甘夏の肉離れ(裏お題) 毎週ショートショートnote
その昔
豊後の片田舎に美しい娘がいると評判になりました。
切れ長の細い目
ふっくらとした頬
典型的な日本美人でございました。
その名を川野夏橙
娘はその甘い声で
世の男どもを虜にしておりました。
とある小料理屋で働き始めますと
店前に長蛇の列
近所から苦情が出るほどでございます。
もともと旨い魚料理を出す店として知られ
色白の若い店主は
近所の若い娘たちが憧れる存在でございましたので
川野夏橙がこの店で働き始めますと
二人は恋仲だとの噂が絶えませんでした。
しかし突然
流行り病で店主が他界しますと
新しい板前が引き継ぐことになりました。
この板前は新し物好きで
魚中心から肉中心のお品書きに変えてしまい
亡くなった店主の作る魚料理が好きだった川野夏橙は
いい顔をいたしませんでした。
そんな折
新しい店主が彫りの深い顔立ちの娘を連れてまいりました。
その名は西野檸檬
その娘が魚より肉を好むと知った川野夏橙は
とうとう
「肉料理」
と書かれた暖簾を後にしたのでございました。
=完=
甘夏は大分県(豊後)の川野氏の農園で1935年に発見した夏橙の変種です。
別名は川野夏橙(カワノナツダイダイ)
爽やかな夏の柑橘ですが
肉料理には檸檬かなぁ?
特に塩タンには檸檬!と思いつき
出来上がった作品です。
たらはかに(田原にか)さんの
毎週ショートショートnoteに参加しています。
初めての裏お題挑戦です。
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