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レポート5

この投稿はフィクションです。予告なしに加筆修正を行います。

その日は午後からの外来担当で、午前だけで帰るDrから、さっき受診された患者さんの引継ぎを受けた。
普段は整形外科に通院中の60歳代男性。この日はリハビリに来ていたが、
言葉が思うように出ない、という症状で初診となった。
午前のDrは「意識障害」というアセスメントでいろいろ検査をしたようだったが、採血検査の結果が出ないので引き継いだ。先にもう一度診察させて欲しいとお願いし、入室してもらった。
意識障害というよりは、思ったことをうまく言語化出来ない様子であった。
発語が全く出来ないわけでは無く、発声は出来ていたし、たどたどしいが単語レベルの発語に成功する場面もあった。呂律が回らない、という感じでも無かった。また身振りや相槌などである程度の意思疎通を図ることが出来た。
気になったのが、体に何か所か擦過傷が出来ていることだった。どうやら転んだとのこと。
整形外科からの処方で抗血小板薬が出ていることを知った。また、午前中にいろいろ検査をしてはいたが、頭部CTは行った形跡が無かった。
「待ち時間の間に、念のため頭の写真も撮らせてください」とお願いし、
頭部CTを依頼したところ間もなく「出血です!」と連絡が入った。
硬膜下出血やくも膜下出血ではなく、微細な脳内出血が認められた。
そのレポートをもとに御本人に説明し、他院の脳外科へ紹介することにしたが、なまじ体は元気だったので、自分で車を運転して行くというのを「とんでもない!」と制止するくらいだった。
脳外科では即入対応してくれたが、大脳基底核の出血であり、(私は解って無かったが)片麻痺もわずかに出現していたとの事だった。失語症は障害として残存するだろうとの見通しだった。

考察 
この症状が単なる構音障害ではなく、「失語症」「高次脳機能障害」という考えには至っていなかった。正しいアセスメントのためには、目の前の症状をきちんと理解することが必要だと改めて思う。
以下、WEB上で確認できる失語症についての総論。


https://kawamuranaika.jp/nousinkei/5192(2019年に慈恵医大の講師を招いて行われた講演の書きおこしを、クリニックの医師がUPしたもの)

古典的な失語症の分類は、発語の状態で分け、理解障害があるかどうか、復唱が可能かどうかで分類していた。
しかしいろいろな研究から、理解障害が無い失語症はほとんどないことが分かってきた。
一見理解がよくても病巣的に疑われれば精査を行う。


https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/048110853.pdf

とくに重要な要素的症状は,
1)アナルトリー(anarthria),
2)音韻性錯語,
3)単語理解障害,
4)喚語困難(語想起障害)
の 4 要素である

皮質下性失語の特徴
脳血管障害では,被殻や視床などの病巣が多い.これらは左半球損傷のばあいに失語症を呈することがある.(中略)
この部位による失語症状にも特徴がある.それは,アナルトリー,音韻性錯語,単語理解障害,喚語困難のすべてが,程度の差はあっても存在するが,全体のプロフィールからみて,復唱課題で比較的良好(5 語文以上可能),また,復唱で構音の歪みが改善することである.このような特徴を持つ失語型は,他の部位の損傷ではみられず,病巣推定に役立つ.
視床では,これに無声音などの音声の問題や易疲労性をともなうことが多い.

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