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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 67&68
●67
…………ジョーとハニーは結婚したのではなかったのだ。していたのかもしれないが、それはこの際どうでもいい。
ジョーはハニーを仕込んで、とんでもない凄腕の「ならず者」に仕立て上げてしまったのだ。
そこらへんの宿にいた娼婦が、数ヵ月ほどで馬を乗りこなし、銃を操る「ガンマン」になったのだ。まるで手品みたいに。1、2、3ヶ月ってとこで。
それも困ったことに、師匠にして相棒のジョーにならって、こいつもなんとも丁寧な「紳士的強盗」になったのだった──いや、「淑女的強盗」と言うべきか。
一人前になってからの2人の活躍はそりゃあ華麗だった。
それ以前のジョーはごくまれに、悪辣な金持ちあたりに反撃されて仕方なく命を奪うこともあったらしいが、2人になってからはどんな仕事でもせいぜいケガ人を出す程度。しかも襲うのも金持ちの家から大地主に銀行にと、どんどん格が上がっていった。いつの間にやら他にも10人ばかり仲間だか手下が増えたらしかった。
どんな魔法を使ったものかわからない。だがそれくらい、2人は相棒として、先導者として完璧だったのだろう。互いに互いを支え、足りない点は補い合い、相手や仲間のミスを補填する。職人が作る組み木の建物みたいにガッチリと噛み合っていた。いつしかそう呼ばれるようになった「ジョー・レアル団」の仕事のクリーンさと見事さは、世間を惚れ惚れとさせた。
西部からさっぱりいなくなっていた「義賊」の伝説が、再び黄金色に輝きはじめた。
「クソッタレのジョー」と呼んでいた俺とウエストは苦虫を噛み潰したような思いだった。その上さらに面白くない方に世の中は傾きはじめた。
俺たちのような、「綺麗じゃない仕事」をやってる奴らへの風当たりが強くなってきたのだ。
もちろん、法の番人である保安官殿はどちらも等しく取り締まる、とおっしゃる。だが奴らも出自はならず者だったりする。綺麗な仕事をする奴より、汚い仕事をする奴をやっつけた方が名が上がる。ならず者ならそのくらいの勘定はする。
とどのつまり、俺たちは仕事がやりにくくなり、奴らはスイスイと仕事をこなしていった。
その華麗な手口に、西部にやってきて身を立てようとしていた純粋でバカな若い奴らが憧れていると言う。弟子入りや仲間入りしたいと言う。酒場でジョーを褒めそやすそういうバカを、俺は何人か殴った。
大がかりな捜査網が敷かれ、まずは荒い手口で有名な野郎どもが逮捕、射殺されはじめた。そういう世の中の流れになりつつあった。
まったく、気に入らない状況だった。
●68
「なぁ、この調子でいいのか?」俺はある夜、全員に問いただしたことがある。
「このままじゃああいう、ジョーのようなやり方が主流になって、俺たちみたいな荒っぽい仕事はやりづらくなっていくんじゃないのか?」
「そうだよ、みんな、考えなきゃ」と、ウエストは言った。こいつは元より、金持ちや地主にも優しく接するジョーが死ぬほど嫌いなのだった。
トゥコは酒を一杯飲んで「まあまあだな」と言いながら、
「しかしよぅ、確かに締め付けは厳しくなってるが、そりゃあ一家惨殺だの馬車の客皆殺しだのの、そういう輩がとっちめられてんじゃねぇのか? 俺たちゃまだ綺麗な方だぜ」
「そういう奴らがいなくなったら、次は俺たちだ。そういう風に考えていかなきゃまずい」
「それじゃあどうするってんだよ。どうすっか意見を出しなよぅセルジオ」
「そりゃあ……」
「こっちも軟化していく、ってのは選択肢としてなくはないかもしれませんな」
揺れるランプの下でダラスが大きな腹を動かしながら言った。
「自由も欲しいですが、捕まったんじゃあ意味がない」
あんたは留守番だものな、と言いたいのをグッとこらえて、今までのやり方を変えるのか? と返した。
「4年やってきたこのやり方を変えようとは思わない。それじゃあまるでジョーに屈したようなもんだ」
「確かに気に入らないな」
モーティマーが短く同意したが、大賛成といった具合ではなかった。
この会話中、ブロンドはずっと黙っていた。最近村で洩れ聞いたというジョーとハニーの関係について、奴はどう判断していいのやらずっと悩んでいる。
つまりこういうことだ。
ジョーは「妻として」「愛人として」ハニーと一緒にいるわけではない。
ハニーも「妻として」「愛人として」ジョーの元に行ったわけではない。
師匠と弟子の関係のあとは、あくまでも対等の相棒として付き合っているに過ぎないようだ──。
女を盗られたのは確かだが、「女として」盗られたのではない。そんなはじめての状況に、ブロンドは怒るでも何も感じないでもなく、とにかく困惑していたのだった。
結局その夜は、話は盛り上がらずに終わった。俺とウエストがどうにかしなけりゃと言い、トゥコが「そうか?」と水をさし、ダラスは「変わるのはこっちかも」と言う。そんなやりとりに終始した。
これが指を鳴らすようにぱちん、と劇的に変わったのは、翌週のことだった。
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