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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 7&8
●7
「あれが例のジョーか」ブロンドは顎に手を当てて感心したように呟く。
「そうだ、あれがジョーさ」とトゥコは言ってから3杯目を一気に飲んで、「こいつはうめぇ!」と言った。
「あのシューッとした顔でよ、丁寧な態度でゼニカネを奪うだろう? 殺しもまずしないらしい。金持ちのお嬢さんにゃあ、“紳士強盗”つって愛好者もいるとかいねぇとかで」
チッ、と俺は聞こえるように舌打ちをした。わざと荒っぽくバーボンを一気飲みして、トゥコをにらんでグラスを雑に置く。
気に入らない。
「しょうがねぇだろうがよ、聞いた話なんだからよ」
「まぁ、喧嘩はするな。酒がまずくなるだろう?」ブロンドが俺とトゥコの間に入る。「それに男前ではあるが、俺ほどじゃあないしな」
「……そうだな」
「……そうさな」
俺たち2人はまたこれだ、という態度を出さないようにそれだけ言った。
このブロンドは、自分がアメリカいちの男前だと言って聞かない。同率はいるだろうが、俺はアメリカいちだと。
確かにブロンドは男ぶりはなかなかによかった。彫りが深く濃い顔つきにくっきり大きな目がついていて、ふるまいも身のこなしもゆったりしていて、当時の俺たち3人組の時代でも、今の6人の時代でも、女からは一番に好かれるだろう。
ただ問題がひとつあった。
ブロンドは50歳を越えているのだ。
若い者と張り合うどころか、もう男の店じまいを考えなきゃならない年齢だ。だがブロンドは男前であること、色男であることにこだわった。しがみついていた。
だがもう5年もすればその頑張りも、壁に無理に塗った泥のように乾いてボロリと落ちるだろう。
本人もそれに気づいているのか、女に対するこだわりや執着がどんどん強くなっていっているのだった。
●8
酒を飲みきったらしいジョーが立ち上がった。やはり背が高い。ブロンドや俺よりも高い。6フィートほどだろうか。トゥコ? トゥコはあいつに比べたら女の子みたいなもんだ。
スッと伸びた足を動かして、わざわざカウンターに向かった。
「ごちそうさん」
そう言ってポケットから銀貨を出して、女房の前に置いた。
「あら、こりゃもらいすぎだよ」
「いいって。じゃあな」
身のこなしも、動きも、言い方もごく自然で、気取った部分がなかった。
ダスターコートの裾をはためかせて踵を返し、店の真ん中を歩いていく。カンザスとミズーリのど真ん中の線の上を。
州境とされる線の切れ目の、バーの入り口。スイングドアのあたりまで歩いてから、ジョーはちょっと店内を振り返った。家を出るときに忘れ物がないか確かめるみたいな振り返り方だった。
それから、ドアの音も立てずにまだ明るい外に出ていった。
あの体つきも、顔も、身のこなしも、態度も。悪党の匂いのなさも振る舞いの嫌味のなさも、若さも、おそらく明るく拓けている未来も……
俺はジョーの何もかもが気に入らなかった。
俺の隣ではトゥコが4杯目を一気に飲んで、クゥーッと唸って頭を抱えていた。
その「どっちだか」だが、ちょいと前に俺たちが燃やしちまったので、もうそこには何も建っていない。おやじと女房にも死んでもらった。
あとでわかったことだが、「どっちだか」が州の境に立っているなんてのは嘘っぱちだった。当然と言えばそうだ。そんなことは国か州の決まりだかで許されないのだろう……よく知らないが。
店は州境ギリギリではあったが、完全にカンザス側に建っていたのだそうだ。だから俺たちはあの時、ミズーリと書かれたカンザスで飲んでいたわけだ。
そんなふざけた場所に建てて、ふざけた店の名前にするから、俺たちみたいな悪い奴らに焼かれることになる。
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