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静寂の中で待つ

台風10号は、まるで気まぐれな猫のように日本列島の周りをうろついている。その動きは、予測不能な一匹の猫が廊下の隅で尻尾をゆらゆらさせながら、次にどこへ向かうかを考えているかのようだ。しかし、ここではまだその気配を感じることはない。風もなく、雨も降っていない。ただ、空気がいつもより少し重く感じられるだけだ。静かな時間が、この場所を覆っている。

台風がゆっくりとした速度で進むたびに、僕たちはその爪痕がどこに残されるのかを案じてしまうが、今はまだその兆候は見えない。人々の暮らしや自然が、その影響を受ける前のこの一瞬、世界はまるで息を潜めているように思える。予報円の南側を通り抜け、日本列島に上陸せずに通り過ぎるのが、最良のシナリオだろう。それは、まるで長いトンネルの出口に差し掛かるかのような安堵感を与えてくれるだろう。だが、今の静けさが続く保証はない。

外の景色は穏やかで、何も変わらないように見えるが、その裏には、いつ嵐が訪れるか分からない不安が潜んでいる。台風がどこへ向かおうと、僕たちはただじっとその行方を見守り、来るべき日に備えるしかない。そして、その時が来るまでは、この静けさを感じながら、ただ待つしかない。台風が過ぎ去り、空が再び晴れ渡るその瞬間を。

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