『今朝は俺が早かつたぞ雀』
今朝は俺が早かつたぞ雀。
尾崎放哉の自由律俳句が好きだった僕は、公園や図書館で句集を繰り返し読んだ。不思議なことに、印象的な句は毎回違う。つらつらと斜読みをしていると、不図目の前に情景が立ち現れる句に遭遇する。そして、しばしその情景の中に自分を置き、ぼおっとする。そういう時間が、僕には欠かせないのだ。
深酒をして、静寂の明仄。気絶に近い睡眠が途切れ、僕は布団から身を起こす。便所に行くが、酔いも覚めずカーテンをあける。頭は軋むが、空気は澄んでいて冷たい。
雀の鳴き声は、朝の始まりの合図だった。眠らないことが唯一の反抗であった青い僕は、毎朝雀の鳴き声を聞いてから床に伏していた。思春期の僕は、そういう生き方を選択するしかなかったのだ。
今朝は俺が早かつたぞ雀。大人になるということは、随分と難しい。