#8 グルコース(ブドウ糖)を還元剤として藍の生葉で木綿を染めてみた
1.はじめに
タデアイが育ってきて、藍の生葉染めの季節になった。生葉染めは生の葉が収穫できる夏ならではの方法なので、ぜひこの季節にやってみたい。
記事#4では乾燥藍葉を染料として、一般に使われてはいるが人体への刺激性がある化学薬品のハイドロの代わりに、より安全なグルコース(ブドウ糖)で藍を建てる(還元する)ことを試みた。
今回は藍の生葉を染料として使い、グルコース建てができるか試してみた。
2.試験方法
2.1.準備物
染料:タデアイ生葉
布:無処理の木綿晒 各約4cm角
還元剤:グルコース(ブドウ糖)
アルカリ剤:水酸化カルシウム(消石灰)
ブドウ糖はヒトの体内でエネルギー源になっている安全な物質で、還元作用があり、pHが高い方が還元力が高い。消石灰は園芸資材やこんにゃくの製造にも使われている自然由来のものであるが、強アルカリなので目に入ると失明の恐れがあり取り扱いには注意が必要である。前者は健康食品として薬局などで、後者は園芸店などで販売されており、それぞれインターネットでも購入可能。
文献1)の最適条件を参考に、より簡略化して、タデアイ生葉50g/Lに対し、グルコース15g/L、消石灰15g/Lを基本量とした。
2.2.手順
タデアイ生葉 50gと、水 500mLをミキサーに30秒ほどかけ、布で漉して絞り、生葉の「ジュース」を作る。
1の「ジュース」に水500mLを加え、そこに消石灰15gを加えて5分ほど撹拌し、沈殿は残るができるだけ溶かす。
2にグルコース15gを加えて5分ほど撹拌し、よく溶かす。
そのまま所定時間放置した後、試験布を入れて5分間染色する。
水の中に試験布を入れ酸化して発色させ、水洗いして乾かす。
3.結果と考察
※数字(Z2の2など)はグルコース投入からの経過時間
m :分
数字のみ:時間
d :日
写真1(Z)では開始2~8時間くらいに染着量の山がありそうだったので、Z'では1時間くらいの間隔で詳しく調べてみた。ZとZ'は、それぞれ一つの試料液で時間を追って布片を染めたものである。
Z’ではZほどはっきりした染着量の山が見えず、Zで最も濃く染まった8時間後には染着量が下がり始めているように見える。
2については、一つの液で何度も布片を染めると、どうしてもそのたびに撹拌されて酸化が進み、本来の染色力の変化を正しくとらえられなかったのではないかと考える。
乾燥した藍葉の場合には、既に乾燥の過程で細胞が壊れ、藍葉の中のインジカンが酵素によってインドキシルになり、それが酸化されて葉の中で青色の不溶性色素インジゴになっている。そのインジゴを還元して水溶性のロイコインジゴに変えるところから操作を行ない、布に付着させたロイコインジゴを再び酸化してインジゴとして発色させる。
それに対し生葉染めの場合は、葉の中のインジカンを酵素でインドキシルにするところから行うので、実際に確かめないと本当にできるかどうかわからなかったが、実験的には染色が可能であることがわかった。測定した染色液のpHは11.5~12.0の間であり、これは文献2)で試薬のインジゴに対する試験から「pH11.5から12の条件でも、グルコースのみによって発酵建てと同程度の濃さに染色することができた」としていることと矛盾しない。
今回は小さい布片を用いたが、次はもっと実用に近い形で検証してみたい。
4.参考文献
1) 杉谷あつ子:比較的安全な薬剤を用いた藍化学建ての検討、滋賀県立大学卒業研究論文、指導教員:道明美保子、2014.2.4
2) 牛田智、松尾美恵:グルコースによるインジゴの還元、日本家政学会誌、VOL.42 No.1、61-65(1991)
3) 牛田智:藍染めを化学の視点から、化学と教育 64 巻 8 号 406(2016)
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