
藤井二冠、竜王を搾り切った他
王位タイトル戦第二局を観るまでは、将棋における逆転の展開は苦しくなってから熟慮を重ねて相手に決め手を与えない指し方を続けて行き、相手の悪手や緩い手を咎めて逆転するのかと考えていました。
しかし特に藤井二冠の場合はそうじゃないんですね。
例えば昨日の将棋など5四角と手持ちの角を打った辺りから、形勢の行く末を推測して「搾り」の準備に入り様々なストーリーを綿密に検討し始めていたのではと推測します。
”搾り”とは、高橋九段が昨日の将棋を
「先手がいけそうだなと思いながら、具体的な手順としては難しい。そんな将棋でした。いけそうでいけない、勝てそうで勝ち切れない。豊島竜王はそのような誤算を感じていたはずです。」
と評していますが、まさにその状況に相手を追い込むことです。
相手の選択肢を最善の手を指さないと逆転される難解な局面に「搾りこむ」、常に相手を迷わせプレッシャーを与え続けるわけです。
これには相当なスパンと量の読みが必要とされます。だから藤井二冠が得意とする分野なんです。
豊島竜王が55手目に4六角と打ち、それに対して藤井二冠が再度5四角と引いた時点で評価値はまだ豊島竜王が有利でしたが、藤井二冠としては「搾りの態勢が整った!」と感じていたはずです。
事実その時34分の考慮時間を使用した後、30分以上の時間を一手に費やした指し手はありませんでした。つまり藤井二冠は予定のストーリーズ(複数)の範囲内で豊島竜王を搾り切ったんです。
局後の検討で豊島竜王の疑問手や悪手を指摘されていますが、それは「搾り」の圧力から半ば必然的に生じたものであり、それが無くても第二、第三、と際限なく続く搾りに抗しえるとはとても思えません。
ただ、豊島竜王に一つ不運だったのは第一局での圧勝でした。不利な状況の中で為すところなく敗れ去った藤井二冠の残像が頭の中にありありと・・・。
ところが今回の第二局は一時7:3ぐらい形勢が開いていたにも関わらず、これほど頑強な抵抗と「搾りの圧力」を受けるとは予想していなかったのではないでしょうか。
これまで藤井二冠との対局で豊島竜王が形勢が良くなってから逆転された将棋は一局もありません。朝日杯での対局も藤井二冠が優勢の局面をミスから豊島竜王に逆転を許し、その直後に豊島竜王にもミスが出て勝負がついたものでした。これほど綿密に練られた搾りを受けてひっくり返されたのは初めてのことです。
豊島竜王も「渡辺名人がやられたのは、これだな!」と痛感したことでしょう。
さて、これで番勝負は一勝一敗の五分に戻りました。次局は藤井二冠の先手です。それにどう豊島竜王が対応するか?まさに五番勝負の初戦の様子を呈しています。両者のさらなる健闘を期待しています。
2021年度可能対局数残: 73局 7/15現在(敬称略)
順位戦22年03月 08局○○○○○○○○(今期既3勝,1敗,次 木村一基 9/16)
王位戦21年08月 05局タイトル5*○(今期既1勝,1敗,次 豊島将之 7/21,22)
叡王戦21年08月 05局タイトル5*○(今期既5勝,次 豊島将之 7/25)
JT杯戦21年11月 03局本戦○○○(次 羽生or千田 9/25)
竜王戦21年11月 11局本戦○挑決3*○タイトル7*○(今期既2勝,次 久保or八代 未定)
銀河戦21年12月 05局本戦○決勝トーナメント○○○○
王将戦22年02月 15局二次○○挑決リーグ○○○○○○タイトル7*○(次 石田直裕 7/30)
朝日杯22年02月 04局本戦○○○○
NHK杯22年03月 05局本戦○○○○○(次 深浦康市 未定)
棋王戦22年03月 12局本戦○○○○○挑決2*○タイトル5*○(次 斎藤明日斗 未定)
合計 73局(トーナメント全勝、挑決とタイトル戦フルセット勝利)
今期初可能対局数 100局
今期既勝数計 14勝(勝率 0.824、振り駒勝率 0.400 4:6)
今期負け数計 3敗
今期喪失局数 8喪失
今期早失局数 2早失
今期防衛棋戦:
棋聖戦21年07月 棋聖位防衛 対渡辺明 (今期3勝,2*△番勝負早期決着による対局喪失)
今期敗退棋戦:
王座戦21年10月 本戦1回戦●×××タイトル5*×(今期1敗、8*×敗退による対局喪失)
今期対戦結果:
2021/04/09 ○ 広瀬章人 叡王戦 八段戦 決勝 (先手 相掛り)
2021/04/16 ○ 八代弥 竜王戦 2組 ランキング戦 決勝(先手 矢倉)
2021/05/06 ● 深浦康市 王座戦 本戦 1回戦(後手 矢倉)
2021/05/13 ○ 三浦弘行 順位戦 B級 1組 1回戦(先手 横歩取り)
2021/05/17 ○ 行方尚史 叡王戦 本戦 1回戦(後手 矢倉)
2021/05/31 ○ 永瀬拓矢 叡王戦 本戦 2回戦(後手 雁木)
2021/06/03 ● 稲葉陽 順位戦 B級 1組 2回戦(後手 角換わり)
2021/06/06 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 1回戦(後手 相掛り)
2021/06/13 ○ 屋敷伸之 順位戦 B級 1組 3回戦(後手 相掛り)
2021/06/18 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 2回戦(先手 相掛り)
2021/06/22 ○ 丸山忠久 叡王戦 本戦 準決勝(先手 一手損角換わり)
2021/06/26 ○ 斎藤慎太郎叡王戦 本戦 決勝(後手 角換わり)
2021/06/30 ● 豊島将之 王位戦 タイトル戦 1回戦(先手 相掛り)
2021/07/03 ○ 渡辺明 棋聖戦 タイトル戦 3回戦(後手 矢倉)
2021/07/06 ○ 久保利明 順位戦 B級 1組 4回戦(先手 四間飛車)
2021/07/10 ○ 山崎隆之 竜王戦 本戦 準々決勝(後手 相掛り)
2021/07/14 ○ 豊島将之 王位戦 タイトル戦 2回戦(後手 角換わり)