藤井三冠、潜在発達能力他
本日の王将リーグ広瀬八段戦は藤井三冠先手の相掛かりで、なんと67手の短手数の勝利でした。
(ちなみに広瀬八段は豊島竜王との初戦も今日と同様に豊島竜王先手の相掛かりでしたが勝っています!)
藤井三冠がプロ入り後、短期間に急速な成長を遂げて、このような驚異的な実績を挙げている原因が昨今話題になっています。
豊島竜王も以前、「藤井さんがその棋力のピークに達したときに対応できるようにしておきたい。」と語っておられたことがありました。でも、これ程早くタイトル戦を二人で戦う事態になるとは当時予想はしておられなかったと思います。
その脅威の成長を測る視点として有名なピアジェの「発達段階」にも影響を与えたロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した「発達の最近接領域」という概念で迫ってみます。
ヴィゴツキーは、発達と教育との関連を考察し、教育は子どもの「現在の発達水準」に基礎をおくのではなく、発達しつつある水準、予測的発達水準に基づいて行われるべきである、としています。
子供は成長中の段階にあり、すぐに次の発達水準に移行すると予想される。その可能成長領域が、「発達の最近接領域」であると。
よく参照される例として、知能テストにより、現在の発達水準が同じ8歳であるとされている2人の子どもに、援助やヒントを与えた結果、それぞれが到達したところが9歳と12歳である場合、この2人の子どもの発達の
最近接領域は異なります。
現在の発達水準との開きは、前者では1歳分、後者では3歳分です。最初の知能年齢、つまり子どもが一人で解答する問題によって決定される「現在の発達水準」と、他人との協同のなかで問題を解く場合に到達する水準、
いわば「明日の発達水準」との間の差違が、子どもの発達の最近接領域を決定するのです。教育的な働きかけは、子どもの発達の最近接領域に向けられてこそ有効であると、ヴィゴツキーは主張しています。
つまり独力で獲得できる発達水準からヒントや援助を与えられることで次のより高次の発達水準に達する幅が個人によって異なると。最近接領域が広いということはそれだけ吸収力が高いことを意味しているわけです。
さて、これまで述べたことを前提にこれを将棋の棋力向上に当てはめて考えてみましょう。
同じ将棋教室に同期間通っても発達の最近接領域の個人差によって初段に達する子もいれば、三段になる子もいるという平凡な事実に行き当たります・・・
ところが援助やヒントは対人から受ける場合もあれば、ソフトから受ける場合もあります。
特にプロ棋士のソフトの活用における「発達の最近接領域」の個人差は予想をはるかに超える大きさではないでしょうか。
現在棋士の間で流行している最新・最速のパソコン環境ー>ディープ・ラーニング系のソフトと従来系のソフトを併用し比較検討出来る、において同じ時間パソコンに向かってもその吸収力における個人差が常に拡大傾向にあると思われるのです。
従来の将棋の天性にプラスしてコンピュータ適性が求められている、その最大の具現者が藤井三冠ではないかと、推測する次第です。
つまり詰将棋選手権で小学校6年生から優勝し続けるといった並外れた読みの精度とスピードを支える論理的思考力にAIによる評価値、推奨手を表示する演算能力がぴったりとカップリングされて、これまでの天性と経験から生み出される棋力を大幅に超える最近接領域が形成されていると思われます。
過去に活躍された偉大な棋士達、大山名人、中原名人、羽生九段等のの棋士の棋譜を並べることは確かに棋力向上に繋がりますが、一方現在AIが切り開きつつある地平ははるか彼方にあり、その進歩の速度は限りないものに見えます。
藤井三冠をこれまでの経験値や勝負術によって、或いはAIによる局所的な研究によって瞬間的に凌駕する棋士はあっても、まだ十代で成長途上の藤井三冠における「発達の最近接領域」の広大さ、深度に追いつける棋士は今のところ見あたらないと感じております。
将棋の勝敗において短期的ライバルは存在しても、将来性の指標である「発達の最近接領域」におけるライバルは不在ではないかと・・・
2021年度可能対局数残: 40局 10/04現在(敬称略)
順位戦22年03月 06局○○○○○○(今期5勝,1敗,次 郷田真隆 10/19)
JT杯戦21年11月 02局本戦○○(今期1勝,次 永瀬拓矢 11/03)
竜王戦21年11月 07局タイトル7*○(今期5勝,挑決1早失,次 豊島将之 10/08,09)
銀河戦21年12月 05局本戦○決勝トーナメント○○○○ (次 佐々木勇気 10/14)
王将戦22年02月 11局挑決リーグ○○○○タイトル7*○(今期4勝,次 永瀬拓矢 11/24)
