【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 47&48
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「なんだこれは?」そのまま袋をひっくり返す。「ふざけてるのか?」
ごろん、と出てきたのは人の首…………くらいの大きさの、よく熟れたオレンジ色のカボチャだった。
「そ、そ、そんなバカな」郵便局員は口ごもりながら慌てふためいた。
「た、確かに昨日俺は、家に入った賊を、ジョーを……。さ、さっきまでは首だったのに……」
ブロンドが例のすごい顔になりかけているのにおじけづいて、男は目を泳がせた。
「うるっせぇやいこのバカヤロウ!!」
しばらく黙っていたトゥコが俺の脇から飛び出して、郵便局員の尻を短い足でいやと言うほど蹴り上げた。
飛び上がって何か言おうとするのをさえぎってトゥコは畳みかける。
「こんな小細工にもならねぇ細工で10万ドルせしめようなんざとんでもねぇ野郎だ! このバカタレ!」
そう言ってもう一回尻を蹴る。さっきまでダラスにお鉢を奪われていた腹立ちまぎれもあるだろう。
「おめぇはとんでもねぇ詐欺師だ! 俺たちがアホだからホイホイ10万ドルくれると思ったかそうはいかねぇこちとら西部イチの賢さだ!」
三度目に尻が蹴られて、泣きそうな顔になりながらドアの方へとヨタヨタ歩みはじめた。
「帰れこの嘘つき! 家に帰ってポックリ死んじまえ! 死なねぇなら俺が殺してやる! バッカヤロウ!」
スイングドアを力なく開けて、立派なヒゲもしょんぼりしおれて見える郵便局員は外に出ていった。ドアが開いた瞬間、自転車が見えた。あれに乗ってきたのだろう。
「帰れ帰れ帰れ! そのオンボロに乗ってよ! ……そら忘れもんだ!! 頭の代わりにこれをつけとけ!!」
トゥコはテーブルの上のカボチャをひっつかんで外にぶん投げた。わっ、と悲鳴がしてカボチャが地面に落ちて割れたかと思ったら、猛スピードで自転車の漕ぐ音が遠ざかっていった。
「このカボチャ野郎!!」
我慢していた感情を一気に爆発させたトゥコはゼイゼイ言いながら肩で息をしていた。
おかみさんと爺さんを含めた俺たちはその勢いに圧倒されて、ただトゥコを見ているだけだった。
普段の呼吸を取り戻したトゥコは、ハッと気づいたようにドアに向かっていき、外を覗いた。
「どうした?」ブロンドがまだぼんやりとしながら聞いた。
「いや……もったいなかったかな、と思ってよ……」トゥコは答えた。「カボチャが…………」
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呆然とその様を見ていた俺たち5人とおかみさんと爺さんの虚をつくように、トゥコは言った。
「まぁその、ああいう輩も来やがるもんだから、慎重に丁寧に、首を確認せにゃならんのよ。なぁっ?」
笑顔を作ってダラスの顔を見る。さっきの話の続きを促しているのだ。そう、この混乱の直後なら丸め込めそうだ。
「…………は。えぇ! そう、そうなんです…… お二方には失礼かもしれませんが、この首もどちらかが他人のそら似ということも、あり得なくもないわけで」
「そんなバカな。こんなにそっくりなのに、他人ってこたぁ……」爺さんが口を挟む。
「そこで、そこでなんです」ダラスは両手の手の平を二人に見せた。タネも仕掛けもございません、みたいな仕草だ。
「明日にですな、ジョーの側近で、長く一緒にいた者が、首を確認しに来る予定なのですよ」
「……そんな奴がいるのかい? あんな悪い奴の仲間が……」
「いやいや、まさにそのジョーの悪さに嫌気がさして逃げ出した男でしてね……遠くに逃げているのを私らが見つけて、呼んだんですよ」
「俺らにはほら、横の繋がりってもんがあるからよ!」トゥコが真っ赤なウソを補足する。「どういう野郎かはちょいと教えられねぇんだがな!」
「もちろんこの首のどちらかがジョーで、どちらかが弟ということもありえます。むしろおそらくそういうことになりましょう。その弟の首を持ってこられたお二方のどちらかには、お詫びがてら、えー…………」
ダラスは芝居がかった動きでブロンドを見た。ブロンドは指を2本立てる。
「2000ドル! 2000ドルを後日、お支払いします──いや、あまりお出しできなくて申し訳ないのですが……」
おかみさんと爺さんは顔を見合わせた。そりゃあそうだ。 10万ドルは信じられないような大金だが、2000ドルもかなりの大金だ。信じられる程度にはでかい金額なのだ。
「いや……そういうことなら……あたしも数日くらいなら待つよ……?」
「わしもまぁ、二日くらいなら……」
「そうですか! 結構ですな!」
ダラスは聞こえるか聞こえないかくらいにぱしん、と手を叩いてから、揉み手した。銀行員をやっていた頃もこの調子で喜んでいたに違いなかった。
「実は今日ここには、10万と2000ドルは置いてないのです。銀行に預けてありまして、このような事態にならなくとも、お渡しは明日以降ということになっておりましたもので……大金を手元に置いておくには、物騒な世の中ですから……」
重たくも軽やかな足取りで、奥のテーブルにいく。そこにあった奴の唯一の持ち物、カバンを開けて、中から紙の束とペンを出した。
「さ、ここに預かりのサインを……!」
その紙の差し出し方、ペンの向け方も、いかにも手慣れた様子だった。