秋の静かな足音
気が付けば夏の猛暑がいつの間にか過ぎ去り、このごろはすっかり秋めいてきた。街路樹の葉は少し黄や赤に色づき、ひらひらと風に舞っては静かに地面に降り積もる。その光景を見ていると、時の流れというものがいかに穏やかで、それでいて容赦ないものかを感じさせられる。振り返れば、僕たちは常にそうやって時間に取り残されている。夏が来て、暑さに汗をかいていたあの頃も、まるで別の人生の出来事だったかのように遠く感じられるのだ。
僕の住んでいるマンションの隣には、小さな公園がある。その公園にはベンチが三つと滑り台が一つだけ置かれているだけで、特別なものは何もない。でも、この季節になるとその公園は一変する。朝の冷え込む空気の中で、老夫婦が静かに散歩している姿が見られるし、時折小さな子どもたちが赤いボールを追いかけて遊んでいる。彼らの笑い声が澄んだ空気を突き抜けるように響く。その声を聞くたびに、僕はふと足を止めて立ち止まり、自分がどこに向かっているのかを考える。
この秋の空はどこか懐かしさを感じさせる。まるで遠い昔に見た空とつながっているような気がするのだ。あの頃の僕は何をしていただろう?どんな未来を思い描いていただろう?答えを探そうとしても、記憶は曖昧でぼんやりとしている。でもそれでいいのかもしれない。過去はいつだって曖昧で、現実をどこか夢のように感じさせるからだ。それに比べれば、今僕がここに立っているこの瞬間の方がはるかに確かで、風の匂いや木々のざわめきが肌に伝わってくる。
そのうち、太陽が西の空に沈みかけ、長い影が地面に伸びる。そろそろ帰る時間だ、と僕は思う。何処に帰るのか?それはもちろん、あのいつもの静かな部屋だ。