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空飛ぶ汽車とサラの夢 最終話

《第11話こちら》
《第12話こちら》

ソウは、ケイに向かって微笑みました。
そしてまた、視線をサラに戻して言いました。

「本当はね、とっても簡単なことだと思うんだ。僕らみんなが、 ”声” に耳をすませたらいいだけのこと」

ソウの瞳には、サラに向かって光を伸ばしているようで、それでいて、どこまでも深く潜りこんでいけるような、そんな不思議な力がありました。
「 ” 声 ” はいつも、どうしたらいいか知っている。そうだろう?」

「私......」
私には分からないです、と、言葉にしようとしたのに、ソウの瞳の力のせいでしょうか。なんだか分からないでオドオドしている自分が、本当の自分の姿ではないように思えます。

「私......」
「サラの夢はなんだった?」
「それは......村のみんなにも、タイヨウを分かち合うこと」
「どうしたらいいかな?」
「......」

「この汽車を呼んだときのこと、思い出してごらん?あのとき君は、この汽車の呼びかたを ”知って” いなかった?」

「あ......」

ソウは、窓の外に視線を移しました。
「まぁ、力を抜いて、楽しくすごしていたらいいさ 」
ソウは、片隅に置いてあったギターを手に取ると、ジャカジャカと鳴らし、歌い始めました。
汽車の仲間たちも、思い思いにドラムや笛やカスタネットで合わせます。となりのケイもまた、得意のハーモニカを奏でて、サラの方を見つめています。

サラは、初めての青い空、暖かな日差しの中で、今までに感じたことのないのびのびとした気持ちになりました。
そして、いつものように自然に湧き上がってくるに任せて、鼻歌を歌っていました。

か〜ごめかごめ
か〜ごのな〜かのと〜りぃは〜
い〜つ〜い〜つ〜で〜あぁ〜う〜
よ〜あ〜け〜の〜ば〜ん〜に〜
つ〜るとか〜めが〜す〜べぇった〜
うしろのしょうめん だ〜あれ〜

夜明けの晩はいつも今
願った瞬間に訪れる
つるとかめはここにいる
後ろの正面
それはここ
本当の自分の  ” 声 ” が待っている
心のトビラを開いたら
その内側の宇宙に気づく
迷いなどないとしれば
心の雲は晴れていくから
見て この青空
見て このタイヨウ
あたたかな光
無限の色の喜びダンスに
今この瞬間
身を任せよう
わたしたちは
つながっている

サラの歌に合わせて、村にいた頃いつもしていたように、ケイがハーモニカを合わせました。
するとだんだんみんなが二人によりそうようにメロディを重ねて、歌の輪が水の波紋のように、だんだん、だんだん、大きく広がっていきました。

......するとどうでしょう!

汽車の下にある雲の層がだんだん薄くなってきて、ついにはサラたちの住む
村が見えてきました。

「サラ!見てごらん!」

気づいたケイが、声をあげました。
サラが見下ろした窓の外には、もはや雲ひとつありませんでした。

「きっとお母さんは、村の上に誰かがおっきいおっきいブルーシートをかぶせちゃったって勘違いして、物干し竿で空をつつこうとするよ〜」
サラはそう言って、ケラケラ笑いました。

「今頃きっと、村中みんなびっくりして外に出て、ポカンと空を見上げてるぞ 」
ケイが窓の下を眺めながら、つぶやきました。

「森の小鳥さんたちは、びっくりしてるかなぁ。それとも、みんなはタイヨウのこと、知ってたのかなぁ......」

空飛ぶ機関車は、どこまでも青い空を、どこまでも進んでいきます。
心の ” 声 ” が、聞こえる方へと。

サラは、まぶたを閉じて、このぽかぽかな光が降り注ぐ森はどんなにか美しいだろう、と想像しました。

目を開けると、まぶしい光。身体中に流れるのはいつもの森の匂い。
でも、そこにはいつもよりも力強い ”脈” のようなものが感じられました。

周りを見回しても、サラの他に姿は見えません。

ーーお兄ちゃん......

サラは、空を見上げました。
森のざわめき。小鳥のさえずりのはるか向こうに耳をすませます。

ふと胸に手を当てると、そこにはケイのハーモニカがぶらさがっていました。

両手で抱きしめるように見つめて、もう一度また、空を見上げました。
なにかがキラッと一瞬輝いて、胸の内側から汽車のみんなの歌声が聞こえてくるような気がしました。

ーーお兄ちゃん...... 
サラはたくさん、みんなの幸せな ”声” を届けるね。
サラは空に向けて大きく笑顔を作りました。

そのまま光を浴びながら、瞳を閉じて深呼吸を何度か繰り返します。
フゥ〜っと息を吐き切ると、深い青が宿った力強い瞳で、まっすぐ前を見つめます。
次に大きく息を吸いこんで、ケイのハーモニカをぷぅ~っと吹き鳴らすと、でたらめで楽しいメロディがサラからあふれだしてきます。

サラはそのまま、村の方へと歩き出しました。

おわり

原作・ 絵 Ayane Iijima 
原案 Mariko Okano

最後まで読んでくださってありがとうございました。
一人一人の心の曇りが、あなた色の青空に。
世界中の声を光に放ち、無限色の喜びになりますように。

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