【序文】統一ウイルス感染症の症状と予防・免疫 〈統一教会体験談〉
はじめに
安倍晋三元総理が凶弾に斃れて以来、統一教会に関するさまざまな情報がメディア、ネットを賑わすようになりました。
私、ドンマッツは、2000年代初頭、20代の頃に統一教会と闘った個人史があります。しかし、当時から統一教会の活動は下火になっている、という認識でしたし、「いつまでもマイナーな社会問題に関わっていられない」という思いもあって、個人的に”卒業”することを決め、2008年頃には完全にコミットメントをやめました。
昨今、統一教会の政治に対する浸透ぶりや影響の大きさを目の当たりにし、そのことを後悔しています。
2000年代後半から今に至るまでの、政治に対する奇妙な違和感、さらに人心の荒廃、社会の頽廃、モラルの崩壊…といった諸問題の根幹に、少なからず統一教会が関わっていたということ。
かつての宿敵が、思っていたよりも大きくハッキリした姿を持って目の前に顕れたことに対して、「お前だったのか!」という大きな驚きー。
これは筆舌に尽くしがたいものがあります。
「個人的な事柄」と思っていたことは、ちっとも"個人的"ではなく、社会問題としても"マイナー"でもなかったのです。
そこで、改めて統一教会の現在の状況を調べるとともに、2000年代当時に読んでいた新興宗教関連の本をすべて読み直し、洗脳やマインドコントロールの勉強をし直しました。
その結果、統一教会のようなカルトが個人を蝕み、その心身に与えるダメージや社会への浸透のようすが、COVID-19のような悪性ウイルスと酷似していることに気づきました。
社会とカルトの関係は、人類とウイルスの関係ととても似ている、ということです。
そこで、統一教会によって伝道され、信者にされてしまうことを「統一ウイルス感染症」と呼ぶこととし、その隠喩に基づいたタイトルを付けたWebマガジンを作成することしました。
少々、強めの言葉かもしれませんが、統一教会の”毒性”の強さを読者の皆様に印象づけるためでもあります。
特に2世にとっては、出自に関わることでもあるので、辛辣な表現と感じられるかもしれませんが、「アイデンティティではなく、ただの感染症なのだから、抜いても自分自身は成立する」というように前向きに捉えていただきたいとも思います。
本マガジンは、以下の第1巻に相当します。
第1巻
統一ウイルス感染症の症状と予防・免疫 統一教会信者の入信体験とマインドコントロールの手法
第2巻(予定)
統一ウイルス感染症の治療 統一教会信者の脱会経験と脱洗脳のプロセス
第3巻(予定)
統一ウイルス感染症の後遺症と寛解 統一教会元信者のリハビリと社会復帰の手引
今度こそ、このモンスターの姿を徹底的に明らかにし、人々に広く知らしめなくてはならない。
そんな想いを持って、このテキストを書いています。
かなりの分量になると思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
このテキストの成り立ち
本テキストは、トミーマッツという私の身内の統一教会信者体験と脱会、脱会後のリハビリ経験をベースにしています。
信者体験談を伝える章(第2、3章)では、トミーマッツの体験談を私ドンマッツがリライトして、さらに私の知見による分析を加える、という基本的な成り立ちです。
さらに、それ以外の章でドンマッツがカルト問題やマインド・コントロールに関する著作を複数読んだ内容を咀嚼し、再解釈を加え、独自の分析を加えるという形で本テキストの全体を構成しています。
トミーマッツの信者履歴概要
トミーは、90年代の終わり、大学1年生の前期に統一教会の学生組織である原理研究会に学内で伝道され、教団の運営する寮に入って共同生活を始め、集団結婚にも参加し、学生時代の4年間をほぼ信者として過ごしました。
2年生まではバリバリの信者として活動し、2年生の終わり頃から教団の姿勢や教えに疑問を持ち始めます。
3年生は葛藤を抱えながらの活動。その時期に、さらに教団の活動に疑問を感じるような決定的な出来事をいくつか経験します。
4年生に入る頃には健康問題もあって寮を出ており、統一教会はカルトだという認識をほぼ固めていましたが、教団の活動拠点に毎日通う生活を続けていました。自分がなぜ、どのようにしてカルトに伝道されたのか、分析して突き止めよう、という想いがあり、内部を客観的に観察していた、ということです。
「完全に自分は騙されたのだ、洗脳されたのだ、3年半を棒に振ったのだ」という認識をハッキリ持ったのが夏休み直前。夏休みは鬱状態に陥り、ほとんど起き上がれませんでした。
