新・NHKから国民を守る党をぶっ壊す!9~総選挙編~
2021年10月31日に投開票された第49回衆議院議員選挙。「NHKから国民を守る党」改め「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(NHK党)は30人の候補者を擁立した。結果は全員落選。それどころか、全員が供託金没収となる惨敗ぶりで、国政政党の中では唯一の当選者なしに終わった。ところが、NHK党界隈ではこれを事実上の勝利だと捉える声が出ている。
果たして本当にNHK党は総選挙で勝利したと言えるのだろうか。
この「NHKから国民を守る党をぶっ壊す!」も第9弾となる。前作「新・NHKから国民を守る党をぶっ壊す!8~諸派党構想編」から約半年経ってしまったが、その間の歩みを振り返ることで、総選挙の成果を検証していければと思う。
なお、NHK党は現在「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」というのが正式な党名であるが、これまで頻繁に政党名を変更してきた。そのたびに本論のタイトルを変更するのも紛らわしいため、本論のタイトルは「NHKから国民を守る党」で通している。また、「ぶっ壊す!」とはしているが、私はNHK党のアンチではない。あくまで中立的に出来るだけ客観的事実をもとにNHK党について考察していきたいと考えている。
◆「諸派党構想 我々は政権を奪取する」
NHK党の立花孝志党首は8月30日、新著「諸派党構想 我々は政権を奪取する」を発行した。私もさっそく購入したのだが、なかなか興味深い本で、思わず一気に読んでしまった。
「諸派党構想」という書名に反して、内容の2/3は立花党首のこれまでの歩みが述べられている。もっともここが一番面白かった。立花党首は高卒でNHKに入局し、経理部で裏金処理に携わるうちに海老沢勝二会長の側近に上り詰める。ただ、立花党首がこれまで盛んに語っていた、「冬のソナタ」の放映権を買い付けた話や、選挙の出口調査のシステムを開発したという話は本書には一切登場してこない。
立花党首は2005年、NHKの不正経理を週刊文春に内部告発。その後、NHKを退職してから、2ちゃんねる、YouTubeなどでNHK問題を追及していった。
2013年6月「NHK受信料不払い党」を設立。翌7月に「NHKから国民を守る党」(以下、NHK党)と改称し、同年9月の大阪府摂津市議選挙を皮切りに地方選挙への挑戦を始めた。3度目の選挙となった2015年の千葉県船橋市議選で見事当選を果たす。知名度獲得を目的として2016年に船橋市議を辞職して東京都知事選挙に立候補してからの事は、これまでこの「NHKから国民を守る党をぶっ壊す!」でも紹介してきた通りである。
2019年の参院選では1議席を獲得し、得票率2%を得て国政政党となった。
立花党首の「諸派党」構想は、少数政党を集合させ、国政政党であるNHK党の傘下で統一名簿を作成して総選挙を戦うというものである。そのままでは切り捨てられてしまう少数意見を汲み上げるという点で、一見すると意義はありそうである。立花党首はこの諸派党構想を、「私が発明した」と自画自賛しているのだが、実際のところ過去にも似たような構想は試みられていた。
例えば、徳田虎雄代議士率いる自由連合は1998年参院選、2000年総選挙、2001年参院選でタレント候補やミニ政党出身の候補者を大量に擁立したが、当選出来たのは代表の徳田代議士のみであった。徳洲会の豊富な資金を持ち、渡部絵美、林寛子、初代タイガーマスク・佐山聡、荒勢、江藤慎一、高橋三千綱、堀田祐美子、ドクター中松義郎などの著名人や石井一二、野坂昭如、栗本慎一郎ら国会議員経験者を大量に擁立しても、議席を取ることは出来なかった。
だいたいからして「選挙を“発明”」という言葉だってドクター中松義郎が1990年代から盛んに唱えていたキャッチフレーズである。正直、私は諸派党構想にそれほど新鮮味を感じなかった。
立花党首はYOUTUBEで自著を紹介した際に題名を間違えるという痛恨のミスをしている。「我々は政権を“フンシュ”する」と紹介したのである。(下の動画の2:20~)
