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お肉仮面

「お肉仮面」
 を、知っているだろうか。


「お肉仮面」とは、奇妙なお面をつけて、様々な場所に現れる人物の名前である。
 その名の通り、平たい肉の仮面をつけて、顔全体を覆っている。焼いた肉ではない。ナマの肉だ。
 真っ赤で、所々に白い部分のある、生肉のお面である。
 両目にあたる部分にぽっこりとふたつ、穴が開いている。
 その真っ黒な穴から彼、あるいは彼女の瞳の色や目つきを確かめることはできない。

 お肉仮面は、いつもそのお面をつけている。絶対に外さない。
 その姿のまま、いろんな場所に現れる。
 高架下やビルの隙間、街角や路地、森や公園に、果ては電車の中にまで現れる。
 昼も夜も関係なく、いつ、どんなところに出現するか、誰にもわからない──


 
 …………と、ここまで読んだ人の中で、さっさと「お肉仮面」で検索してしまった人がいるかもしれない。

 Twitterのアカウントが見つかり、Instagramのアカウントが見つかるだろう。
 高架下や、ビルの隙間、街角や電車の中で、小首をかしげている「お肉仮面」さんがいる。
 着物から洋服までスマートに着こなす「お肉仮面」さんの画像もある。
 奇妙な加工がなされた動画の「お肉仮面」さんもいる。

(※一例)

 
 その姿に少しの不気味さと、ほんのりしたユーモアを感じるだろう。
 そしてTwitterやnoteで、「 #第一回お肉仮面文芸祭 」という企画とタグを見つけ、頷いている人もいるだろう。
 なぁんだ。都市伝説とか怪談じゃないんだ。
 そういう不思議な人というか、ネットのかわいい悪ふざけみたいなものなのかな。



 ──最初のうちは、確かにそうだったのだという。



「おかしいな、と思ったのは、初秋の頃でした」
 お肉仮面さんの知人である、電楽サロンさんはこう語った。
「時々ね、仮面の模様が違う画像が投稿されるんですよ。いつものお面とは全然違うやつ……」


 そのいつもと違う画像は、数分かせいぜい5分で消えてしまうのだという。
 電楽サロンさん以外にも気づいた人は複数いて、Twitterやインスタで指摘があったそうだ。

「これって、いつものお肉仮面さんのお面じゃないですよね?」
「普段より赤みが少なくて、色がにぶい気がするんですけど」
「いつもよりなんか掘りが深くて、人面っぽいですね」

 しかしお肉仮面さんのアカウントからの返答や回答はなく、そのうち投稿が丸ごと消されてしまうため、当の画像は残らない。


 気になった電楽サロンさんは、お肉仮面さんに直接、メールを送ったのだという。
「時々アップされてすぐ消されちゃう、いつもの君のとは全然別の仮面の画像、あれって何?」
 そういう旨の文章を書いた。

 元々寡黙なタイプで、文章でのやりとりもごく少ないお肉仮面さんなのだが、この時は返事が来た。
 本文には一言、こうあった。



「わからない」



 わからないってどういうこと? と返すと、



「こわい」



 とまた、短い返事が届いた。

 それからどんなにメールを送っても、返事はなかったという。

「それでもお肉仮面さん、マイペースにいろんな場所に出かけて、シュールで面白い画像を上げてくれてるんですけどね。
 本人は普段通りにふるまっていて、できるだけ気にしないようにしてるような感触なんですが、友人としては少し心配で…………
 アカウントの乗っ取りにしては荒らす頻度が低いし、投稿はすぐ消えちゃうし、よくわからないんですよ。
 これって、なんなんでしょうね? ちょっとよくわからないので、怖い話を書いてるドントさんに聞いてみようかな、って」


 そのような相談が、電楽サロンさん(と、お肉仮面さんの連名)で、自分の元に寄せられたのであった。

 自分は確かに、noteに実話系の怖い話を書いている。掌編の百物語も書いた。
 しかしこれは、他の人の語っている話を文章化しているだけであったり、ずっと以前に見聞きしたちっちゃな話をどうにか形にしてみただけの代物だ。
 リアルタイム進行中のやつを送られてくるのは、平たくいうと怖いのである。超怖いのである。正直勘弁してほしい。
 ゲェーッ怖いなぁ、どうしよう……などと考えながら、返答に困っていた。

 その翌日だった。

 noteで創作活動をしている方々とは全く別の層のTwitterのフォロワーさんから、ダイレクトメール(Twitter独自の個別メール)が届いた。
 以下が、そのダイレクトメールの本文である。
アイコンとユーザー名を伏せたいため、コピペとさせていただく。引用符の「>」の他は、誤字なども手を加えていない。一応、転載の許可はいただいてある。
 なお確かに先日、お肉仮面さんの画像(どこか暗い空間にぼんやりと立っている)をRTしたが、先ほど確認すると、その投稿は跡形もなく消えていた。
 
 


ドントさんがrtしたお肉仮面という人のへんな画像を見たらじぶんのまわりにお肉仮面の人みたいな人があらわれ始めたんですけど呪ですか。あれって呪いの画像ですか? どうにかできますか?


いろんなことろにいて自分を見ています。すごくこわくていやなんですけど、おはらいにいった方がいいですか。


これネタとかじゃないです。ネタとかと思うといやなので、その人がいろんなばしよにいて自分を見てる写真を送ります。


二枚目のいけがきのやつがわかりやすいとおもいます。川は暗くてわかりづらいけど川の中です。 まんなかです。
おはらいにいったほうがいいですか?





 ……自分には、お肉仮面さんやそれに似た人物、それどころか、人影すらもないように見えるのだが………… 


 このダイレクトメールをくれた方には、とりあえずお祓いをおすすめした。
 今現在(12月9日0時29分)、その方からの返信はなく、Twitterも数日、ぱったりと更新されていない。
 毎日のように何かしら呟いていた人なので、安否が気づかわれる。

 このような事情もあり、「第一回お肉仮面文芸祭」に合わせて、この奇妙な現象を公にしてみたいと思った次第である。
「文芸祭」などのタグを使わせていただくのは、その方が情報収集の方法・手段として、広まりやすいと考えたからだ。


 そんなわけで、
 いつものお肉仮面さんとは違う「顔」の動画像を見かけた方。
 身近に「お肉仮面」らしき人物・お肉仮面に似た存在が現れた方。
 いらっしゃいましたら、お知らせください。



 なお、Twitterやインスタで、「これっていつものお肉仮面さんじゃないですよね?」と指摘した人々のアカウントは、なぜか現在すべて削除されてしまっているという。


 凍結されたのか自分で消したのか、彼ら・彼女らの身に何が起こったのかは、まったく不明である。











 

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ドント
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