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レポート9
この投稿はフィクションです。予告なしに加筆修正を行います。
80歳代の施設入所中の女性。もともと狭心症・慢性心不全を指摘されているが、基本的には悪化時も高次病院への受診は希望しないとの方針であった。訪問診療の引継のため当診療所に紹介後も、ずっと落ち着いていた。
当診での訪問開始後10年が経過したころ、歩行時に胸苦感を訴えるようになった。とはいえ、足が悪いので平地をゆっくりとしか歩けていない。
UCGでは明らかな悪化無し。
ホルター心電図の結果では、明らかなST変動は無し。常にPVCが多発しているが、時間帯や明らかな動作で傾向があるという訳でも無さそうだった。
抗不整脈薬を追加してみたが、却って徐脈になってしまい中止。
原疾患である狭心症の悪化も危惧した。
同行看護師が「お風呂に入った時はどうだった?」と尋ねると、
施設職員からは「熱いお風呂が好きで、40℃の浴槽に肩まで5分入らないと気が済まないんですよ。その時は苦しいとの訴えは無いんです。…制限した方が良いんでしょうか?」との返答だった。
考察
運動によるエネルギー消費量は
EX(エクササイズ)=METs(メッツ)×時間(H)
エネルギー消費量=1.05×EX(エクササイズ)×体重(kg)
で表される。そして運動強度METsは既に計算されていて、
身体活動のメッツ(METs)表(2012年改訂版)によれば、
静かに寝ているのが1METs、座ってTVを観るのが1.3METs。
普通の歩行は3METs、ゆっくりとした歩行は2METs。でもこれだと、
坐位入浴が1.5METsで立位シャワーが2.0METsに評価されている。
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/pdf/guidelines2006.pdf
https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf
正直なところ、歩行よりも入浴の方が負荷が少ないと言われても、果たしてそうなのか?と思ってしまう。多分、あまり熱い浴槽に浸かる文化の無い外国で計測した結果をそのまま輸入しているので、普段の生活実態にあまりそぐわない部分もあるのではないかと感じた。
入浴に関する運動強度を探していたら2018年の論文「足浴がエネルギー代謝に及ぼす影響の検討」を見つけた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/81/2/81_70/_pdf
これによれば、METsという言葉は出てこないが、筆者らが行った足浴および
先行研究による全身浴のエネルギー消費を比較した結果が出ていて、
1 分間のカロリー消費量を計算すると,先行研究の分は
全身浴(42°C)にて 11.0 kcal,
全身浴(40°C)にて 5.5 kcal,
全身浴(39°C)にて 2.5 kcal,
半身浴(42°C)にて 1.7 kcal
である一方,筆者らが行った研究では
足浴(℃)にて 1.27 kcal
入浴前安静にて 1.21 kcalと、有意差が出なかったとの結果だった。
先行研究の被験者の体重までは確認していないのだが、
この論文では被験者の平均体重は60㎏だったとのことで、
一応先行論文も体重60㎏の仮定で計算すると、
全身浴(42°C)にて 11.0 kcal/分:10.4 METs
全身浴(40°C)にて 5.5 kcal/分:5.2 METs
全身浴(39°C)にて 2.5 kcal/分:2.3 METs
半身浴(42°C)にて 1.7 kcal/分:1.6 METs
足浴(℃)にて 1.27 kcal/分:1.20 METs
入浴前安静にて 1.21 kcal/分:1.15 METs
くらいになりそうだ。
そう考えると、(実際に湯船に入った時に40℃がキープされていたかどうかが曖昧ではあるが)歩行よりも全身浴は遥かに負荷が掛かると考えられる。
ただ、好きな入浴時に症状の訴えが無いからと言って問題がないと断定は出来ないのだが、御本人の意思を尊重し、症状の有無を優先として、引き続き慢性心不全に対する薬剤調整を行いつつも、入浴制限はしないで経過を見ることとなった。
現在も症状の消退には至っていないものの、穏やかに過ごされている。