岸田さんのアンサー

岸田奈美さんのnoteが好きだ。
面白くて正直で優しくて、かつ、内側からねじりだされるような、感情のとんでもない深みに潜っていって採ってきましたあああ! みたいな宝物がホイッと並んでいる感。

今回のこのエッセイ*は、「あの出来事」の、アンサーなのではないかと思った。

出来事は、ひとりひとりの心に問いというかたちで爪痕を残す。
そして、傷が癒えるように、その問いには、アンサーが生まれる。その人なりの。
自分のアンサーが、ほかの人とは違っていて、それが苦しかったり、誰にも言えなかったり、言ったら炎上しちゃったなんてこともある。小さな傷は、それほど痛まないから、決めつけや忘却という方法でアンサーとしてしまうこともよくあることだ。

生傷が癒える時間がそれぞれなように、アンサーが生まれるタイミングも、生まれ方も、様々だ。アンサーが見つからないまま、長く長く、ゲルゲルと膿んで痛み続けたり、痛すぎてどこが痛いのかもわからなくなってしまったり。

そして、誰かのアンサーが、ずっと治らなかった自分の傷にぴったりと寄り添って、癒してくれることもある。

岸田さんが自身の海を深く深く潜って、彼女の人生すべてが降り積もった海底でみつけたアンサーは、たくさんの人の持つ問いに、勇気や希望を指し示すことになると思う。その宝物は、「正しさ」の持つ強さとは違って、主語は「私」と「私の家族」でしかなくて、だからすごく小さくて控えめで、正しさの燃えるような熱さに比べたら人肌くらいの暖かさしかなくて、でも、だからこそ誰の掌の上にも載るんじゃないか。

どちらも間違っていないのに、なぜ間違っていないということ自体が、お互いを傷つけることになってしまうのか。コロナにしても原発にしても政治にしても戦争にしてもあの出来事にしても、片方ともう片方の間でひとことも言葉を発せられなくなってしまう自分に、岸田さんのアンサーはとても沁み込んだ。

特に、終盤の、ワンメーターガール伝説についての流れが最高だ。岸田さんにしか書けない、「なんで毎回そんな面白おかしな(面白くないことも含む)ことに出会うの」という驚きからちょっとした種明かしが入りの、最後に一番伝えたい、そして伝えにくい、小さな小さなひとりの人間の思い・祈りが、さりげなく配置される、ドライブ感あふれる構成が素晴らしい。この構成こそが、彼女の文章の優しさ、受け取りやすさを形作っていると思う。


……ちなみに、漫画『3月のライオン』とのコラボでBUMP OF CHICKENさんが書き下ろした『ファイター』という名曲があるのですが、それに続いて約2年後にアニメ版2期のためにもう一曲書き下ろしたのが『アンサー』という曲です。『ファイター』という曲へのアンサーでもあり、3月のライオンという作品に触れての彼らが出したアンサーでもあり、これまでの自分達の人生=作品へのアンサーでもある、誠実でせつなくて優しい曲です。漫画の中でも、主人公たちがもがきながら懸命に見つけ出すアンサーと、そのアンサーが他の誰かの支えになっていく過程が描かれていきます。今回の投稿のきっかけになった作品達としてご紹介でした。

最後に、こちらの記事*もご紹介。心から絞りだしたそのままの言葉が並ぶ、自問自答のような語りかけるような文です。こういうところも魅力と思う。

*……一部有料記事です

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