見出し画像

空飛ぶ汽車とサラの夢 第9話

《第7話こちら》
《第8話こちら》

「いいかい、サラ。迷ってるなら、ここに残るんだ。正直、僕にだって不安はあるよ。いつまでかかる旅なのかも分からない 」
「でも、僕は行く。これは僕の夢だから。......サラ、君は君の道を選ぶんだ 」

そう言ったケイは、覚悟を決めた人の顔をしていました。

サラは、とてもとても悲しくなりました。

「連れて行って」って言いたいのに、「行かないで」って言いたいのに。
どちらも言えずに涙だけがこぼれます。両目をぎゅっと閉じてこらえようとしても、こらえようとしても、涙はどんどん溢れてきました。

しゃくりあげるサラを見て、ケイもぎゅっと両目と拳を握りしめました。
何度も、何度も、大きく息を吐いてから、ついにケイが口を開きました。

「今まで僕の夢を応援してくれて、本当にありがとう」
そして、クルッと向きを変えると、森に向かって走って行きました。

サラは、立ち尽くしたまま、ヒック、ヒックと、両目を固くつぶったまま涙を流し、お兄ちゃんが遠ざかって行く足音を聞いていました。

足音が消えた頃、森にはサラの泣き声が大きく大きく響きました。


その日から、ケイのいない日々が始まりました。
朝、森に散歩に行ってもケイはいません。
いつもみたいに小鳥にあいさつをしても、木々の周りをスキップしてみても、全然心が踊りません。学校から帰ってみんなと遊んでも、ケイがいないと、いつもの遊びもひどく退屈に感じます。

2週間くらいが経った頃、みんなで遊んでいると、誰ともなくポツリと言いました。
「ハカセ、今頃どこにいるかなぁ」
「うちのパパが言ってた。 ”旅に出ます。そのうちきっと帰ります” って置き手紙してあったって 」
「すげ〜な〜 」
「そういえば、サラは一緒に行かなかったんだね 」

聞かれてサラは、ドキッとしました。
「う......うん」

「ま、サラはまだちっちゃいし、おっちょこちょいだしな〜」
そう言ってみんなは笑いました。
みんなの笑い声は、サラの耳には聞こえませんでした。

ーーなんで、サラは一緒に行けなかったんだろう?

サラは、お兄ちゃんの夢を心から応援していましたし、自分も一緒に、空に光る玉を見たいと思っていました。それがサラの夢であると思っていたのです。
だからこの2週間、サラの心は後悔でいっぱいでした。
あの時、一緒に行けないと思った時、サラの心には冷たい固い石が転がっていましたが、今はその何倍も大きな、岩のようなザラザラとした感覚が、サラの心を大きく占めています。
なにをしても楽しくないし、なにをしていても、あの時行けなかった自分を責め
てしまいます。
そして、思い出すのは ”お兄ちゃん” のことばかり。
こんなに苦しい思いをするんだったら、一緒に行けばよかった......。

次の日の朝、サラは一人きりで森にいました。
花を見ても、鳥のさえずりを聞いても、サラの心は晴れません。
なにをみても、 ”お兄ちゃん” と見た時のことを思い出して、心がヒリヒリするだけです。
サラは歩きながら、森と一緒に深呼吸をしていました。

「......怖かった」

サラの口からポツリと言葉がこぼれます。


次回へつづく

原作・ 絵 Ayane Iijima 
原案 Mariko Okano


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?