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レポート10

この投稿はフィクションです。予告なしに加筆修正を行います。

80歳代の女性。施設入所となり当診療所に紹介となっていた。
降圧薬(Ca拮抗薬)、そして認知症薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の2剤を服用していたが、基本的にはお元気で穏やかだった。

1年半が経過したころ、施設職員より、夕方から夜間に掛けての尿失禁が多いとの相談を受けるようになった。当初は1回尿量は多いものの回数はあまり多くなく、職員対応が可能とのことで経過観察していたが、2年が経過したころには夕方以降になると1時間おきにトイレに行くようになっていた。一方で日中はあまりトイレに行くことは無かった。尿路感染や尿排出障害・器質的疾患はもとより、明らかな心疾患・腎疾患など、夜間多尿の原因となるような疾患は認められず、下肢浮腫も気になるほどではなかったので、正直困惑していた。
そこから1か月は飲水時間を変更してもらったり、日中に下肢挙上などの対応をしてもらったりもしたが、全く効果は得られなかった。

もう一度原点に立ち返って、排尿の細かな時刻を聞き取った。
すると、「夜8時に臥床したあと、8時半・9時・10時・11時とひとしきり続く。1回の尿量も多い。しかし11時を過ぎると、その後は朝まで眠られている。」とのことで、臥床して3時間の間に集中しているようだった。
ここでようやく、薬の副作用の可能性に気付き、処方を見直してみた。
利尿剤は服用していなかったが、降圧薬(Ca拮抗薬)、そして認知症薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の2剤とも、前医で夕食後で処方されており、当診に管理移行してからも、その服用方法で継続していた。
これを朝服用に変更していただいたところ、
「すぐに効果があり、夜間のトイレは1回だけになりました」とのことだった。

考察
夜間頻尿は切実な症状であるが、本当に対応困難でなかなか解決には至らず苦慮しているというのが偽らざる実感だ。加えて泌尿器科受診も繋がれなかったり、排尿日誌記録もままならなかったりする。

女性下部尿路症状診療ガイドライン[第 2 版]が公開されている。

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/38_woman_lower-urinary_v2.pdf

下部尿路症状は蓄尿症状(storage symptoms),排尿症状(voiding symptoms),排尿後症状(post micturition symptoms)の 3 種類に大別されている。
蓄尿症状には昼間頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁。
 更に尿失禁は腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,混合性尿失禁,
 夜尿症,持続性尿失禁,その他の尿失禁に分けられる。
排尿症状は尿勢低下,尿線分割・尿線散乱,尿線途絶,排尿遅延,腹圧排尿,終末滴下。
排尿後症状は残尿感と排尿後尿滴下とに分けられる。

夜間頻尿は蓄尿症状に分類されるので、下記の鑑別が必要になる。

女性下部尿路症状診療ガイドライン[第 2 版]P79
女性下部尿路症状診療ガイドライン[第 2 版]P100

そして、薬剤性については上記の表の右側が鑑別となる。
ここには挙がっていないけれど、利尿剤や腎血流を増やす薬剤もすべて鑑別対象に挙がると考えられる。


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