恐らく奪取(ダッシュ)の「奪」を興奮(コウフン)の「奮」と間違えたのであろう。書名だけならともかく、本文中にも何度も出てくる言葉だけに恥ずかしい限りである。偉そうなことを言う前に、まずは漢字の方から勉強して欲しいものだ。もっとも、漢字が読めるかどうかは政治家の資質とは本来無関係な話であるが…。
◆船橋市議会議員補欠選挙
諸派党構想の実践として、立花党首が目をつけたのは、2021年6月13日に告示された船橋市議会議員補欠選挙であった。
せっかくなので私も取材に行きたかったのだが、緊急事態宣言下でもあるため残念ながら控えることにした。(写真提供:高校生の西田悠真_若者党(@Yuma_Nishida07)より)
欠員1に対し11人が立候補。これまでの最多は6人であったというから記録更新となった。
立候補したのは次の通り。
諸派党構想を掲げる「古い政党から国民を守る党」(当時)からは5人が立候補した。立花党首によると、異なった政党から候補者を立てて、どの政党に一番多くの票が集まるかを知るための実験なのだという。そのため、5人の候補者はポスターはいずれも党名を前面に押し出し、それ以外はまったく同じデザインのものを並べている。選挙公報も提出せず、選挙運動は行なわなかった。
私はこの立花党首の実験は失敗に終わると予想していたので、立候補する人物が5人も集まったことに正直驚いた。
6月20日の開票結果、27歳の介護福祉士・佐藤つぐみ候補が競り勝った。
諸派党構想で立候補した5政党の候補者は全員下位に沈んだが、いずれも供託金没収は免れた。最多得票は「動物愛護推進党」。最下位となったのは「HAGE党」だった。大橋昌信・古い党副党首が「結果次第で、衆院選の戦略に影響してくるかもしれない。『HAGE党』がダントツに得票すれば、国政政党『古い党』から『HAGE党』に党名が変わるかもしれない」と語っていたことからも、同党に期待する声があったようだが、結果はダントツの最下位。やはりふざけていると見られたのだろう。
それにしても立花党首は本当に実験のためだけに5人もの候補者を立てたのだろうか。市議選の供託金は1人30万円で、5人だと150万円にも登り、決して馬鹿にならない金額だ。だが、候補者の得票が法定得票を上回れば、供託金は返還されポスター等の経費も公費負担となる。NHK党は自前のネット選挙株式会社でポスターの印刷を行なっているため、実費との差額を収入とすることが出来る。船橋市の場合、ポスター掲示板は654箇所あり、ポスターの公費負担額の上限は1枚あたり883円となるそうである。そのため、候補者1人につき57万7,482円、5人合わせると公費負担額は288万7,410円となる。写真で見る限り、諸派党のポスターはコピー機で作ったかのようなクオリティで、単価は1枚辺り10円もかかっていないようにも思える。つまりその大半がNHK党の収入となってくる。
ただし供託金没収点を下回ると公費負担は無くなり実費となるのだが、その得票数は総得票数を定数で割ったものの10分の1である。船橋市議選は定数50なので、500分の1。2019年の市議選に基づくと約350票となる。これは補選であっても変わらない。今回は11人しか立候補していないので、供託金没収点を上回るのは難しくないと踏んだのだろう。
諸派党の候補者はポスターにも名前がなく、選挙公報も提出していないため、一般の有権者が候補者名を知ることが出来るのは投票所の候補者一覧を見てからとなる。船橋市選挙管理委員会によると、候補者名を書かずに党派名だけを書いた場合無効票扱いとなるとのことだが、これは当然の措置である。それではとても票が集まるはずはなく、供託金没収となってしまう可能性も十分あり得た。そうなると、選挙ビジネスという目論見は潰える。結果的に全候補が供託金没収を免れたため、NHK党の選挙ビジネスは成功ということであった。
◆NHK党連戦連敗
たとえ立花党首が船橋市議補選での実験を成功と見なそうと、5人全員が当落にまったく絡むことなく惨敗したことに変わりはない。