4年生の後期に集団結婚の解消と献金の返還交渉を自力で行い、卒業とほぼ同時にそれらを完了して正式に脱会しました。
ただ、人間関係も含めて完全に教団から離れるのに、そこからさらに2年かかっています。
その後、信者体験と心身のリハビリの過程を綴ったブログを開設し、約2年間の間に約10万字のテキストを残します。
そのブログは信者の攻撃もあって一度停止し、しばらくして閉鎖されました。
ブログ閉鎖後も、リハビリのために個人的に手記を書き続け、2010年代中頃まで書いていました。
並行してフリーターとして社会復帰をしてから、苦労しながら今に至ります。
ドンマッツの経歴
私、ドンマッツは理学部の出身ですが、研究者の道には進まず、大学や理化学研究所の広報の仕事を経て、Web制作会社に就職、その後広告会社、製造業の会社などを経て独立して今に至ります。
大学卒業後のトミーの経験を共有したことから、統一教会について詳細に調べ、他のカルトやマインドコントロール手法についても深く調べるようになりました。
トミーがブログを運営していた時に、脱会希望の信者が2人接触してくることがあり、私がその脱会指南をしました。当時実際に複数の現役信者と接触して話もしています。
(その時得た知見は、トミーの自力による脱会・脱洗脳のプロセスとともに第2巻にて執筆予定です。)
その後も統一教会の活動をしばらくウォッチし続け、街頭での伝道や集金活動を見つけると注意喚起したり、場合によっては警察に通報するといった自主活動を2007年ごろまで続けていました。
また、社会学と心理学、西洋哲学史等を自学自習し、学部生が学ぶレベルの教科書は全て網羅的に読みました。
さらに、NLP(神経言語プログラミング)セミナーなどに参加して心理学を応用した対人スキルについてのトレーニングも複数受けました。
最近ではスピリチュアルセミナーに”潜入”したりして実態を調べるといった独自のフィールドワークを続けています。
今回、改めてカルトに関する代表的な重要書籍を多数読みました。なかには入手するのが難しくなり、中古市場で高額で取引されている本もあります。
参考書籍は本テキストの巻末に表示します。
以上、現在の私の幅広い学際領域の専門知識と社会経験を持って、15年以上前に書かれたトミーの体験談と手記を分析することにより、さらに立体的に統一教会の実態と手法か立ち上がってくると思います。
本書の位置付け
大半のカルト関連本や信者の体験談について書かれた本は、日本の場合、オウム真理教に偏っています。地下鉄サリン事件という、世界のテロ史上に残る大事件を起こした教団ですから、取扱いが大きいのは当然といえます。
しかし、そのせいで統一教会の取扱いが相対的に小さくなったという印象を否めません。山崎浩子さん、飯星景子さんといった有名な芸能人信者の体験本はすでに絶版になっています。
またその他のカルト関連本も、さまざまなカルト的教団や団体を総論的に扱うために、統一教会に関する内容が薄く、掘り下げが足りないという印象です。
一般に、学術的な観点で書かれた各専門の学者さんの手による本は、「一般化」に拘るために、共通点の抽出を優先して、ディテール(細かいこと)を切り捨てる傾向があります。
本テキストでは、トミーの体験談を主に第2章、第3章で詳細に扱いますが、心理学的テクニックが散りばめられたその具体的な伝道法や信者の生活のディテールを、これまでにないレベルの細かさで伝えます。
文系の学問分野には質的研究法というものがあります。データや統計に結びつけるように結果を収集するのではなく、主に心理学分野のそれは、少人数への深いインタビューを元に特殊経験を掘り下げて分析し、傾向、心理の仕組みやメカニズムを抽出するという研究法です。
本テキストは、トミーという1人の統一教会(原理研究会)信者の入信から脱会、脱会後までを、これまでにない解像度で取り扱った質的研究と言えるでしょう。そのため、体験談以外の分析の部分にも力を入れています。
「元信者」を名乗って体験談を語る難しさ
本来トミーマッツがトミーマッツとして、(かつて運営していたブログのように)体験談を書く、ということも可能なのかもしれません。
が、元信者と名乗って書いたものを発表することには種々のハードルがあります。
統一教会関連記事は、無料で公開していましたが、字数が多いので改めて有料設定しました。後にマガジンとしてまとめた際、改めて加筆して販売する予定です。 既にサポートいただいた方には申し訳ありません。