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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 3&4
●3
…………「手荒なことはしたくない」だそうだ。「素寒貧にはさせやしないから」だとさ。「金目のものをよこしてくれないか?」ときた!
そして無事に、相手が無抵抗で金品を渡すとこう言い残して去る。
「どうも。悪かったね」
「どうも。悪かったね」だとよ。「どうも。悪かったね」だと!
どういうつもりだ? 小綺麗な町でスタスタ歩いている、スソの長い服を着た野郎や女どもにでもなったつもりだろうか? お前はそいつらの側じゃない。そいつらから取る側じゃないのか?
この話をアーチーから聞いた時はカッとなったもんだった。とんだクソッタレじゃないか? 俺は思わず目の前にいたアーチーをぶん殴った。
「なにするんだよう!」
アーチーはスタントンのバーの床にすっ転がってバカな犬みたいなツラで俺をにらんだ。そのバカな犬みたいなツラにまた腹が立ったので、ブーツで顔が顔じゃなくなるまで潰そうとしたが、トゥコとブロンドにそれぞれ両腕を押さえられ止められた。
「ここで酒が飲めなくなるだろ!」とトゥコは言った。
「こいつはもうだいぶ不細工じゃないか」ブロンドは涼しい声で言った。「これ以上不細工にしちゃあ可哀想だ」
ブロンドの太い腕は俺の右腕をしっかり押さえていたが、トゥコは半分持ち上げた俺の左腕にぶら下がるみたいになっていた。
その様こそ格好がつかなかったが、「ここの酒が飲めなくなる」という形相は真剣そのものだった。俺は一瞬で冷静になった。
俺は壊れやすいグラスみたいなもんだった。ある程度怒りが溜まるとあっけなく割れる。そうなると人を殴ったりする。そしてすぐグラスは元に戻る。あまりよくない性質だ。自分でもわかっている。この2人と組みはじめてからはだいぶ収まっていたが、それ以前はだいぶやらかしていた。いや、「かなり」だ。テキサスにいられなくなったのも、実はそのせいだった。
だがこの西部で強盗や殺しをやろうってんなら、一瞬で出せる馬鹿力は必要なのだ。ジョーのようないけすかない仕事ぶりでもなければ。
…………一度だけ、そのジョー・レアルの姿を見たことがある。
●4
一度だけ、ジョー・レアルの姿を見たことがある。
もちろん墓場で襲った時なんかとは別だ。もっとずっと前の、俺たちが無関係の時代のことだ。
あれは3年ほど前だったか、アーチーをぶん殴る直前のことだった。ジョーの噂くらいは聞いていて、「へぇ、そんな野郎がいるのか」くらいに思っていた時期だ。
カンザスとミズーリの境の、どっちだかだった。いや、飲み屋の名だ。バーの名前が「どっちだか」なのだ。州境にあるから「どっちだか」とつけたらしい。ふざけた店名だったと今でも思う。
「どっちだか」の床板のど真ん中には一本まっすぐ、ピンク色の線が入っていた。店の中心あたりにはこう書いてあった。
←カンザス┃ミズーリ→
ブロンドとトゥコはなかなかだなとニヤついたが、俺は全然、この種の笑いがわからない。ぴくりとも笑わなかった。
ブロンドにどこにすると問われてどこでもいい、と答えた。俺たちはミズーリ側の、店の一番奥のテーブル席に座った。
仮に入口に保安官殿や軍隊様がやって来ても、窓から突入して来ても応戦できる場所だ。それになんとなく、カンザス側には座りたくなかった。昨日一発、仕事をしたばかりだったからだ。人も幾人か死んでいた。
店のおやじが来るのを待たずにカウンターに行った。俺たちはバーボンを一杯ずつ頼む。トゥコはいつも通り、店の中の酒を棚ひとつ分全部、一杯ずつ頼んだ。
ぽってり太って小さな目の店のおやじはトゥコの注文にぽってり太った顔の中の小さな目を剥いて、親指で後ろの酒棚を指しながら「ここのを全部ですか? 一杯ずつ?」と聞き直してきた。
「そうよォ。全部。一杯ずつ」
トゥコは鼻の下に生えたバカみたいなチョビ髭を指でさすりながら、ニコニコして機嫌よく答えた。
「まとめてでもいいし一杯ずつでもいいからよ、とりあえずそこから」指で酒棚の左端をさす。「そこまで」ツーッと動かして右端まで流した。「全部味見をしてえのよ。なっ!」
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