空飛ぶ汽車とサラの夢 第4話
次の日、サラは森への散歩に行きませんでした。かわりに向かったのは、家の裏手のニワトリ小屋です。
「ね、今日はサラに卵を分けてちょうだい」
サラは、卵を集めているお母さんに向かってお願いしました。
「お兄ちゃんに、オムレツ作ってあげたいの」
「あらあら、サラ、オムレツなんて作れたかしら?」
「大丈夫だよ!学校でちゃんと習ったもん!」
必死な顔でお願いするサラを見て、お母さんはふっと肩の力を抜いて言いました。
「分かったわ。でも、学校から帰ってきてからね。お母さんもお父さんも畑に出かけているから、くれぐれも火に気をつけること。なにかあったらすぐに知らせに来ること、いいわね?」
「はーい!」
サラはぱっと笑顔になって、卵を3つ、大事に両手で受け取りました。
学校が終わると、サラは教室でみんなに言いました。そうそう、この学校は全部で7人なので、一年生から六年生まで、みんな同じ教室で勉強をしています。
「ごめんねみんな、今日は、一人でやりたいことがあるから先に帰るね 」
サラは急いで教室から出ていきました。
「なんだ?サラのやつ、変なの〜」
他の友達も、ケイもまた不思議そうな顔でサラの背中を眺めましたが、
「ま、いいよ。一人で何かをするのもいいね。今日はみんな、のんびり過ごそうか」
ケイはそう言って、教室を出ていきました。
さて、急いで帰ったサラは、台所にいました。
台に登って手を洗い、ボールを出して、いよいよ朝、お母さんから大事に受け取った卵を割ります。
サラの小さな背中は、ピンと張りつめていました。
コンコンッ、ボールの縁に卵をぶつけて、上手に卵が割れました。
「はぁ、よかった。カラも入らなかった 」
サラは一人でほっと一息つくと、卵をかき混ぜます。
と、その時、誰かがドアをノックしました。
「サラ、いるのかい?入るよ〜」
「お兄ちゃん!どうしたの〜?」
「だってサラ、あんまり急いで帰るから。今日は朝も森にいなかったし、これはなんか企んでるんだと思ってさ。手伝いはいるか?」
「うぅん、でもよかった。実はね、お兄ちゃんにオムレツ作ろうと思ってね。ほら。」
そう言ってサラは、手に持ったボールをお兄ちゃんに見せました。
「今から作るから、ちょっと待ってて」
「おぉ、なんか、どうしたんだ?急に」
ケイは不思議そうにサラを見つめます。
「ま、い〜からい〜から」
サラは、フライパンを出して火をつけました。バターを一切れ落とすと、焦げないようにジッと見つめます。
一人で料理をするのは初めてのことだったので、一つ一つ、すごく力が入ってしまいます。
お兄ちゃんは、ダイニングのいすに腰かけて、サラの緊張した背中を、ちょっぴりハラハラしながらも、優しく見つめていました。
「よし、いまだ!」
バターがジュワッと溶けて、プツプツしてきた頃、サラは卵を流し入れました。
ジュワッといい音がして、卵がフライパンに広がります。
「サラ、料理上手かも?」
そう呟きながら、フライ返しで卵を動かしていきますが......あらら、うまくいきません。卵はすぐに固まってきてしまうし、うまくまとまらないし......。ジタバタしている間に、卵は固まってしまいました。
出来上がったのは、スクランブルエッグ。
「やっぱりサラ、料理もできないや」
しょんぼりしながら、サラは卵を見つめました。
「なんだよ〜、食べれたらいいじゃん!サラが料理作ってくれるなんて、こりゃ天変地異が起こるぞ。......空に光る玉が現れたりして」
お兄ちゃんはそう言って笑いました。
そしてサラが手に持ったスクランブルエッグを見て、ハッとしました。
「......そっか、サラ。僕が光る玉の話をしたから、それで励ましてくれようとしたんだね」
サラは黙ってうなずきました。
「サラ、ほら、せっかく作ったんだしさ、冷めないうちに一緒に食べよう」
ケイがスクランブルエッグの上に、ケチャップでまん丸を描きました。
「うん、記念すべきサラの初めての料理!うまい!......味の決め手は、ケチャップか、いや、オイシクナールの呪文だな!?」
「なにそれ〜?サラ、オイシクナールなんて知らないよ〜」
そういって二人で笑いあいました。
「サラ、ありがとう。元気が出たよ」
ケイが、空になったお皿を置いて言いました。
「僕はね、本気で光る玉を探しに行くよ。そしてサラ、君に一緒に来て欲しい」
原作・ 絵 Ayane Iijima
原案 Mariko Okano