰るところですよ」くらいの導入とちょいとした導線はあるが、人間たちが鯨幕ピエロさんの近くに来ることへのエクスキューズみたいなもんである。ピエロの近くに来たら刺切殴断殴打撃絞窒剥潰、殺人&拷問の回転寿司が可動しはじめる。CGではなくブツにこだわったグロがところせましと広がって大変景気がよい。
スプラッタホラーにありがちな恋人のイチャイチャとか家族ドラマとか「清純女子は生き残る」とかそういうのはない。そもそもピエロさんの背景とか成り立ちとかもない。終始無言だし。なんか死なないし。作り手がもうそういう無駄な部分には1ミリも興味がないので、人が残忍に死ぬばかりである。
脅かしながらゴリゴリやる殺しの職人ぶりを「あ~なかなかこれは」「すごいことをおやりなさる」と感心して観るスプラッタであり、まったくこういう反道徳的、反倫理的なモノはね、けしからんと思いますよ。前作があるようだけど、どうにか観れないもんですかね? あとこの監督の次作はまだですかね?
4日『ほんとにあった! 呪いのビデオ』[90] 81分
2020年。うむ、うむ、渋い。渋いけど、悪くはないぞ。演出から出演スタッフまで一新しての一発目は手探りとリハビリ感はあれどなかなか美味しゅうございました。夜の海の暗さ、不意の鈴の音からの緊張感の中、ぬっくりと現れるほぼ全裸男性の肌白さがインパクトある「鈴の音」。投稿者がどういうことが起きててどんなモノが撮れたか語ってから流れる挑戦的な動画で、現象は厭だけどどうしても「窓、ちっちゃくね?」と思ってしまう「窓」でお伺いを立てていく90巻。
小ぶりな2本だなぁという不安を払拭してくれたのが長編「子ども用カメラ」。長ったらしくなりがちなインタビュー場面も、会話の押し引きの上手さ、不穏と謎とじわじわ出てくる情報の怖さで引き付けていく。お母さんの安定したお母さんぶりとおうちの中の生活感がすごい。娘さんの蚊の鳴くような返事や、たぶん意図せず生じた画面の明暗が超こわい。
VHS風に画素の荒いトイカメラに記録された映像はどれも気味悪く、「増える映像」の不条理さも含めてかなりソワソワする。お話のスケールの小ささを感じさせない怖さがたゆたっていた。
それはそれとして後輩氏がガン詰めされるシーンは「それはそうなのだが、取り憑かれていたのかもしれんし、けどそりゃ怒られるわ」「っていうか会わせるなよ……」といたたまれなさが募って胃が痛む。ただしトイカメラのメーカーに問い合わせる3分は完全に不要なのが玉にキズ。
後半の短編、オバケは地味なもののぺったりした顔と立体的な腕の悪夢的なアンバランスさが最悪な「フェンス」と、これもまた悪い夢の如きイメージが一瞬で(この“瞬時”ぶりがまた怖い)出現する最高に気持ち悪い「団欒」の心霊スポット突撃モノの二本立て。長編とこの2本で私は「ヨシッ」と親指を立てた。
新スタッフはなんというか、マキタ氏(演出。チラッと出るだけ)を除く3人ともに“強そう”で、わかりやすいキャラ付けはないけれど頼れそうな佇まいがある。変な奴が現れても全員グーパンでやっつけてくれそうな気がする。新事務所は線路近くで騒音が大変そうだと思った。「これはッ!」と思える一本はなかったのでまだ腕組みを解かない態度で臨みたいものの、ギネス級・前人未踏すぎる通算100巻まであと10本である。新体制でこれからどこまで伸びてくれるか、期待したい。
5日『心霊パンデミック フェイズ8』 62分
2017年。今回はなんと、スタッフ勢がほとんど出てこない。最後の1本で徳丸さんが話を聞くだけで、あとは取材もインタビューもない。『呪われた心霊動画XXX』にナレーションがついたくらいのストイックさがある。
そのためか、それぞれのビデオはいささか冗長ではある。人文字メッセージとか「中略」にしてほしい。でも出てくる人たちの喋りがだいたいナチュラルで、このシリーズでいつも感じる「この人、芝居がかった話し方だなぁ」という嫌さがないのはよかった。
長いのとビックリ系が多いことに目をつぶれば、なかなかよい巻だったのではなかろうか。「なんきんじょう」で豹変する彼女の目付きと最後に現れる怪人、「つぶやきごえ」のいきなり生身のように存在する女、「きんこのあるはいきょ」のロケーション、絶妙の悲鳴、クラシカルな出方、「ろじる」のファンタジックな怪奇など見どころが多い印象だ。登山おじさんのビデオはまんま『呪怨』だが……まぁ……
ほとんどのビデオがはい出た! 終わり! あとは知らん! で終わるのもまたよい。起きる出来事に因果もクソもないのも好ましい。でも「きんこ」で完全にヤンキーカップルを撮るためだけに駆り出されたとおぼしきヒロくんが唯一ひどい目に遭うのは超可哀想だと思った。ところで今頃アレですが、平仮名×動詞でやってきた副題がもうムチャクチャですね。
8日『カラー・アウト・オブ・スペース ~遭遇~』 リチャード・スタンリー 110分
2019年。田舎居住五人家族! 桃色発光隕石襲来! 家族脳髄徐々発狂! 色彩爆裂外宇宙的融合! 花咲実成宇宙生命!
