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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 59&60
●59
…………持ち込んだあまり似ていない生首を示して、「ジョーの首ですよ」と言いつのるポンチョの男はかなりしつこかった。
そこで、もはや106も107もない、と開き直り気味だった俺が「わかったよ」と白旗をあげた。面倒だ。とりあえずもらっておけばいい。
「ダラス、紙にその方のお名前を頂戴しておいてくれ」
それでもやはりイライラとはしていたので、俺はバカ丁寧にそう言った。
紙とはつまり、首の預かりのリストの一枚である。
朝イチでやって来たおかみさんと爺さん、2人が持ってきた2つの首。
首の謎は放置されたままだが、とりあえずはどちらかどちらの持参した首かわかるようにしておく──少なくともそう思わせておく──必要がある。そこでダラスとブロンドが思いついたのが「リスト」だった。
まず首の入っている袋に名前かマーク(爺さんは字が書けなかった)を書いてもらう。次に、こちらの用意した紙にも同じ名前かマークを書いてもらう。
「これで後日、どちらの首をどちら様が持ってきたかわかるわけです」
おかみさんと爺さんはなるほどと納得し、袋と紙にサインをして、じゃあ明後日にでも、と言い残して機嫌よく、あっけなく帰っていった。
もちろん10万ドルなど払うつもりはないが、これで今は切り抜けられたわけだ。
「なんとかなりましたな…………」ダラスは汗を拭き拭き、疲れた様子で椅子に腰かけた。「くたびれました」
「しかし見れば見るほどそっくりだ」まだ首を見つめているモーティマーが小さく言う。
トゥコは怖いのか首に目もやらずに、嫌な予感がするぜ、朝イチでそっくりな首が並ぶなんて考えられねぇよ、と呟いた。
その予感は5分としないうちに当たった。
とりあえずこんな場所に首は出しておけない、となった。ウエストが渋い顔で首を袋に詰め直して、奥の倉庫に持っていく。
一緒にしまっとくのは気味が悪い。酒瓶だの薬だの包帯だのの、ガチャガチャしたものは倉庫の外に出そう、と俺が言った背後で、
「おはようございます……」
サスペンダーをつけたひょろ長い若い男が、ひと抱えもないくらいの木箱を持ってスイングドアの前に立っていた。
●60
「水呑場に隠れてたこの悪ったれを、棒っきれでやっつけまして……」
ひょろ長が箱を開けてみればジョーの首だった。ただ何故か、坊主頭だった。
次に来たのは三人組だった。ひとつの町の北と南と西で、脇腹を撃たれて死んだジョーを見つけたらしい。そんなバカな。
袋から出せば、西で見つかったのはジョーだったが、あとの2つはもっとずっと人相の悪い、どこぞではお尋ね者なのが間違いなしの野郎の首だった。
次は身なりのいい爺さんだった。だがクワを担いでいた。極悪人を倒した祝いに、正装に着替えてきたそうだ。「これの尻で仕留めて、これの刃で切った」と言うので俺たちは気分が悪くなった。
首はジョーのもので、今までで一番面変りのしてない首ではあった。だがすでに「ホンモノ」の首は4つ集まっていた。
ジョーの首を持参した奴にはサインを記してもらう。明らかに違う首やキャベツやカボチャなんぞを持ってきたバカはトゥコやブロンドやウエストによって外に放り出される。それを繰り返していたが……
実のところ、「ホンモノ」の首が5つになった時点で、俺たちの心の中は嵐みたいな状態に陥った。
ジョーには本当に兄弟がいたのかも。いや似たような奴を集めて影武者に。だがそんな余力が奴にあったとは考えにくい。ジョーの一味は俺たちがみんな消してしまっているじゃないか。
「ニンジャかもしれない」ダラスが言った。
「以前聞いたことがある。アジアの国では、闇にまぎれて人を殺す、不思議な技を持つ人間がいる。そいつらは分身もできて……」
馬鹿馬鹿しい、と俺は一蹴した。そんなものどこで知るんだ。どこで習う? それよりかは、黒人や先住民の呪い、なんて方がよほど真実味がある。ジョーに呪われる理由? もちろんある。
それから持ち込まれた212の首についていちいち書くこともないだろう。半分の106つは野菜、岩、土くれや、他の誰かなどの明らかな偽物で、あとの半分の106つは多少面変りしていたり老けて見えたり幼く見えたり、あるいは髪型が違っていても、どう見たってジョー・レアルだと思わせた。
一時は店外に8人並ぶこともあったが、俺たちは馬鹿丁寧に一人ずつ招き入れてとり憑かれたみたいにいちいち首を確認し、サインを受け取ったりケツを蹴り上げて追い出したりして、ホンモノの首を奥の倉庫にしまいこんだ。
どうして、本物とおぼしき首が5とか10とか20くらい並んだあたりで打ちきりにしなかったかって?
俺たちは「15万ドル」のために本物の首が必要だったから……というのは表向きの理由だ。
素直に言えば──怖かったからだ。
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