船橋市議補選と同じ6月20日には新潟県魚沼市議会議員選挙が投開票された。ここにはNHKから国民を守る党公認で現職の大桃聰市議が立候補した。現職であり、なおかつ定数18に対して20人しか立候補していなかったにも関わらず最下位で落選となった。
大桃市議はもともと無所属で当選した後にNHK党入りしており現在2期目。4年前は383票で最下位当選だったが、今回は272票とより得票を減らしている。
その他、5月30日投票の北海道千歳市議選に立候補した中川孝之候補は、告示直前にNHK党の公認を外されたが、ポスターには「NHK」の文字や立花孝志党首とのツーショット写真を用いるなど、実質的にはNHK党の候補者だと言っていい。断トツの最下位に終わっている。
船橋市議補選を含めてこれでNHK党は選挙37連敗となった。NHK党の現職議員の多くは2019年の統一地方選で当選しているため、2023年に改選を迎える。そう考えるとこの結果はかなり痛いだろう。
5月に改選を迎えた武原正二・兵庫県尼崎市議は不出馬だったため、自動的に議席を失った。議員の離党・他党への移籍も目立っている。党名を隠しての立候補も増えてくるかもしれない。例えば夏目亜季・荒川区議があげたツイートを見ると、かつて「NHKをぶっ壊す!」のキャッチフレーズで当選したことを忘れているかのようである。
7月4日の埼玉県三郷市議選「議席を減らします党」から立候補した日高千穂候補、11日の奈良市議選に「NHKこら国民を守る党」公認で立候補して竹島啓太候補も落選している。
◆立花孝志、新型コロナ感染
立花孝志党首はかねてから「コロナウィルスなんて怖くない」と主張してきた。
その立花党首が6月8日、新型コロナウイルスに感染していたことが明らかになったのだ。立花党首は6月9日に動画を上げ、10日程前から咳や発熱などの症状があり、時に38.9℃の高熱が出ていたと述べた。にも関わらず、6月4日にはつばさの党の黒川敦彦代表らと記者会見を行ない、翌日新宿駅西口で開催されたつばさの党の街頭演説会にも参加していたのだ。
立花党首は感染が発覚してからも「インフルエンザに比べれば大したことがない」と、食欲のあるところを見せつけるべく、宅配ピザを食べる様子をアップしていた。そして「コロナに感染すると差別されると聞くので、自分がこれからどんな差別を受けるのか体験したい」と意気込んでいたが、11日になって入院することになった。
つばさの党の黒川敦彦代表も8月に新型コロナウィルスに感染したことが発覚している。立花党首同様、コロナ陰謀論を唱えていたのだから、ある意味自業自得である。しかしこの時は、まるで立花党首が亡くなったか引退したかのような不謹慎極まりないツイートを投稿していた。
まるで立花党首の後釜は自分だと言わんばかり。黒川代表は、過去に「オリーブの木」を乗っ取ったという前科があるが、次はNHK党の乗っ取りを計っているのだろうか。
立花党首は6月21日に退院。これですっかり懲りたかと思いきや、退院後も相変わらず「コロナは風邪」との主張を繰り広げている。こんなことなら入院させず死んでもらっても良かったのではと不謹慎ながら思ってしまう。
◆嵐の党→NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で
コロナから復帰してきた立花党首は、古い党を「あらし」に改名すると発表した。名前は昨年末に活動停止したアイドルグループ「嵐」が由来で、党首は「リーダー」、候補者は「メンバー」となるという。立花党首は「党首討論で『あらしの立花リーダー』と紹介される。たまたまテレビ見た人は、『大野クンはこんなふけたの?』ってなるかもしれない」などと、正気の沙汰とは思えない発言をしていた。これで分かったことがある。コロナは決して風邪ではない。なぜなら、バカは風邪引かないのだから…。
驚いたことにこんな馬鹿げたプランを信者たちは「天才」だと絶賛してやまない。さすがに酷いと思いTwitterで批判したところ、なんと立花党首からブロックされてしまった。
まったく政治家としての器の小ささを感じさせる。
