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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 37&38

【前回】

●37
「なぁおい」俺は足元にあったランプをひとつウエストに渡した。「これをあの……首のそばまで持っていってくれ。俺たちじゃあ、とても……な?」
 ウエストはわかりやすく嫌な顔をして、渋々ランプを受け取った。
「暗いから、置くよ」
 ウエストはそう言い、布の服の男の脇に立って、首の脇にそっと、女の肌に触るみたいにランプを置いた。

「うぇっ!」
トゥコがうめいた。俺も声が出そうになった。
 首は──持ち込まれた首は、ジョーの首に見えた。
 凛々しい眉も、閉じられた目も、顎の線もそっくりだ。

 ……そっくり?

 いや、違う。あれは違う。
「あぁっ、違う……違うなぁ……」トゥコも安心したように、また誰に言うでもなく呟いた。
「ああ……似ているが、違う」俺はその呟きを受け止めて応えた。

 立っていたブロンドは一歩だけ前に進んだ。まだテーブルからは遠かったが、腰をかがめて、自分の首をカメのようにつき出して、首を見つめた。
「そうだ」
 ぼそりと言った。
「似てはいるが、これはジョーの首じゃあない…………」

 6人全員が心底安心した溜め息が、バーの店内に吐き出された。
 ジョーを幾度か見た野郎3人が、確認して断言したのだ。
 鼻の形も違うようだし、口角もこんなに下がってない。顔の形もこんなにカチッと硬くなかったはずだ。
 何よりもあの若々しいジョーよりも老けている。これでは中年だ。40歳過ぎくらいだろうか。ジョーの20年後、と言われたら、そうではあるかもしれない。
 もう一度安堵の溜め息をついて、ブロンドが布の服の男に言った。
「…………残念だったな兄さん、確かに俺らの出した手配書に似てるがな、ジョーじゃないようだ」
「そんな」
 暗がりにいる男は静かな声で抗弁した。
「別人じゃあないですよ」 

 その台詞は今朝から150回は聞いていた。
 偽の首を持ってきた奴はみんなそう言うのだ。
「これが別人なわけない」
 とか、
「さっきまでは確かに首だった」
 と。



●38
 今日、最初の首が持ち込まれたのは6時だった。朝の6時だ。
 俺たちのような輩は「仕事」でもない限り夜は遅いし朝も遅い。6時なんてのはまだとっぷり夢の中だ。それに「ヘンリーズ」の床は硬くて冷たいし、ゆっくりじっくり眠らないと疲れが取れない。
 ただ一人、ウエストだけは違った。6時前に一度目覚めて、それからもう一度寝る。「どうしても6時前には起きるのが体に染みついている」みたいなことを以前言っていたが、詳しくは語らなかった。俺たちも聞かなかった。
「なぁ、なぁ」
 たぶんよくない夢を見ていたであろう俺は揺さぶられて起きた。うん? と目を開けるとウエストだった。
「もう首が来たぞ」
「もう? 首が? 来た?」
 俺はオウム返しに聞いた。早すぎる。一昨日の夕方にジョーの「手配書」ができあがり、その夜から昨日の昼にかけて広くばらまいたばかりだ。早すぎる。ついでに朝6時ってのも早すぎる。まだ眠い。
「あぁ、首が来た」
 モーティマーが答えを引き取った。奴はもう身を起こしていた。そういえば今日の寝ずの番はこいつだったな、と眠気を飛ばしながら思い出す。
 モーティマーはほとんど眠らない。たぶん3時間と眠らないと思う。その3時間も「寝ているように見えて半分起きてる」と言ったのはウエストだった。
「モーティマーは、ほとんど寝てない」いつぞやウエストが、珍しく理解か追いつかないような顔で言ったのを覚えている。「あれは、俺が深く寝れないのとは違う。心を壊す寝れなさだ。なんなんだろう……?」
「そうか。それは気になるな……それとなく聞いておこう」
 俺は嘘をついた。聞いておくというのも嘘だし、気になるというのも嘘だ。俺だけは奴が「寝れない」理由を知っていた。
 ウエストは律儀にも他の奴らも揺さぶって起こして回る。わかったもので寝起きのいい者から手をつける。モーティマーは言わずとも半分起きている。俺、ブロンド。それにトゥコとダラス。
「なんだよこんな時間から……昨日の酒が残ってて……」
 どの時間に起こしてもトゥコはそう小声で愚痴って頭を押さえる。だがそれだけだから可愛いものだ。
「うわぁっ!?」
 眠りから引き戻す時、一番困った奴がダラスだ。こいつは必ず一度叫んで目覚める。それから一瞬で元に戻って「そうだ……もういないんだった……」と呟く。
 ダラスとの出会いは奇妙なものだったが、そのことはしばらくあとで話せるだろう。

【続く】

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