空飛ぶ汽車とサラの夢 第12話
「......これが......空!?」
「そう......これが、空」
「......青すぎて、なんにも見えないよ 」
サラがそういうと、みんな笑いました。
「あはは、ホントだ。空って青すぎて、あるんだかなんだかわからないよなぁ 」
「さぁサラ、まだまだ驚くことがあるぞ!」
機関車がゆっくりと向きを変えると、窓に強烈な光が差し込みました。
「きゃ!!」
生まれてはじめての「まぶしい」という感覚に、サラは顔を背けました。
しばらく俯いていましたが、サラは自分の体が明るく光って、そして外から優しくあたためられていることに気がつきました。
目を開けて、両手を体の前で顔に向けて広げ、その初めての感触を確かめました。
そして、もう一度窓の外に目を向けてみます。
静かな青の端っこに、まぶしさの中心があるようです。
少しでも見つめてみようと視線を近づけてみるのですが、あまりの光に圧倒されてしまいます。
そのたびにぎゅっと瞳を閉じては、少しだけまぶたを持ち上げます。まつげの端から、7色の光の糸が光る玉へと続いていました。
「......タイヨウ、と言うんだって」
ケイが言いました。
「タイヨウ......」
しばらくそのまま、光る玉へと続く7色の糸を見つめていたサラが、我にかえったようにケイを見て、叫びました。
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん、すごいね!空飛ぶ光る玉!お兄ちゃんすごいね!!」
サラは、まぶしさを我慢しながら、タイヨウを見ようとしては、まぶたの裏に踊る赤や緑の光の残像を確かめます。
そして「すごいね!すごいね!」とケイやみんなに同意を求めて車内を見回します。
そんなことを何度も繰り返すサラのはしゃいだ様子を、ケイは嬉しそうに見つめています。車内のみんなもそんなサラを微笑ましく見つめながら、ここでは当たり前だった太陽の光を、改めて楽しんでいるようです。
「おいおい、タイヨウをまっすぐ見たらダメだぞ」
笑いながら、ソウが言いました。
しばらく経ってサラの興奮がひと段落すると、ソウがオレンジジュースを片手にやってきました。
「ここ、いいかい?」
サラがコクっとうなずくと、ソウは隣に腰をおろしてオレンジジュースをサラに手渡しました。
「ありがとうございます」
サラがオレンジジュースを飲み干すのを待つようにして、ソウは話し始めました。
「僕たちは、 ”声” に導かれて旅をする。たとえば、あそこに座っているミキの国。太陽はあったが、雨がふらずに人々が苦しんだ。その隣のレイは、戦争に駆り出されて ”人殺しなんてしたくない” と心から願っていた時に、この汽車に乗ってきた 」
「ケイはこの2週間あまり、僕たちと一緒にあちこち回りながら、この世界にあふれる ”声” に耳をすませてきた。な?」
ソウは、ケイに視線を移しました。
「うん。僕にはまだたくさんは聞こえないけれど...... たった2週間で、村にいたら一生気づけないようなことにたくさん出会ったよ。僕は今やっと、いるべき場所にいられている。そんな感じがする」
ちょっとだけ窓の外を見つめて、ケイが続けます。
「村にいた頃は、太陽を見てみてみたいってことしか考えていなかったけれど......どうしてあるところで曇り空が続いたり、あるところで雨が降らなかったりするのか。どうしてある国では食べ物がたくさんあるのに ”死にたい” って ”声” ばかり聞こえて、どうしてある国では食べるものすらなくても ”どうか子どもだけでも助けて” って ”声” が聞こえるのか......もっとちゃんと、すべて整うバランスがあるはずだって、もっとちゃんとみんなで幸せになれるはずだって、思うんだよね 」
ソウは、ケイの話を何度もうなずきながら、黙って聞いていました。サラもまたじっと、ケイの言葉を全身で一生懸命聞きました。
「ケイは十分すぎるペースで、いろんなことに気づいているよ。みんなびっくりしている。そして僕らにとっても、こうして仲間に出逢えるのは、本当に心強いことなんだ。世界はまだまだ変えていくことができるって、そう信じ続けられるからね」
ソウは、ケイに向かって微笑みました。
そしてまた、視線をサラに戻して言いました。
「本当はね、とっても簡単なことだと思うんだ。僕らみんなが、 ”声” に耳をすませたらいいだけのこと」
ソウの瞳には、サラに向かって光を伸ばしているようで、それでいて、どこまでも深く潜りこんでいけるような、そんな不思議な力がありました。
「 ”声” はいつも、どうしたらいいか知っている。そうだろう?」
次回へつづく
原作・ 絵 Ayane Iijima
原案 Mariko Okano