都議会議員選挙が行なわれていた6月28日、古い政党から国民を守る党(古い党)は名称を「嵐の党」に変更した。「あらし」ではなく「嵐の党」と「党」を名称に残したことで、立花党首は引き続き「党首」となることとなった。
しかし、それから2週間も経たないうちに再度の党名変更を表明。7月14日の嵐の党総会において、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(略称「NHK党」)への変更が決定した。弁護士法72条とは、弁護士や弁護士法人以外が報酬目的で法律事務の取り扱いを禁じるというもの。立花党首はNHKから委託されている会社による受信料の集金業務は、この72条に抵触しているとして、NHKと係争中である。立花党首は「今日朝、シャワーを浴びながら考えている時にスッと思いついた。『NHKから国民を守る党』の党名を思いついた時と同じ」と語っているが、いつものように思い付きによるもののようだ。
党名は20文字。政党としてはこれまでの「反TPP・脱原発・消費増税凍結を実現する党」(略称「反TPP」)の21文字に次ぐ記録。ただし、政党としての届け出をしないまますぐに減税日本と合併して「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」(略称「脱原発」)となり、日本未来の党に合流している。ちなみに諸派だと1986年の参院選に立候補した「正義と人権を守り明日の日本を考える救国斬奸党」(略称「救国党」)の22文字というのがある。後に「社会を明るく住みよくする全国婦人の会」(略称「全婦会」)と合併し「全婦会救国党ミニ政党悪税消費税反対大連合」(略称「全婦会」)となった。
それにしても「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」というネーミングはどうしたものだろう。「新党~」を除けば、「党」という文字が途中に入るのは珍しい。他に思い浮かぶのは「維新政党新風」ぐらいか。どうにも居心地の悪さを感じるのだが、かつて「首都大学東京」(現・東京都立大学)に感じたものと同じである。
NHK党が名称を変更するのは、これで6度目になる。「NHK受信料不払い党」→「NHKから国民を守る党」→「NHKから自国民を守る党」→「NHK受信料を支払わない党」→「古い政党から国民を守る党」→「嵐の党」→「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」。これほどまでに党名を頻繁に替えているのでは、党名が世間に浸透せずに終わってしまうことになってしまう。
◆都議会議員選挙
6月25日告示、7月4日投票の東京都議会議員選挙に立花党首は諸派党構想の候補を擁立した。当時のNHK党は「古い党から国民を守る党」(古い党)であったが、公認2名、推薦3名の計5名。その他、諸派党構想に賛同するつばさの党からも1名立候補した。
古い党は選挙期間中の6月28日に「嵐の党」に党名を変更。しかしながら、そのこと自体さほど話題にもならず、結果は全員が落選であった。それも全員が供託金没収という惨敗。中でも練馬区の松田美樹候補が惜しかった。練馬区の供託金没収点は3,746票だったが、松田候補は3,669票を獲得。あと77票足りなかった。
◆諸派党構想始動
立花党首が各種選挙に様々な政治団体で候補者を擁立するのは、もちろん諸派党構想の実績作りのためである。NHK党のホームページには、総選挙の公認申請フォームがあるのだが、その中には「政治団体名」という項目もあり、候補者は政治団体を設立するのが前提のようである。
それだけではなく、立花党首は無所属議員や候補者にも積極的に声をかけていたようである。無所属の松本万紀・立川市議が、立花党首から届いた葉書をTwitterに公開している。
松本市議によれば、著書が送られてきたわけでもなく、葉書だけが送られてきたのだそうである。立花党首は、政治家は誰もが自分の著書を読んでいるものだと思っているのだろうか。
