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Link月明りの下で

私は、また旅に出た。
とっくに桜の季節も終わり、水もぬるんでいる。
出発は人目を避け、日が沈んだ後を選んだ。
 
住み慣れた場所を、一時的とはいえ離れることは寂しいものだ。
途中、車の光に照らされ思わず身を潜めた。
「ポチャん」
光に驚いたカエルだろうか、何かが水面みなもをせわしく移動した。
いつもなら追いかけてしまうのだが・・・。
 
車が通りすぎると、あたりは静寂に包まれた。
 
用水路沿いに行くと懐かしい香りがする。
1年ぶりでも体が匂いを覚えているようだ。
コンクリートの門をすり抜けると、柔らかい土の感触が伝わってくる。
 
林の中に月の光が差し込み「ゆらり」となまめかしく影が動いた。
彼女だ!
私は、急いで後を追った。
 
やがて、月の光に照らされた早苗が揺らぐ水田に
「パシャリ」
 
水しぶきを上げながら、私は放卵直後の彼女にすり寄り放精した。
新しい命を繋ぐために。

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