空飛ぶ汽車とサラの夢 第8話
サラはリュックを放り投げると、ご飯を食べているお父さんとお母さんの横を足早に通り抜けて、再び外に出ていきました。
森に向かう途中で、お兄ちゃんに追いつきました。
「なんだ、サラ、早かったね」
お兄ちゃんは、相変わらずとってもワクワクした調子で、大きなリュックを一つ背負っていました。
「お兄ちゃん、あのね......」
「ん?どした? サラ、荷物は?」
「あのね......」
「ん?どした。もうちょっとハッキリ話してくれないか?」
「えっと...... みんな、心配するよ。お父さんとお母さんに、怒られちゃうよ。」
ケイは、まじまじとサラの顔を見ました。
「まぁ、心配はするだろうな。僕はみんなにいつか旅に出るって言っていたし、置き手紙もしてきたから大丈夫だけど。サラも、”お兄ちゃんと一緒だから大丈夫”って、言ったらいいじゃないか。ほら、早く支度をしておいで。あんまり待たせちゃ悪いから 」
サラは、こう早口で言うケイを、なんだかいつもの ”お兄ちゃん” と違う人みたいに感じました。
心がキーンと冷たいのも、ズシンと重いのも、ケイの言葉を聞いてなお、全然変わりませんでした。
「どうした、サラ?行かないのか?行こう!あれほど夢見た日じゃないか!一緒におまじないをしてくれたじゃないか!前に話した通り、サラに一緒にいてほしい。頼むよ、サラ。な 」
「でも・・・知らない人についていっちゃダメだって...... 」
「あの人が危ない人に見えたかい?」
「でも...... 危ないかも...... 」
「ん?」
「ほら、空飛ぶんだし...... 」
「どうした、サラ。いつものサラらしくないじゃないか?」
ケイはもう一度まじまじとサラの顔を見ました。サラが本気で迷っていることにようやく気がついたようです。
「サラ、行こう。来るんだ!後悔するぞ?」
さっきよりも強い調子です。
「...... いや」
「じゃ、僕はもう行くから、サラはここに残るかい?」
「...... いや」
「サラ、頼むよ。だったら行こう 」
「......いや!」
とうとうサラは、泣き出してしまいました。
お兄ちゃんはため息をつくと、サラの両肩に手を乗せて、ゆっくり言いました。
いつものお兄ちゃんの話し方でした。
「いいかい、サラ。迷ってるなら、ここに残るんだ。正直、僕にだって不安はあるよ。いつまでかかる旅なのかも分からない 」
「でも、僕は行く。これは僕の夢だから。......サラ、君は君の道を選ぶんだ 」
そう言ったケイは、覚悟を決めた人の顔をしていました。
サラは、とてもとても悲しくなりました。
「連れて行って」って言いたいのに、「行かないで」って言いたいのに。
どちらも言えずに涙だけがこぼれます。
原作・ 絵 Ayane Iijima
原案 Mariko Okano