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静寂のグラウンド

今日も朝、僕は家の近所を散歩した。少し曇りがかった空は、まるで何かが終わった後の静けさを引きずるように、あまりに穏やかだった。近くの中学校を通り過ぎると、昨日の運動会の名残がまだそこに漂っていた。旗が風に揺れている。グランドの端には白線がかすかに残り、疲れた机と椅子が適当に積み重ねられている。いつも元気に駆け回っている生徒たちの姿は見えず、まるで何もなかったかのようにひっそりとしていた。

運動会というのは不思議なものだ。先週にわたって生徒たちは日々練習に打ち込み、その準備は確かに存在感を持って地域の一部になる。校庭から響いてくる掛け声や足音、それに伴う音楽。僕はその賑やかな音の連なりを毎朝聞きながら、いつものルートを歩いていた。それが昨日、ひとつの頂点を迎え、そして今朝にはすっかり影を潜めている。人々の歓声や拍手の音、走り回る子どもたちの姿も、ただ一瞬の記憶として空気に吸い込まれていったようだ。

僕は思った。人生というものも、もしかするとこういうものなのかもしれない。何かに打ち込んで、その瞬間瞬間はかけがえのないものとして燃え上がる。けれど、その熱気が消えた後には静けさだけが残る。そして誰もいないグランドのように、その場所はぽっかりと空っぽに感じられるのだ。それは寂しいことだろうか。それとも、そうやって何かを成し遂げた後の静けさが、むしろ大切な休息のようなものなのだろうか。僕にはまだよく分からない。

今日のグランドには、風だけが吹いていた。木々の葉がさわさわと鳴り、運動会の喧騒を遠く懐かしむように響いていた。僕はその音を耳にしながら、ゆっくりと歩き続けた。そして何かを確かめるように、少し深く息を吸い込んだ。静けさの中には、次に訪れる何かを予感させるものが潜んでいる気がしたからだ。

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