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七日間の炎の華

「シャリャ。あなたの名はこの地では、こう書く」
 ハナさんは俺の母星語で拙く言いながら、砂浜を指でなぞった。
 火、という文字が書かれた。
「ヒ、と読む」
「ヒ」俺は繰り返した。
「そう。それで、ヒがあのように、大きくなるでしょ?」
 浜に置かれたドラム缶の中で木材が燃えていて、十数人の同胞たちが手をかざしている。火が高く立っている。
「それは、こう書く」
 ハナさんは火の上に、もうひとつ火を書く。
「ホノオ、だ」
「ホノオ」
 ここの字は簡単だ、と俺が言うとハナさんは苦笑した。
「色々苦労すると思う。けど頑張ってほしい。私も頑張るから」
 夜空の遠くから爆音がした。ガオラー地球、惑星間資源輸送機、その一台目だ。
 俺たちは立った。海の風が身を切る。
「シャリャ、あなたに皆をまとめてほしい。よろしく」
 ハナさんは小指と薬指のない手を差し伸べた。

 そうして、ここで握手したのは5年も前になる。
「やめてくれよ、おい」
 ドラム缶には昨年赴任してきた太った男が入っていた。
 この主任は我々を虫のように扱った。死んだ同胞は20人を超える。
「お前らの命はな、資源1箱より安いんだよ」
 その言葉で忍耐は決壊した。彼以外の社員は全て海に叩き込んだ。
 ドラム缶は小舟に乗っていて、中にはみっしりとボロ布が詰まっている。
 男の頭から灯油を注いだ。ボロ布を引き出して火をつけると、ちろちろと這い上がっていく。
「やめてくれよ! い、慰謝料なら本社から」
「金ではない。誇りの問題だ」
 俺は舟を蹴り出した。離れていく。男の叫びも遠くなる。
 夜の海が一点明るくなり、絶叫が響いた。

 炎。

 背後にいる数百名の同胞が、体を赤く膨らませながら雄叫びを上げた。
 喧騒の中、ケゲが私に囁く。
「で、どうする?」
「東京へ行こう」
 ケゲは目を剥いた。
「正気か、シャリャ」
「海沿いに、似た境遇の人々を集めながら本社へ向かう。奴らを許すことはできない」
 そこにはハナさんもいるだろう。社の幹部になったハナさんが。


【つづく】

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