立花党首はかつて、党の総会で候補者の選び方を、「美人」「若い女性」「イケメン」「供託金出せるか」だけであると語っていた。NHK党の名前で勝てる可能性のある選挙区で損しない選挙をすることが大切であって、政策や人柄は不問であるという。
そのため、昨年11月頃に公開された「衆院選特設ページ」は、まるでどこかの風俗店のサイトかのような、若い女性ばかりを並べたものであった。
また、立花党首は後には、医者や弁護士といったエリートを候補者として擁立するとしていた。しかし、実際に総選挙にNHK党から立候補してきたのは必ずしも美女やイケメン、エリートとは言えない、問題のある人物ばかりだった。
それでもNHK党には衆議院解散までは現職の丸山穂高代議士がいた。さらに“青汁王子”こと三崎優太氏や、“さくらパパ”こと横峯良郎・元参院議員といった知名度のある人物もNHK党への参加を表明していた。しかし、立花党首の度重なる迷走が原因なのか、そうした人たちも次々と党を去っていった。
◆へずまりゅう擁立
NHK党は「悪名は無名に勝る」として、これまでにも犯罪歴のある人物や問題のある人物を積極的に選挙に擁立してきた。10月7日告示24日投票の参院山口補選にはYouTuber「へずまりゅう」こと原田将大氏(30)を擁立した。
へずまりゅう氏は、迷惑系YouTuberとして活躍。愛知県岡崎市のスーパーで、精算前の魚の切り身を開封して食べた動画を配信した件で窃盗罪などの罪に問われ、8月27日に懲役1年6ヶ月、執行猶予4年(保護観察付き)を言い渡たされており、現在控訴中である。7月には新型コロナウィルスへの感染が発覚したが、マスクを着けずに全国を転々としており、故郷・山口県で接触した関係者の感染が明らかになっている。
今回の擁立にあたって立花党首は、「へずま君を公認することに『何事だ』『ふざけている』とか言われるが、世の中の半分の人は選挙に行かない。有罪判決を受けているへずま君でも選挙に立候補できることを知ってほしいし、一石を投じたい」と語っていた。へずまりゅう氏が反省していないのではないかとの声には、「人気YouTuberが1年間活動休止した」ことが反省をしている証拠であるとも語った。
また、選挙で最も訴えたいことが、「山口県民への謝罪」だというのである。これは、完全に有権者というか国民を嘗めているとしか言えない。
選挙を“禊”として利用することはこれまでにもあったが、そんなレベルですらない。実際、へずまりゅう氏の擁立に関しては、SNS上では批判が相次いだ。
開票の結果、参院比例区から鞍替え出馬した北村経夫・前参院議員が圧勝。20時の投票締め切りと同時に当確が出る“ゼロ打ち”となった。
へずまりゅう候補は、1万票行かなければSNSからの引退を表明していたが、結果的にそれに届かない惨敗だった。
これを受けてへずまりゅう氏はSNSからの引退を表明した。
ところが、それからわずか4日で復帰を宣言。予想通りではあったが、あまりにも早すぎる。
当初立花党首は、へずまりゅう氏を参院補選後にも総選挙、来年2月の山口県知事選、夏の参院選と4連続で擁立する意向だと述べていた。ところが、解散が早まり、参院補選の投票日が総選挙公示後となってしまった。
さらに総選挙後に立花党首は「多様性や少数意見を大事にしているメッセージを発したが、今度の参院選では一つのモノに特化している人は出さない。」と語り、今後は真面目路線でイロモノ候補の擁立は行なわないという。
◆政党助成金ビジネス
NHK党が資金難であることは、すでに何度かこのレポートでも報告してきた通りである。
NHK党は以前、総選挙の選挙費用としてNHK党は5億円を集めていたのだが、そのお金はどうなったのだろうか? 総選挙においてNHK党の候補者は各自で供託金を支払わねばならないというから、既に資金が枯渇しかけているとの噂に信憑性がある。
だが、国政選挙において国政政党には当落に関わらずその得票に応じた政党助成金が支払われることになっている。その金額は1票辺り年間80円だという。NHK党が総選挙に大量の候補者を擁立するのは、この政党助成金が目当てなのである。