朝日杯22年02月 04局本戦○○○○
NHK杯22年03月 05局本戦○○○○○(次 深浦康市 10/31)
合計 40局(トーナメント全勝、挑決とタイトル戦フルセット勝利)
今期初可能対局数 100局
今期勝ち数計 31勝(勝率 0.838、振り駒勝率 0.473 9:10)
今期負け数計 6敗
今期喪失局数 18喪失(棋戦敗退による対局喪失)
今期早失局数 5早失(番勝負早期決着による対局喪失)
今期防衛・奪取棋戦:
棋聖戦21年07月 棋聖防衛 対渡辺明 (今期3勝,2早失)
王位戦21年08月 王位防衛 対豊島将之(今期4勝,1敗,2早失)
叡王戦21年09月 叡王奪取 対豊島将之(今期8勝,2敗)
今期敗退棋戦:
王座戦21年10月 本戦1回戦●×××タイトル5*×(今期1敗、8喪失)
棋王戦22年03月 本戦●×××挑決2*×タイトル5*×(今期1勝,1敗、10喪失)
今期対戦結果:
2021/04/09 ○ 広瀬章人 叡王戦 八段戦 決勝 (先手 相掛り)
2021/04/16 ○ 八代弥 竜王戦 2組 ランキング戦 決勝(先手 矢倉)
2021/05/06 ● 深浦康市 王座戦 本戦 1回戦(後手 矢倉)
2021/05/13 ○ 三浦弘行 順位戦 B級 1組 1回戦(先手 横歩取り)
2021/05/17 ○ 行方尚史 叡王戦 本戦 1回戦(後手 矢倉)
2021/05/31 ○ 永瀬拓矢 叡王戦 本戦 2回戦(後手 雁木)
2021/06/03 ● 稲葉陽 順位戦 B級 1組 2回戦(後手 角換わり)
2021/06/06 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 1回戦(後手 相掛り)
2021/06/13 ○ 屋敷伸之 順位戦 B級 1組 3回戦(後手 相掛り)
2021/06/18 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 2回戦(先手 相掛り)
2021/06/22 ○ 丸山忠久 叡王戦 本戦 準決勝(先手 一手損角換わり)
2021/06/26 ○ 斎藤慎太郎叡王戦 本戦 決勝(後手 角換わり)
2021/06/30 ● 豊島将之 王位戦 タイトル戦 1回戦(先手 相掛り)
2021/07/03 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 3回戦(後手 矢倉)
2021/07/06 ○ 久保利明 順位戦 B級 1組 4回戦(先手 四間飛車)
2021/07/10 ○ 山崎隆之 竜王戦 本戦 準々決勝(後手 相掛り)
2021/07/14 ○ 豊島将之 王位戦 タイトル戦 2回戦(後手 角換わり)
2021/07/22 ○ 豊島将之 王位戦 タイトル戦 3回戦(先手 角換わり)
2021/07/25 ○ 豊島将之 叡王戦 タイトル戦 1回戦(先手 角換わり)
2021/07/30 ○ 石田直裕 王将戦 二次予選 2回戦(先手 相掛り)
2021/08/03 ● 豊島将之 叡王戦 タイトル戦 2回戦(後手 角換わり)
2021/08/06 ○ 八代弥 竜王戦 本戦 準決勝(後手 矢倉)
2021/08/09 ○ 豊島将之 叡王戦 タイトル戦 3回戦(先手 角換わり)
2021/08/12 ○ 永瀬拓矢 竜王戦 挑戦者決定戦 1回戦(後手 三間飛車)
2021/08/16 ○ 稲葉陽 王将戦 二次予選 決勝(後手 角換わり)
2021/08/19 ○ 豊島将之 王位戦 タイトル戦 4回戦(後手 相掛り)
2021/08/22 ● 豊島将之 叡王戦 タイトル戦 4回戦(後手 相掛り)
2021/08/25 ○ 豊島将之 王位戦 タイトル戦 5回戦(先手 相掛り)
2021/08/30 ○ 永瀬拓矢 竜王戦 挑戦者決定戦 2回戦(先手 相掛り)
2021/09/02 ○ 斎藤明日斗棋王戦 本戦 2回戦(先手 相掛り)
2021/09/13 ○ 豊島将之 叡王戦 タイトル戦 5回戦(先手 相掛り)
2021/09/17 ● 斎藤慎太郎棋王戦 本戦 3回戦(後手 角換わり)
2021/09/20 ○ 木村一基 順位戦 B級 1組 5回戦(先手 相掛り)
2021/09/25 ○ 千田翔太 JT杯戦 本戦 2回戦(先手 相掛り)
2021/09/27 ○ 糸谷哲郎 王将戦 決勝リーグ 1回戦(後手 角換わり)
2021/09/30 ○ 横山泰明 順位戦 B級 1組 6回戦(後手 相掛り)
2021/10/04 ○ 広瀬章人 王将戦 決勝リーグ 2回戦(先手 相掛り)