洞窟の奥はお子様ランチ #毎週ショートショートnote
チーン
「さっ、解凍が終わったらお料理しなくっちゃ!」
そう言うや否や台所へと立ち上がった妻。
手際よく食器棚から息子が使っていたお子様ランチ用のプレートを取り出し、
電子レンジの扉を開いた。
「なぜ?何も入ってない。」
彼女は、庫内に手を入れ見えない材料を探し続ける。
十三年前
私は妻と一人息子の昇を連れて、ある有名なキャンプ場に来ていた。
傍には川が流れ、山々は新緑の眩しい季節。
余りの好天に心が緩んでいたのかもしれない。
「遠くに行っちゃだめだよ。」
と川に向かう息子の背に声をかけたのが最後となってしまった。
あの日以来、暗く沈んだ妻の眼に年に一度だけ明かりが灯る日がある。
そして今日は息子の十三回忌
チーン
お坊様の鳴らす鉦吾(しょうご)の音に
「さっ、解凍が終わったらお料理しなくっちゃ!」
一瞬、表情に生気が戻ったのもつかの間
今年も、妻が声を発した。
「なぜ?何も入ってない。」
この日しか開けることのない
まるで洞窟のような庫内に向けて。
― 終 ―
お題の言葉を直接使わない初めての作品となりました。
それにしても、こんな悲しいものが思い浮かんだのは何故なのか?
ホントは最後を「オチ」で明るく締めたいのに、暗い方へ暗い方へとなってしまいました。
冒険小説風でもないので、今回はお蔵入りも考えましたが、せっかく出来上がったので投稿することに。
やはり、先週のお題と言い今週のお題も、ジジイには難しすぎます。
たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」にゆる~い気持ちで参加しています。
https://note.com/tarahakani/n/n1bd8b5da113d