しかしながら立花党首によるとNHK党は、政党助成金を男性候補者は48円、女性候補者には72円を獲得した得票に応じてキックバックするとしている。この「金銭的リターン」こそが諸派党構想のうま味であると立花党首は語る。供託金は選挙区300万円、比例区600万円なので、理論上は選挙区で男性62,500票、女性41,670票、比例区で男性125,000票、女性83,330票を獲得すればその金額が還ってくることになる。もっとも実際のところ、諸派党構想に参加した候補者がそれだけの得票を上げるのは容易ではない。国政政党の候補でもこれ以下の得票に終わることは珍しくないからだ。政党助成金ビジネスが決して美味しい話ではないことは、少し考えればわかるはずなのだが、なぜか多くの人が勝ち目の薄い選挙に立候補しようとする。へずまりゅう氏の落選で、NHK党関係者の選挙での落選は46にまで伸びた。もはやNHK党は地方議会の選挙でも勝てなくなっている。
◆諸派党構想参加政治団体
10月31日投開票された第49回衆議院議員総選挙。諸派党構想を提唱する「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(NHK党)は、選挙区27・比例区11(うち単独3)計30名の候補者を擁立した。
唯一の現職衆議院議員だった丸山穂高副党首は、14日の解散を目前にした10日、自身のYouTubeチャンネルで総選挙への不出馬を表明した。
「自分の人生の中で、自分の時間と能力を自分のためにも使いたいなというのが理由」と語っているが、支持率の低下によってNHK党での再選の芽がなくなったことも理由の1つなのではないだろうか。NHK党はこれによって最大の看板候補を失った。
NHK党の候補者と所属する政治団体は次の通りである。
NHK党の看板で戦うのは5名だけで、残り25人は24の政治団体を立ち上げている(愛の力党のみ2名)。確かに、一見すると多くの政治団体が集結したように思える。だが、本当にそうなのだろうか。
上記の一覧のうち★をつけたのは、NHK党もしくはその関連団体から過去に選挙への立候補経験がある人物である。☆は堀江政経塾の塾生としてホームページに名前が載っている人物だ。
堀江政経塾とは2020年5月に立花党首を党首として発足した「ホリエモン新党」が元となって設立されたオンラインサロンである。2021年11月21日に第1回が都内で開催されている。ホリエモンこと堀江貴文氏は運営には関与せず、外部講師としてのみ参加。塾長は比例九州ブロックから出馬した齊藤健一郎候補が務めている。
★と☆の印の候補者に、NHK党の看板で戦う荒川順子候補を合わせると20人となる。この中には、黒川敦彦・つばさの党代表や河合悠祐・愛の力党代表のように明らかに諸派党構想に共鳴して参加した候補者もいる。その一方で、他にも古くからNHK党に関わっていたような候補者もいる。いずれにせよ、NHK党の候補者の半数以上は、もともとが身内のような人物だということになる。これではとてもではないが、諸政治団体を合同させたとは言い難い。いくら諸派党構想を主張しても、有権者はNHK党の延長としてしか見ないのではないか。
また私が一番驚いたのは、総選挙を「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」として戦ったことである。私はてっきり、党名を「諸派党」あるいは「諸派連合」に変更して、多く政治団体の集合であることを前面に出すものだと思っていた。名前がNHK党のままでは、政治に関心がないほとんどの人は諸派党構想の存在に気づかなかっただろう。ひょっとしたら比例代表区の投票の際に、NHK党ではなく各候補者の政党名を書いてしまった可能性もある。
いずれにせよ、10月31日に投開票された結果、NHK党の候補者は全員が落選。供託金も全額没収となった。供託金は1億4700万円にも上った。
◆葛飾区議選
