
辺境人の時間 #1
ボクは、辺境人(マージナルマン)が大好きだ。遠い昔から、自分自身が、辺境人でもあると思っている。仕事や遊び、どこかに属していても、メインストリームにいない気がする。でも、それでよい。いやその方がよい。だって、辺境から見える地平の方が、より遠く未来を指し示すような気がするから。辺境人こそが、イノベーターにもっとも近い人だと思っているから。
【marginal man】互いに異質な二つの社会・文化集団の境界に位置し、その両方の影響を受けながら、いずれにも完全に帰属できない人間のこと。社会的には被差別者、思想においては創造的人間となりうる。境界人。周辺人。(Weblio辞書より)
【在りし日のボクに捧げるサイドストーリー】
高校生たちの他愛もない戯れだったと思う。クラスメートたちと放課後、近所の空き地に集まった。その数、男子21、女子20。何かしらのメインイベント(卒業前の茶話会的なことをファミレスのような場所でやったのだ)が終わった後、その場を惜しむかのようにその空き地までぞろぞろと流れてきたのだ。
何をするでもなく、その集団は、しばし群れていたのだが、誰かが「カップリングゲーム」をしようと言い出す。それは、先に男子が一列に横並びし、女子がそこから男子を指名し、その横に並ぶという、ただそれだけの遊び。つまり最後は、20組のカップルと余りが1になるというゲーム。
《ルール》男子に、拒否権はない。女子は、先に指名された男子を重複指名はできないし、パスもできない。
なぜそんなゲームすることになったか、その流れは覚えていない。全員がやりたかったわけでもなかろう。卒業を間近に控え、異性への意識が織りなす、高揚感やセンチメンタルが、多少なりとも引き金になったとは思う。
なぜ?いま?これ?そんな違和感を持ちつつも、誰一人止めようと言い出せるわけでもなく、その場にいた全員が巨大な空気に飲み込まれていたように思う。気乗りがしないボクは男子列の一番端っこに並んだ。
襲って来たのは、自分が《余り1》になるのではないかという漠然とした恐怖と不安。いやいやそんなことはないはずだ。たしかにボクは、ハンサムではないし、運動も苦手だけれど、でも勉強の成績はかなり上位だし、性格もやさしい。おまけに、生徒会にだって選ばれたりもしているんだ。だから、少なくと〇〇や▲▲よりは先に指名されるはず、と自分に言い聞かせる。
でも怖い。恐怖、不安、恐怖、不安。
派手めの女子が、ハンサムくんやスポーツ万能くんをわれ先にとゲットしていくので、他の女子にとっても究極の選択ゲームだったかもしれない。しかしこのゲームは途中で降りることを許してはくれない。
日はとうに傾き始めている。残る男子の数が、ひとりひとりと減っていく。そして、ボクの指名はまだない。やんややんやとはやし立てる声。すでにカップルになった男女の群れが見せる余裕と嘲笑の眼差し。それを見て、恐怖と不安が増幅する。と同時に、まだ大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。
後半に突入すると、女子も周りの雰囲気を読みながら、自身の意志とは別に、男子を指名しているようにさえ感じる。ボクは、早く終わってほしいと心から願い始める。これはもうほとんど、なにかのイニシエーション(通過儀式)なのだ。そのカウントダウンはエンディングへと近づいて行く。
5人,4人,3人,2人,そして…。
あたり一面は、灯りもほとんどなく、お互いの顔がかすかに判別できるかどうかの時間。そして、ボクは、生贄として暗闇に差し出された。
(了)
いいなと思ったら応援しよう!
