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レポート6

この投稿はフィクションです。予告なしに加筆修正を行います。

90歳代女性。脳血管腫術後、頚椎症が主病名。
既往症として大腸ポリープ切除後、後から切除組織内に腺癌が含まれていたことが判明したが、それ以降大腸内視鏡検査は行っていない。
頚椎症による手のしびれ・動作困難などで要介護状態となり、独居困難のためご家族を頼って当地に転居、施設入所された。入所と同時に訪問診療開始。徐々に歩行も困難となり、車いす介助が必要となってきていた。

訪問開始4年目の秋、定時訪問に伺うと、「3日前から声がおかしい」とのこと。でも、咽頭痛とか鼻汁とか咳嗽とか全くなく、後鼻漏や嚥下時痛も無かった。
”声”がおかしいというよりも、発音がおかしい印象だった。全部鼻に抜けるというか、全て口を半開きにして話しているようだった。
職員からは「以前から、時々呂律が回らない感じはありましたけど、特にここ数日で悪化した印象は無いです。」と。

しかしそもそも「呂律が回らない事が有る」という報告はこの時初めてだった。
後から考えてみれば、「3日くらい前から」ではなく明確に「3日前(の日付を明確に訴えた)から」と、突然の発症を御本人様は訴えていたわけで、
もっと強硬に脳血管障害を疑わなければならなかったと思う。ところが、他の症状がはっきりしなかったこともあって、緊急に脳外科対診を行う必要があるとまでは判断できなかった。

その5日後に、「右手で持ったコップを取り落とすようになった」「坐位がうまく保てない」との連絡が入り、ここでようやく脳外科対診となった。

結果「MRIで発症時期の異なる多発性微小梗塞が多発している」との診断で、即日入院となった。精査にて膵臓癌が認められ、肺や肝臓などに遠隔転移が認められ、「Trousseau症候群」と診断された。
入院から約2週間後に突然意識障害出現、大きな脳梗塞を併発し、そのまま病院内で看取りの方針となった。


考察 2016年の高知赤十字病院症例報告が無料でアクセスできる。
https://redcross.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=12131&file_id=22&file_no=1

Trousseau 症候群は,悪性腫瘍により血液凝固亢進が生じ,脳血管障害を併発して,様々な神経症状を呈する病態とされ,傍腫瘍性神経症候群の一つとされている。

担癌患者の脳梗塞の成因の多くは
DICに併発した非細菌性血栓性心内膜炎による心原性脳塞栓症と考えられてきたが,
最近では深部静脈血栓症を併発した卵円孔開存による奇異性脳塞栓症や
血管内凝固による微小血栓・塞栓,細菌性塞栓,腫瘍塞栓,脳静脈・静脈洞血栓症なども成因としてあげられている。

Trousseau 症候群の原因となる悪性腫瘍は膵癌,肺癌,卵巣癌や子宮体癌などの婦人科系癌が多いと報告されており,
組織型では腺癌が多く,特にムチン産生性腺癌が多いと言われている。



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