総選挙の投票日である10月31日、葛飾区長選挙・葛飾区議会議員選挙が告示された。区議選は定数40に対して60人が立候補する激戦となったが、NHK党からは公認で黒瀬信明候補(37)と推薦でつばさの党の根本良輔候補(27) の2名が立候補した。葛飾区議選はが7月の都議選から間を空けずに実施されるため、都議選に立候補で落選した候補者が再起を期して立候補してくることが多い。黒瀬候補も根本候補もそうである。前回2017年も、NHK党の立花孝志代表は都議選の葛飾選挙区で落選したものの、区議選では見事当選を果たした。
当初は立花党首自らが立候補し、当選した後に3ヶ月で辞任するとのことであった。都議選で「議席を減らします党」が掲げた公約を実現させる目的であったが、結局立候補はしなかった。ここまで地方議会でも負けが続いているのでは、もはや立花党首自身が立候補しても当選は難しい。元参院議員が区議選で落選という無様な姿は見せられないということもあったのだろう。
11月7日に投票され、翌日の開票の結果、NHK党の候補者は共に落選した。黒瀬候補は国政政党の公認候補者でありながら、最下位に1700票以上離される惨敗。一方の根本候補は最下位に115票足りない次点であった。根本候補との間で票が割れた可能性があるが、黒瀬候補の惨敗はもはやNHK党の名前はマイナスにしかならないことを示しているのではないだろうか。
◆NHK党の皮算用
総選挙での惨敗に立花党首も意気消沈しているかと思いきや、「NHK党の経営状況について、予定通り黒字になりました」と歓喜している。というのもNHK党は小選挙区で計150,542票、比例区で計796,788票を獲得し、政党助成金の上積みに成功したからである。立花党首によると、新たに貰うことが出来るようになった政党助成金は、小選挙区で月100万円、比例区で月500万円だという。2019年の参院選で得た政党助成金は月に約1200万円。さらに、浜田聡・参院議員の文書交通滞在費が月100万円、議員立法費が月65万円、党に入金されるということである。これでは浜田議員は議員としての仕事が出来なくなってしまうようにも思われるのだが、いずれにせよNHK党は毎月1,965万円を得ることが可能になったというわけである。
支出の方は、立花党首の報酬240万円を含むコールセンターの維持費などの固定費が約900万円、借金の利息の支払いが計150万円、地方の支部への支払いが計470万円。これらを合計すると月1520万円になる。これまでは毎月135万円の赤字であったのが、総選挙の結果月465万円の黒字に転じるということである。もっとも収入のうちの総選挙での小選挙区分の政党助成金月100万円は、原則全額候補者に支払われるとのこと。
しかしここには借金についてまったく抜け落ちている。立花党首によると、NHK党は参院選前に1億5千万円、その後5億円、計6億5千万円の借金をしており、現在その残りが3億6千万円となっているという。また、立花党首個人の借金が4千万円あるため借金の合計は計4億円となる。
これに関しては立花党首は来年の参院選でも前回同様の得票を得て政党助成金が月1200万円上積みされることで解消するとしている。政党助成金のうち党の取り分は、男性候補が寄付する政党助成金の3割とのことだが、その金額は月240万円程になるという。さらに、2019年参院選で立候補した候補者には年300万円を3年間党から寄付していたが、それも来年で無くなるため、月250万円が支出から減る。これらの金額約490万円が加わり月955万円、年間で1億円以上の黒字となるのだという。
ただ、政党助成金を借金の返済に充てることは法律で禁じられている。そのため、ホリエモン新党をNHK党の資金管理団体に指定してそこに政党助成金を寄付し、ホリエモン新党からNHK党に寄付する形でクリアするとしている。いわゆるマネーロンダリングなのだが、その手口を動画で明らかにしているのは問題ないのだろうか。
◆新たな借金
立花党首の皮算用では黒字になったはずのNHK党だが、立花党首は11月4日に「お金貸して下さい」という動画を公開し、新たな借金の申し入れを行なった。
なんでも2022年7月に行なわれる参院選に必要な資金を得るためであるというのだ。