ラヴクラフトの原作は未読。ちょっと間違えたらハイテンションコメディになる手前で踏み止まってそれは見事な色彩爆裂家庭グチャグチャSFホラーとして成立したかなり凄味のある逸品。それもこれも「色が! 色が来るんじゃ!」という小説にのみ許される恐怖アイデアをマジで「これっきゃねぇぜ」な映像と音声、それにニコラス・ケイジを筆頭にこの狂的雰囲気に呑まれつつ演技をやってのけた役者たちのおかげ。
特に干し草みてぇな雰囲気からアハハウフフ、死ねコラクソ! ダンクシュート! とどんどんイッてしまい最後はラスボスにまで昇格してしまうニコケイが素敵で笑顔で観てしまう。どんどこ増えていく謎の草花、テレビを覆うノイズ、物体Xみたいな怪物たちなどなんとなくレトロな空気も漂わせていてよろしゅうございました。
ただここまでやっといて語り手氏が見る「外宇宙の星」の情景がアベンジャーズとかに出てきそうなくらいの描写だったのが大変に惜しい。オボァーッと気が狂うようなビジュアルが一発欲しかった。とまれ瑕瑾である。極彩色の精神侵略SF。美味い美味い。
9日『心霊パンデミック フェイズ9』 54分
「ほるまりる」って何だよ、と言いたくなる都市伝説×ダイナミック祟りの「ほるまりる」ではじまる9巻。
自転車で転んだら一瞬で……近づいてきたのは……な悪い夢のような展開が光る「つけられたのか」、小出しの怪奇が結実する「やがて ついてくる」とまずまずなものが並んでまずまずだな、と思っていたら、「だれのものか」で度肝を抜かれた。
ビデオが長かったりノイズ過多なのはさておき、現れる状況・状態が最高に厭な感じで、最良の怖い話の一場面を映像化したかのような衝撃があった。仲間のテンパり具合とおかしなことになっている奴の普通っぷりの落差も素晴らしく、ちょい褒めすぎだが、心霊ビデオ私選ベスト10に入る代物かもしれない。ちょっとガッツポーズが出た。
その分「てがたがついた」「それは ぬすまれる」の2本が割を喰った形だ。「てがた」でできうる限り怖そうなことはしたくないスタッフ徳丸には笑わせてもらったし、「ぬすまれる」の有料双眼鏡で何かを見てしまう怖さも光ってはいたのだが……
19日『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』 外崎春雄 120分★
時は大正、家族を人食い鬼に殺された心優しき少年・炭治郎は、鬼と化したが人を殺さない妹と共に鬼とその首魁・無惨を倒さんとする組織「鬼殺隊」へ。仲間の善逸、伊之助、そして隊の幹部の一人=柱である煉獄杏寿郎と共に、乗客が消えると言う謎の汽車へと乗り込む。
原作既読、TVアニメも視聴済。かなり強いがまだまだ未熟な後輩たちに、先輩/年上/強き者としての姿勢を行動と気合と言葉で示す男・煉獄の花道オンステージ。ナレーションは省かれているがたぶんほぼ原作通り、漫画的な説明台詞もそのままで、編集演出のテンポがゆっくりなので序盤は大変まどろっこしい。もっとビシバシ切って1.3倍の速で心地よく見せてもらいたいもの。
しかしまぁ、そんなまどろっこしさもよもや前フリだったのでは? と思わせる後半のアクション&バトルの素晴らしさは目を見張る。静かなる危機から脱してからのアゲにアゲに上がっていくアニメアクションの迫力といったら。大変よろしいものを見せてもらった。声優のパワーのこもった演技にも心揺り動かされた。
一方で原作にあるギャグとシリアスの間を平然と反復横飛びするような奇異なテンションは再現しきれておらず(あれはすごい)、ジャンルの引っ越しというのの難しさを感じたりも。ともあれこのご時世に怒濤のアニメーションで勇気と根性と感動を見せつけてくれたことには感謝の念が浮かんでくる。
そろそろ『千と千尋』越えである。時代の流れもあろうが、とんでもない作品になってしまったなぁ、と小説家が鼓をポンポコ叩いていた頃からの読者としては思ってしまうのであった。とりあえず次は、TVを1クールやってから映画で遊郭編であろうか。
25日『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』 柴崎貴行 20分★
2020年。世界を無に帰そうとする邪悪な仮面ライダーによって引き起こされる世界の滅亡を、本の力で戦う仮面ライダー・セイバーたちが防がんと戦う20分ほどの短編。
良くも悪くも「これが! ワシが!! 仮面ライダーセイバーじゃ!!!」と宣言するような強引かつ謎の力がある顔見せアクション短編で、それだけならいいのだが戦いとは!?人間とは!?というディスカッションまで挿入されて完全に大渋滞。
でもそれもまたセイバーなんだよな。ここまで「これが! ワシが!!(略)」とお出しされると「そうか! おめぇはそれでいいや!」と思えるので突き抜けるのは大事である。この姿勢は見習いたい。
邪悪な笑みでおなじみの谷口さん(仮面ライダーアマゾンズ)がおなじみの邪悪な笑みで嬉々として悪役をやっていてよかった。でもこめかみに銀色の長細い卵が生えてるみたいな特殊メイクは微妙に気持ち悪くてワッと思った。
25日『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』 杉原輝昭 68分★
2020年。よろしゅうございました。最終回後のゼロワンの世界、突如として現れた救世主を名乗る「エス」という男により起こされる毒ガスによる世界同時テロ。「60分で世界を終わらせる」と豪語するエスに、ゼロワンメンバーたちが挑む。
ゼロワンが誘い出されカウントダウンがはじまった瞬間から開始される、まぁだいたい60分リアルタイムで進行していく副題通りの劇場版。その60分でパワフルで多彩なアクションをぶっこみつつ謎の男・エスの正体と背景、彼が率いる部隊、毒ガステロの真相が解明されていくテンポのよさが素晴らしく、展開のひっくり返し方や敵の造形も私好みで大変に楽しめた。
不満の多かったTV本編を思い起こさせるおおざっぱさも少しあったものの、これくらいなら全然OK。というかアクションがすごかったのでオールOKみたいな気持ちもある。ゼロワンはデザインとアクションと役者に救われていたなぁ。
コメディリリーフのアキラ100%の格下演技もやけにハマっていたし、迅の出番が少ないぶん滅がフィーチャーされていて顔が良かったし、バルカンのアクションがTVのカタキを取るかのように華麗で、1000%課長は皆に嫌われていたし、或人とイズの絆にも泣かされ、不破さんはついに不死身のゴリラと化した。ピチピチに実の詰まったそんな60分。いいものを観た。滅亡迅雷のスピンオフVシネが待ち遠しい。
30日『イップマン 完結』 ウィルソン・イップ 105分
2019年。ありがとうイップマン師父。シリーズ完結編。息子の米国留学を考えたイップマン師匠、渡米し中華街の幹部と面会するが冷たくされ、差別にも晒される中、色々あって傲慢な米軍人と戦うことに。
年を重ね、全盛期ほどの動きは無理になり、息子の育て方にも困りつつ、人としてのしっかりとした道を歩んでいくイップマンの集大成的物語。息子との関係や差別問題を扱うことで厚みを出そうとした試みは買う(彼が乗るバスの他の乗客を見よ)一方、差別に端を発する揉め事ー軍隊内での対立のお話の接続に強引さを感じてしまった部分もある。
老いたイップマンのアクションも控えめ。華麗なものは弟子に任せて自分は「いかに丁寧に受けて、避けて、打っていくか」という円熟の動きを見せてくれる。そんなわけで以前と比べれば派手さと「意味合い」に欠ける一方、ここぞという時に繰り出されるチェーンパンチと「殺し」の一撃には脳が沸騰した。
わかりやすく悪いやつも現れるものの(スコアドさんが名演&名殺陣で受けて立つ。でも彼がいびる中華系の兵士の名が「ハートマン」なのはやりすぎやw)、最後には一人の格闘家の伝記ドラマとして、静かで綺麗な終幕を迎えるのであった。
……とは言え欲を言うと、この内容なら「息子反抗期編」と「米国の弟子に会いに行く編」の2本に分割して観たかった気持ちも。しかしこうして完結を迎えたからには、万雷の拍手を送りたい。最後に撮影される「それ」は、晩年のものがyoutubeで観ることができる。
以上 全153本(再見含)
来年はいい映画が観れる平和な年になりますように。