立花党首は来る参院選で政党要件に必要な得票率2%を得るため、都道府県選挙区に75人の候補者の擁立を検討している。NHK党の候補者が選挙区で供託金没収点を超える得票を挙げるのは困難であるため、供託金はほぼ全額が没収となる見込み。選挙区だけで供託金が2億2500万円。立花党首によるとポスター製作費5千万円、ポスターを貼るのにかかる人件費が25千万円というから合計すると5億円以上ものお金が必要となってくる。
この立花党首の申し出に、8億1400万円もの借り入れの申し込みがあったという。すでに4億円ある借金に加えて借金は12億円に膨れ上がる。例え、立花党首の皮算用が正しくとも、返済計画は破綻してしまうのではないか。
◆ポンジ・スキーム疑惑
立花党首はこうしたお金を借り入れる際に、年利5%で返金すると約束している。ところが、これが「ポンジ・スキーム」に当たるのではないかと指摘されている。
ポンジ・スキームとは詐欺の一種で、利益を出資者に配当金などとして還元すると謳っておきながら、実際には資産運用は行わず、後から参加した出資者から新たに集めたお金を最初の出資者に渡すことで、あたかも資金運用によって利益が生まれ、その利益を出資者に配当しているかのように装うものである。
1996年、友部達夫参院議員(新進党)が運営する「オレンジ共済組合」が6~7%もの配当を謳った「オレンジスーパー定期」を販売し、93億円もの資金を集めたものの、資金の多くは友部議員の選挙費用や借金返済に当てられてていたことが発覚した。友部議員は詐欺容疑で逮捕され、2001年に懲役10年の実刑判決を受け参院議員を失職した。
立花党首が新たな借金で過去の借金を返済するという行為はまさしく「ポンジ・スキーム」が疑われる。立花党首の行為は「オレンジ共済組合事件」にも匹敵する詐欺事件になる可能性があるのではないかとも言われている。
◆立花党首とNHK党のXデー
立花党首は現在いくつもの刑事事件の訴訟を抱えている。2019年にNHKへの不正競争防止法違反及び威力業務妨害の罪と、元NHK党所属の二瓶正隆・中央区議を脅迫した罪に問われており、1月20日に東京地裁の判決が出る予定である。検察の求刑は懲役2年6ヶ月、罰金30万円。立花党首は「正当な政治活動だった」と無罪を主張しており、最高裁まで争うとしている。有罪であっても執行猶予がつくとみられているものの、2022年7月の参院議員選挙での議席獲得を目指すNHK党にとって政治的なダメージは避けられないだろう。
その参院選であるが、立花党首は「参院選はふざけない。まじめにNHK問題だけでなく、外交・安全保障問題も訴える」と語っている。11月17日のNHK党の定例記者会見でも、「総合政党」として生まれ変わり、さまざまな政策を掲げるとしている。
これまでNHK党はYOUTUBE動画などを用い、お金のかからないネット選挙を実践してきた。しかしながら衆院選で改めてテレビの力を思い知らされたという。参院選では全選挙区に候補者を擁立すると同時にポスターを全掲示場に張り、街宣車を各選挙区に配置するドブ板選挙に方針を転換し、3億円以上の巨額を投じるというのである。総選挙の惨敗ぶりを見て立花党首も相当の危機意識を持っているのではないだろうか。
立花党首は当初、NHK党の地方議員を任期途中で辞職させて参院選に立候補させ、落選した場合は鞍替え選挙を進めると提案していた。しかしながら、この案は反対が相次いだようで、後に撤回している。
もっとも、任期満了(2022年11月)が近い中村典子・松戸市議には宣伝目的で参院選出馬の方向でいるとのこと。同様に6月に任期満了となる 久保田学・立川市議も落選の場合は参院比例区から擁立するとしている。
参院選で議席が獲得出来なかった場合、皮算用がうまくいかず、党の資金は間違いなく枯渇する。もはやなりふり構っている場合ではないのだろう。
裁判に参院選。2022年は立花党首にとってもNHK党にとってもいよいよ正念場となる騒がしい1年になりそうである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?